日々の出来事 2月8日 ジョン・フォン・ノイマン
今日は、ジョン・フォン・ノイマンが亡くなった日です。(1957年2月7日)
ジョン・フォン・ノイマンは基本的には数学者ですが、物理学・工学・経済学・計算機科学・気象学・心理学・政治学者と言っても良いと言えます。
ハンガリーに生まれたノイマンは、幼い頃から暗算と語学が得意で、6才で8桁の割り算を行い、ギリシャ語を話し、8才で微分積分を理解し、歴史書44巻をすべて読了、世界史やゲーテの小説などに関しては一字一句間違えず暗唱出来ました。
後のノーベル物理学賞のユージン・ウイグナー(12才)が、ノイマン(11才)に数論の問題が証明出来るかどうかを聞いたとき、ウイグナーの知っている定理を聞き出し、それのみを使って証明を完了しました。
そして、高校生になったノイマンが書いた論文は、ドイツ数学会誌に掲載され、ブダペスト大学の数学者から同僚並みに扱われていました。
また、ノイマンは、意地悪な教授の試験用に準備した”解けない問題”を解いてしまったり、スイス連邦工科大学で数学教授だったジョージ・ポリアが、講義で未解決の問題を解説したら解いてしまうなど驚異的な天才と認められていました。
そして、大学でのノイマンは数学だけではあきたらず、ブダペスト大学とベルリン大学とチューリッヒ工科大学を掛け持ちし、23才で数学・物理・化学の博士号を同時に授与されています。
1926年、ノイマンはゲッティンゲン大学ではダフィット・ヒルベルトに気に入られ師事、そして、1927年から1930年までは最年少でベルリン大学の講師を務めています。
その後、ノイマンはアメリカに移住、1930年にプリンストンに招かれ、プリンストン高等研究所の最年少会員に選ばれました。
このときの4人のメンバーには、アルベルト・アインシュタインとクルト・ゲーデルも含まれています。
ノイマンは1933年以降、この研究所で数学の教授を務めています。
このクルト・ゲーデルは数学基礎論で”完全で無矛盾な公理系は存在しない”と言う”ゲーデルの不完全性定理”を証明しました。
この定理は、数学の無矛盾性の証明を目標としていたダフィット・ヒルベルトのヒルベルト・プログラムに深刻な影響を与え、ノイマンは応用数学の分野に軸足を移します。
そして、ノイマンは数学ではゲーム理論、物理学では量子力学の数学的基礎付け、気象学では数理モデル、経済学ではオスカー・モルゲンシュテルンと共にゲーム理論を導入、計算機科学ではコンピュータの動作原理だあるストアードプログラムを作成します。
これらの業績に対して、核融合の研究でノーベル賞を受賞したハンス・ベーテは、”フォン・ノイマンの頭は常軌を逸している、人間より進んだ生物ではないか”と語りました。
さて、これほどの天才”ジョン・フォン・ノイマン”が、何故、”アルベルト・アインシュタイン”と同程度のメジャーでないのでしょうか?
昔、スタンリー・キューブリックが創作した”博士の異常な愛情”、正確に言うと” 博士の異常な愛情 または 私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか”と言う映画がありました。
この映画のマッドサイエンティスト”ストレンジラヴ博士”のモデルが、ジョン・フォン・ノイマンと言われています。
アメリカ合衆国による原子爆弾開発のためのマンハッタン計画に参加していたノイマンは、核兵器廃絶を訴える団体からは嫌悪の対象として扱われています。
また、ノイマンはソ連が大嫌いで、ソ連への核攻撃を強く主張し、タイム誌のインタビューで、”どうせ明日核爆弾を落とすなら、今日にすればいい”、”5時にするなら、1時にすればいい”と過激に答えました。
この辺りが、どうも怪しい気がします。
ジョン・フォン・ノイマン
☆今日の壺々話
ジョン・フォン・ノイマン君
同級生のノーベル物理学賞受賞者ユージン・ウィグナー
「 どうも、劣等感を感じる・・・・、ううう。」
ノーベル経済学賞受賞者ポール・サミュエルソン
「 論文を”ニュートン以前の数学ではないか”って笑われた・・・、ううう。」
ノーベル経済学賞受賞者ジョン・ナッシュ
「 ナッシュ均衡に関する論文を一瞬見て、”くだらない、不動点定理の応用ではないか”ってバカにするんだ・・・、ううう。」
ノイマン君は、電話帳の適当に開いたページをさっと眺めて、番号の総和を言って遊んでいました。
水爆の効率概算のためにフェルミは大型計算尺で、ファインマンは卓上計算機で、ノイマンは天井を向いて暗算しましたが、ノイマンが最も速く正確な値を出しました。
ENIAC(コンピュータ)との計算勝負で勝ち、”俺の次に頭の良い奴ができた”と喜びました。
そして、ノイマン君は”悪魔の頭脳”、”火星人”と呼ばれていました。
でも、やっぱり、この人はスゴイです!
思い込み
イギリス、ロンドン大学で心理学を教えているA・ファーナム教授の調査によれば、男性は”自分は頭が良い”と思いこみ、逆に女性は”自分は頭が悪い”と思いこんでいることが分かった。
この研究は30にも及ぶ国際的な研究レポートを分析したもので、その中で男性は自分のIQをかなり過大評価する一方で、女性は自分のIQを実際の数値より5ポイント低く過小評価する傾向がみられたという。
なお、男性、女性ともに平均IQはほぼ同一であり、実際に男性の方が頭が良い、女性の方が頭が悪いということはない。
この思いこみは、男性の方が最高峰と最底辺を占める割合が多いことが原因ではないかと考えられており、男性も女性も自分の祖父・父・息子の方が祖母・母・娘より頭が良いと思っていることが分かった。
また、学校の生徒を対象に行われた調査では、頭の良い女子生徒ほど自分は頭が悪いと思いこみ、頭の悪い男子生徒ほど自分は頭が良いと思っていることが分かった。
頭クラクラ
俺が昔住んでたアパートの隣の住人が頭クラクラの40過ぎのおっさんで、夜中にアパートの外廊下をうめき声あげながら歩き回ったり、早朝「アーーーーーーーーーーーー!!!!」とか部屋で叫んだり、とにかくそのおっさんは変だった。
しまいには、夜中俺の部屋の窓をいきなり開けて、目見開いてニヤ~っと笑みを浮かべ ながら「フリダシに戻るぅ~~」とか叫びやがった。
俺はめちゃくちゃびびったのと同時に何故かめちゃくちゃ腹立って、どうにかしてこのおっさんに仕返しがしたくて、俺も頭クラクラなこと言ってビビらせてやろうと思った。
そして俺は「ピーちゃんの星でラーメンむさぼりたいの~~~」みたいなことを言ってやった。
そしたら、おっさん急に冷めた顔になって「お前は冬型の気圧配置だから無理」とか言って、 スタスタどっかに消えた。
マジで腹立ったあれは。
今思い出しても腹立つ。
A君
高校のとき、冬休みになる少し前の数学の授業。
急に腹が痛くなって机の上につっぷしてしたら、先生に、
「 おい、なに寝てるんだ!」
と怒られて、
「 罰としてこの問題解いてこい。
年明けの授業まで待ってやる。」
と言われた。
その問題がとても難しく、手の付けようもなかった。
正月、あまり話したこともない、頭の良いA君から年賀状が来た。
しかも2枚!
そこには、数学の解答がぎっしりと書かれていた。
2枚目の終わりに、つけたしたみたいな小さな文字で、
『 これ黒板に書いといてやれ。
あけましておめでとう。』
とあった。
年明けの数学の時間に、A君の解答を黒板いっぱいに書いた。
先生は、まさか本当に書くと思っていなかったのか、すごく驚いていたが、解答にマルをくれた。
授業後に、A君にお礼を言うと、
「 うわ、いや、ゴメン、勝手に住所とか調べて……。」
と、なぜかあせっていた。
どうも、話すのは苦手らしい。
ありがとう、A君。
天才バカボン
天才バカボンの中のある話が未だに怖い。
パパがある家に招待される。
そこには何故か片腕しか見せない3人家族がいる。
その家族と何の疑問もなく話をしていたパパだが、だんだん腕しか見せないことに疑問を持ち始める。
腕を出していた場所に行っても姿がなく、別の場所からまた腕だけだすことを繰り返している。
そんなこんなで食事になるが、やはり家族はパパから離れた場所で揃って食事を開始。
シビレを切らしたパパが飛びかかると、テーブルの上のコンロがひっくり返り火災発生。
逃げろ!と叫ぶパパ。
しかし家族は慌てるだけで姿を見せない。
もうダメだと思ったパパは先に脱出。
家は全焼し、家族の姿は結局見えなかった。
パパは家に帰り、その火事のニュースをテレビで見てギョっとする。
火災現場からは親子3人分のものと思われる大人と子供の腕の骨3本しか発見されなかった。
パパ、ゾっとしてオシマイ。
この話、小さい頃に放送で見て以来いまでも怖くて仕方がない。
お話”地蔵の頭” (長編)
数年前の話になる。
僕らは当時大学三年生だった。
季節は夏。
大学の食堂で三人、昼飯を食べていた時だ。
「 なあ、お前ら”首あり地蔵”って知ってるか?」
怪談好きなKが雑談の、ふとした合間に話しだしたのが、そもそもの始まりだった。
「 首あり地蔵ってお前、そりゃ普通のお地蔵様だろ。」
僕の隣に座って味噌汁をのんでいたSが馬鹿にしたように言う。
KとSと僕。
Kはカレーの大盛りでSはシャケ定食で僕は醤油ラーメン。
いつものメニュー、いつものメンバーだった。
でも確かに”首なし地蔵”だったならば、はっきりとは思い出せないが、何かの怪談話で聞いたことがあるかもしれない。
話のネタにもなるだろう。
しかし、Kは”首あり地蔵”と言ったのだ。
Sの言う通り、それは首のある普通のお地蔵様だ。
「 ちげぇんだよ。
あのな、その地蔵の周りにはもう五体地蔵があってな。
“首あり地蔵”の一体以外は全部頭がねえんだってよ。」
なるほど。
だから”首あり地蔵”か。
僕はその様子を想像してみた。
六体の地蔵の内、一体だけにしか首が無い。
「 ねえ、何でそうなってんの?」
「 それがな、その一体だけ首のある地蔵が、他の地蔵の首をチョンパしたっつう話なんだよ、これが。」
そう言ってKは舌を出し、スプーンで自分の首を掻っ切る仕草をした。
「 でも、そんなことして、地蔵に何の得があるんだよ。」
「 さあ? 知らねえよ。
お供えモン独り占めしたかったとかじゃね?」
Kがそう答えると、Sが、ごほっごほっ、と咳をした。
それからポケットティッシュを取り出し口元を拭うと、
「 馬鹿野郎、喉につかえたじゃねーか。」
「 何だよ、俺のせいかよ。」
不満げなKに、お前のせいだよ、とSが言う。
僕はというと、その地蔵に少し興味を抱き始めていた。
「 で、Kさあ。
その首あり地蔵については、他になんかないの?」
「 ああ、あるぞ。
なんてったって、”首あり地蔵”は人を襲う。」
その瞬間、再びSが咳き込んだ。
「 夜な夜な動き出してさ、人の首を刈り取って来るらしいぜ?
『要らん首無いか……要らん首無いか』ってぶつぶつ言いながら。
寺の回りを徘徊してんだとよ。」
「 もうやめてくれ、今の俺は呼吸困難だ。」
Sは、咳き込んだせいか涙目になっていた。
「 何だよS。
ロマンがねーな。
俺の話が信じられねーのかよ。」
「 何がロマンだボケ。
K、お前、すぐにでもその地蔵に謝ってこい。」
「 それだって!」
と、Kが大声を出したので、僕は驚いた拍子にむせたら、ラーメンの切れ端が鼻から出てきた。
久しぶりだこんなこと。
「 今日の夜、行こうぜ。
確かめるんだよ、俺たちで。
噂が嘘なら何ぼでも謝ってやるからよ。」
Kが言う。
Sは呆れたように天井を見上げた。
また始まった、と思ってるんだろう。
Kは、そういうスポットに行くことを好む、所謂肝試し好きなのだ。
今までだって、Kが発案し、僕が賛成し、Sが引っ張られる形でそういういわく付きの場所に足を運んだことが何度もある。
「 んじゃあ、今日の夜は首あり地蔵で肝試しってことで、決まりな。」
Kが強引に話を進める。
Sが救いを求めるように僕の方を見た。
僕はラーメンをすすりながらSに向けてニンマリ笑って見せる。
Sは半笑いのまま力なく項垂れ、黙って首を横に振った。
「 というか、その地蔵近くにあるのかよ?」
「 おう、○○寺ってとこ。」
その名前を聞いた時、うなだれていたSの首が少し上がり、眉毛がピクリと動いた。
そうしてから、隣に居た僕くらいにしか聞こえない程の声で、
「 そうか、○○寺か・・・・。」
と呟いた。
僕は一体何だろうと思ったのだが、あいにくその時は口の中一杯にラーメンが詰まっていたので、それを聞くことは出来なかった。
その後は聞くタイミングを掴めぬまま、あれよあれよと言う間に具体的な集合場所と時間が決定した。
こういうときのKの手際の良さはすさまじいものがある。
但し、普段はまるで発揮されないのが痛いところだ。
こうして、僕らはその日、○○寺の首あり地蔵の元へと、足を運ぶことになったのだ。
夜中、僕らはそれぞれ個別に、○○寺がある山のふもとで集合ということになっていた。
○○寺は、僕ら住む街を一望できる小高い山のてっぺんに、展望台と隣接する形で建っている。
寺までは、数百段の石段が続いており、僕は知らなかったのだが、目的の地蔵はその道中にあるそうだ。
集合時間は十一時。
時間を守って来たのは僕だけだった。
十五分待って、バイトで送れたというKと、寝坊したというSがほぼ同時にやって来た。
熱帯夜だと言う蒸し暑い夏の夜。
僕らは三人は懐中電灯を片手に汗だくになりながら、地蔵があるという場所まで、特に僕は、日ごろの運動不足がたたってか、前を行く二人を追いかける形で、ひーこらひーこら言いながら石段を上っていた。
山の中腹を少し過ぎた頃だっただろうか。
「 おーい、早く来いよ。あったぞー。」
というKの声が、大分上から響いてきた。
僕が二人に追いつくと、そこは石段の脇が休憩のためのちょっとした広場になっており、地蔵は、その広場の端に六体、横一列に並んでいた。
僕は乱れた息を整えてから、地蔵をライトで照らす。
確かに、僕の腰よりちょっと背の低い地蔵たちは、右から二番目の一体を除いて、残りは全部首が無い。
「 これで、一つはっきりしたな。
少なくとも、この地蔵は夜な夜な徘徊はしていない。」
SがKに向けて、からかい半分の口調で言う。
「 ごめーんちゃい!」
「 くたばれ。」
漫才コンビは今日も冴えている。
「 っていうか何だ何だー、つまんねーな。
夜は地蔵さん、鎌でも持ってんのかと思って期待してたのによー。」
そりゃどこの死神だ。
と思わず僕も突っ込みそうになった。
「 でもよ、ホントに他の地蔵は首がねーんだな。」
「 何、K。
お前ここ来たこと無かったの?」
今日の話しぶりからして、僕はKがここに何度も来たことがあるものだと思っていた。
「 いんや、噂で聞いてただけ。
面白そーだからさ、見に来てーなーとは思ってたけどよ。
ちょっと拍子抜けだなー。」
「 この地蔵はな、正式には、『撫で地蔵』っつうんだよ。」
ふと、Sが、呟くように言った。
「 なんだよ、お前この地蔵に詳しいの?」
「 ん、ちょっとな。
見ろ、この地蔵、頭テカってるだろ。」
Sが懐中電灯の光で地蔵の頭を照らす。
そう言われれば、この地蔵の古ぼけた身体に対して、頭だけは比較的小奇麗だった。
「 触ってみりゃもっと良く分かるんだけどな。
元々願掛けしながら撫でるとその願いが叶うって言われの地蔵だから、撫でられすぎて、そうなったんだ。」
そうなのかと思った僕は、そっと首あり地蔵のつるつる頭を撫でてみた。
何だかボーリングの玉を撫でている感じだ。
撫で心地は中々いい。
「 今でも、知ってる人は知ってるんだけどな。
昔はもっと有名だったらしいな。
○○寺の撫で地蔵って言えばな。
けど、そのせいなんだよ。」
Kも僕もSの話を黙って聞いていた。
何だか、昔話を語る様な話しぶりは、普段のSとは少しだけ違っている様な気がしたのだ。
「 三十年くらい前の話らしい。
六体全部の首だけが盗まれるって事件があった。
犯人は分かってない。
綺麗に首だけ取られてたんだってよ。
ただの愉快犯か、それとも、撫で地蔵のご利益を独占したい輩でもいたんだろうな。」
「 おいおいおい、ちょっと待てよ。
じゃあ、この首は何なんだ?」
Kが言う。
それは僕も思った。
当然の疑問だ。
「 職人に頼んで、地蔵の首だけすげ替えたんだとよ。」
僕は改めて地蔵を見てみた。
言われてみれば、首の辺りに多少のヒビがある様にも見える。
頭だけ小奇麗なのも、人々に撫でられるだけが理由じゃないということか。
「 でも、修復したっていっても首の部分はやっぱり弱くなってたんだろうな。
それ以降も、皆に撫でられ続けた地蔵の首は、一体ずつ取れていったんだ。
二度目は寺の方も直す気が起きなかった。
それにしても、まさに身を呈して民衆を救うか、地蔵の本懐だな。」
そこまで聞いて、僕は少し不思議に思った。
Sのこの地蔵に関する知識に対してだ。
予め予習してきたにしても、知り過ぎてはいないだろうか。
隣の鈍いKだって、そう思ってたに違いない。
そんな僕らの疑問を察したらしく。
Sは若干バツが悪そうに頭を掻いた。
「 俺が小さい頃はな、まだ二体は残ってたんだよ、首。」
Sは言った。
「 実はな、五体目の首もいだのって、俺なんだ。」
意外な展開と言えばそうだったかもしれない。
でも、Sの語り口からはそんなに罪の告白だとか、そう言った重々しいものは感じられず、ただ単に、昔の失敗談を語っている様な、そんな口調だった。
「 昔、家族とこの寺に来た時にな、地蔵の頭撫でたんだよ。
願いながら撫でるとその願いが叶うっていう地蔵だろ?
俺はひねくれたガキだったから、撫でながら言ったんだ。」
「 何て言ったんだ?」
Kが訊くと、Sは肩を竦めて、
「 もげろ。」
「 は?」
「 ”もげろ!”って叫んだんだ、撫でながら。
そしたら、もげた。
本当に。」
Sの話によると、ごり、と音がして、手前の、Sの方に地蔵の首が落ちてきたのだそうだ。その時はまるで地蔵が頷いた様に見えた、とSは言った。
「 まあ、たまたま俺が撫でた時と、限界が重なっただけだろうけど。
それでもあの時は本気で驚いた。
これがご利益か、とか思ったよ。
そのあと、上の寺から坊さんが来てさ。
すげえ怒られたな。」
言いながら、Sは地蔵の前にしゃがみこみ、その頭に手を置いた。
そうして、ゆっくりと地蔵の頭を撫でながら、叫ぶでもなく、呟くでもなく、全く自然にその言葉を口にした。
「 こう・・・・、”もげろ”ってな。」
『 ボリッ!』
鈍い音がした。
次の瞬間には、地蔵の頭は、あるべき場所に収まっていなかった。
どさり、と地面に重量のある物体が落ちる音。
「 うわ!」
とは僕の声。
Sは、手を前に差し出したままの状態で地蔵を見つめていた。
「 おおう! マジでもげやがった。」
Kが感嘆の声を上げる。
「 とまあ・・・、こんなこともある。」
Sは、あくまで冷静を保っていた。
Kが、落ちた首に近寄って、
「 どーなってんだ?」
とつついている。
僕は、この目の前で起きた現象をどうとらえればいいのか、イマイチ判断がつかずにいた。
今日という日の夜、S撫でられ限界を突破してしまったのか。
それとも、地蔵がSの願いを聞き入れたのか。
「 帰るか・・・・。」
ゆっくりとその場に立ち上がりながら、Sが唐突に呟いた。
「 え、地蔵は、どうすんのさ?」
「 どうにもならん。」
「 え、ええ~・・・?」
Sは本当に、このまま帰るつもりだった。
かといって僕にもどうすることもできない。
弁償の件が頭をよぎるが、
「 触れただけで、ああだ。
風が吹いただけで、もげてたよ。」
と、Sがこちらの心理を見透かしたような発言をする。
しかし、となれば、このまますごすごと帰る以外の選択肢が僕にはない。
“ 帰るか・・・。”
こうして、首あり地蔵は、首なし地蔵になったのだった。
“ めでたし、めでたし。”
とは、いかなかった。
僕とSが戻ろうとしたとき、Kだけは、まだ地蔵の首のところにいた。
僕らはそれに気付かず、先に帰ろうとしていたのだが。
「 要らん首、無いか?」
声が聞こえた。
振り向くと、Kが先ほど落ちた地蔵の首を両手に抱えて無表情で立っていた。
「 え、何?」
僕が聞き返すと、Kは、また言った。
「 要らん首、無いかえ・・・?」
その時のKの様子をどう表現すればいいのか。
そんなハイレベルな冗談を言えるKではないし・・。
それに、いつものKで無いことだけは分かった。
「 あったら、もらうぞ?
え、いや、ってか・・・。
おんしの首でも、ええぞ?」
答えたのはSだった。
「 無い。
少なくとも、俺らは要らん首は持ってない。」
「 ほうか・・・。」
Kが地蔵の首を地面に落した。
どずん、と音がした。
その瞬間、Kの体が電気が走ったかのように、びくん、と震えた。
「 あれ・・・、何?
んっ?
え?
俺、寝てた!?」
Kは先ほどの自分の言動を覚えてないのか。
「 知るか、帰るぞ。」
Sはそう言って、さっさと広場を抜け階段を降りようとする。
「 え、ちょっ、待てって!
何?
説明しろよ!」
Sの後を、慌ててKが付いていく。
僕は、しばらくその場にとどまって、ぼんやりと地面に落ちた地蔵の首を見つめていた。
不思議と、怖いという感情はこれっぽっちも沸いてはこなかった。
地蔵は、まだ働くつもりだったのだろうか、人々の願いをかなえるために。
そう言えば、さっき地蔵を撫でた時に、僕は何も願いを思い描いてなかった。
僕はふと思いたって、地蔵の首を持ち上げた。
重い。
すげー重い。
切断面を確認し、僕は地蔵の首を元通りの位置に置いた。
そして撫でた。
「 く、くっつけよ~、くっつけよ~~。」
そっと手を離す。
首は、また落ちたりはしなかった。
そろそろと後ずさり、僕は二人を追いかけてその場を後にした。
その後、しばらく経って○○寺の首のない地蔵が取り壊されたらしいぞ、とKから聞かされた。
僕は、
“ それって何体・・・?”
とは聞かないことにしておいた。
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