日々の恐怖 7月8日 ボロ家
数年前に実家で、甥っ子や姪っ子達とテレビを観てた。
映っていたのは、昔の田舎の家。
「 そういや、うちも昔はこんなお風呂だったよねぇ。」
と俺は言った。
家族全員が何故かきょとんとした顔になった。
「 ほら、まん丸い五右衛門風呂でさ、スノコみたいなの踏んで入るの、覚えてない?」
不思議そうな顔をした妹が言った。
「 兄ちゃん、どこでそんなお風呂入ったの?」
両親も似た様な表情で俺を眺めている。
「 何を言ってるんだお前は?」
「 いやいやいや、この家昔はすげーボロ家だったじゃん。」
じれったくなった俺は、その辺にあったチラシの裏に、間取りをスラスラ描く。
「 ここが凄い狭い廊下で、その先が土間になってて、土間のすぐ横が風呂場で・・・。」
「 ちょっと待て。」
「 ?」
父親が描きかけの空白部分を指差して言った。
「 ここには何があった?」
「 えーと、井戸があって、ポンプが1日中ウンウン言ってた。」
俺は井戸の印に丸を描いて、そこからパイプを家の外に向かって伸ばした。
「 なんか、近所に住んでた鯉飼ってる人の家に売ってたとか・・・・、あれ・・?」
そこで奇妙な感覚に陥る。
スラスラ描けるほどハッキリ覚えていた記憶が、描くそばからほろほろとあやふやになって行く。
「 それ誰に聞いた?」
「 誰って、爺ちゃん・・・、あっ・・・・!」
祖父は自分が生まれる前に他界していた。
「 確かに昔は五右衛門風呂だったし、井戸の水を近所に送ってた。
だけど、お前が生まれた年に建て替えたんだぞ?」
「 えっ?あれっ・・・??」
すっかり描き上がった古い平屋の見取り図は、もう知らない家になっていた。
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