日々の出来事 2月23日 漢委奴國王
今日は、金印が発見された日です。(天明4年2月23日)
1784年、教科書にも載っている”漢委奴國王”の金印が、福岡市志賀島の叶崎で発見されました。
金印物語
( 叶崎にて )
“ カツン!”
「 おい秀治。」
「 なんだよ、喜平?」
「 鍬に何か当たったぞ?」
「 何だろ?」
「 うわっ、ピカピカ光っている。」
「 金だ、金のハンコだ!」
「 ネコババ、しようか・・・。」
「 それ、ヤバイんじゃないかな・・・。」
「 じゃ、この田の持ち主の所に持って行くか。」
「 そうしよう。」
( 甚兵衛の家 )
「 甚兵衛さん、ホラこんなの田から出ましたけど・・・。」
「 ゲッ、大変だ!
口上書を付けて、庄屋さまから郡役所に届け出なきゃ!」
( 郡役所にて )
「 何だ、何だ、このクソ忙しい時に・・・。
あ、何だ、賀島村の庄屋の武蔵じゃないか。」
「 あ、これは奉行の津田源次郎さま。
田から、こんなの出ましたけど・・・。」
「 おわっ、金印だ。
う~ん、これはスゴイ物に違いない。
漢学者の亀井南冥に鑑定を頼もう。」
( 亀井南冥の鑑定 )
「 どれどれ・・・、おっ、これは・・・。
”漢委奴國王”とな・・・・・。
う~ん、後漢書の中元2年に光武帝が倭国から来た使者に金印を授けたとある。
この金印は、それに違いない。」
「 それは重要なものか?」
「 いやいや、たいしたことはない。
良ければ、15両で引き取っても良いが・・・。」
「 どうしようかなァ~。」
「 珍しいものじゃから、引き取りたいなァ~。」
「 でも、拾得物だから、保管しなければならないなァ。」
「 じゃ、100両出すからさァ・・・。」
「 何、100両、怪しい!」
「 しまった!」
「 藩庁に届け出るぞ。」
( 黒田の藩庁 )
「 金印を修猷館で調べさせろ!
なになに、修猷館の教授は亀井南冥ってかァ。
ヤバイな・・・・。
よし、甚兵衛に白銀五枚を与えて、金印を黒田家の所有物としてしまえ。」
( 黒田家の庫裡 )
“ ぐぅ~、ぐぅ~、ぐぅ~、・・・。”(金印は眠っています。)
( 明治になって国宝に指定 )
“ えっ、俺って国宝かァ。”
( 昭和29年、第1級の国宝に再指定 )
“ 東京の国立博物館に進出だァ!”
( 昭和54年、黒田家から福岡市に寄贈 )
“ ふるさとの福岡市博物館に戻って来たぞ。
俺って、一般公開もされているので見に来てね!
えっ、ニセモノかもってかァ~。
ホンモノだよっ!!”
甚兵衛が貰った白銀五枚のうち、どれだけが秀治と喜平に渡されたかは記録に残っていません。
そして世間では、金印の発見者は”甚兵衛”と言われているのです。
金印
☆今日の壺々話
印鑑
“お客さまにありがとうと言ってもらえる仕事です、日給1万円から。”
という折込求人広告を見て、行ってみるとマンションの一室。
ネームプレートは出ていない。
チャイムを押すと、始め少しドアが開いたがチェーンがしてあるようだ。
中の男の人は、俺を確認するとチェーンを外して中に入れてくれた。
俺は来たことを後悔した。
それから仕事内容の説明があり、人気の開運グッズの販売だという。
日給は1万円だけども、請負の歩合制の方が稼げるからこっちにしなさいと言われる。
とりあえず、先輩について見学ということになった。
先輩はビシッとスーツを着た可愛い女の子。
足元はスニーカー、スニーカー???
営業は電車で移動するらしい。
移動の道すがら、先輩(といっても女の子)が俺に話しかける、
「 ○○君はすごくラッキーだよぉー。
この会社との出会いは運命だよ。
きっと神様が見守ってくれてるんだろうねー!」(え?)
向かった先は、自殺で有名になったこともある某巨大公営住宅。
俺の不安をよそに、先輩は次々チャイムを押していく。
そのうち、話好きそうなお婆ちゃんが出てきて、先輩は親しげにお婆ちゃんに話しかけ、なんと家に上がってしまった。
ドアの前で待つこと数十分、出てきた先輩はホクホク顔で、
「 売れたよぉー!」
と言うから、”なにが売れたんですか?”と聞いたら、
「 開運の印鑑だよー。
これ持ってるとねー、すごくご利益があるのー!」
“いくらですか?”と聞くと、
「 安いのは1万円のもあるけど、今日売れたのは30万円のものだよぉー!」
俺は頭がクラクラして、
「 それはお婆さんが本当に欲しいって言ったんですか、あまりこういうのは良くないんじゃないですか?」
「 どういう意味?
お婆ちゃんも、もちろんよろこんでくれたよ~。」
「 いや、これは悪徳商法じゃないですか、俺止めときますよ。」
「 ○○君はルシファーに惑わされてるんだよぉ~。
一緒に頑張ろうよー!」
俺は先輩に背を向けて、逃げるように帰りました。
なんつーか、世の中まだ知らないことがあるなって思いました。
ハンコ
俺の場合はイジメなんて生易しいレベルじゃなかった。
まず、学生時代は男子だけでなく女子にまで陰湿な嫌がらせをされていた。
特にAって女は、俺の学生ライフを最も狂わせた人間だった。
クラス全体にハブられて、ぼっち状態の俺に罵るような言葉を四六時中浴びせ掛けてきたし、下校の時はおろか、登校の時まで自宅の前でわざわざ待ち伏せをして粘着してくる徹底ぶりだった。
男子連中から弁当を隠されて腹を空かせていた時なんか、自分の弁当を無理矢理俺に食わさせたくせに、”礼をしろ”とか言い始めて、俺の唯一の安息日である休日にそいつの買い物の荷物運びをさせられたこともある。
高校を卒業、無事大学に進学してやっとイジメから開放されたと思ったら、同じキャンパスにそいつも入学していた事を知った時は目眩いがした。
偏差値の低いクラスのメンバーが誰も入れないような難関大学に死ぬような思いをして入ったというのに。
“あら、奇遇ね”とか言いながら、意地悪く笑ったあいつの顔は今でも忘れられない。
結局、社会人になってからも、その女は執拗に俺をイジメてきた。
大学4年時、今度こそ確実に逃げ出すために超一流の企業へ就職すべく、廃人のような生活も送ったにも関わらず、またしても”あら、奇遇ね”と言いながらヤツは現れた。
ちなみに、就活シーズンにそいつの顔が死人のようにやつれていたから、柄にもなく心配してやったら、”お前のせいだ”と因縁をつけられたのも覚えている。
そういえば大学受験の時も、あいつは一時期もの凄くやつれていたような気もする。
まあ、関係ないだろう。
そして今、人の家に強引に押し入って、食事はおろか寝床すらも勝手に奪ったその女が一枚の紙切れを俺に突き付けてきた。
何だかよく分からない細かい文字が沢山書いてあって、その中にある小さな白枠にハンコを押せと迫ってくる。
嫌がらせに使われるに違いないと踏んだ俺は、慎重にその枠にハンコを押したらどうなるかを尋ねてみた。
そうしたら、そいつは”あんたの苗字を貰ってやる”と意味不明なこと言いやがった。
“ なんだよ、苗字を貰うって?”
顔を真っ赤にしているけど、きっとアレは笑いを堪えているのだろう。
ハンコを押したら、また酷い目に合うに違いない。
ワールドカップ
イングランドサポに「ハンコショップアリマスカ?」と聞かれ、最初「??」と思い、「英語少しなら喋れますよ。」と伝えると、やっと判子だと理解できて、近くの判子屋さん21に連れていきました。
そしたら自分や家族の判子を作ってもらいたいらしく、「リンダ、オーウェン、アイル」を、「凛騨、王宴、愛瑠」と携帯で漢字検索しながら、当て文字もしてあげたら大変喜んでいただけました。
一つ100円しない価格にも驚き、最終的には45人分も作成しました。
「ダフネ」という人が嫌いらしく、「変な漢字にしてくれ」といわれ、「堕負寝」にして意味を教えたら「アイツにぴったりだ!」と大喜びしました。
作ってもらってもどの判子が誰のだか分からなくなるので、一つづつ袋に名前と意味を書いてました。
最後にスリーライオンの帽子をもらい、メアド交換とベッカムの物まねのやり方を教わりました。
お土産の判子が評判よければいいなあ。
イングランドに帰国したサポからメールが来ました。
オハヨゴザイマス○○(私の名前)
○○が日本でしてくれた好意に本当に感謝します。
ハンコの人気はすごい!
娘はハンコにチェーンを通し、首からさげている。
ジェイは日曜に漢字タトゥーを入れに行くとバーで叫んでいた。
ダフネも喜んでいた!意味は二人だけの秘密にしておこう。
ただ一つ問題が起こった。
ジャパニーズレッドスタンプ(多分朱肉のことだと思う)がないので、ブラックスタンプやインクを使っているが大丈夫なのだろうか?日本でもそういう使い方をするのか?
○○はいつイングランドに来るのか?
娘も妻も○○が我が家に訪れる日を楽しみにしている。
イングランドナショナルチームや、マンチェスターのビデオが見たかったらいつでも言ってくれ。
マンチェスターのシャツは持っているか?
持っていなかったら○○の名前を入れて送るから好きなナンバーを教えてくれ。
○本当にありがとう。アリガトウゴザイマス
というような内容でした。
会社
来日中の米国人スミスさんが、
「 僕も書類にサインじゃなく印鑑を押したい。」
と言ったので、会社が作ってやったのは…。
「 酢味噌 」
お話“契約”
「 404号室を借りたいのだが・・・・。」
そのおかしなヤツは言った。
妙な注文を出すヤツはよくいるが、こいつはその中でも注文も外見も飛びきり風変わりだった。
顔は浅黒くて、背はひょろんとしている。
声は無理やりしぼりだしているようなかすれ声だった。
おまけにこの暑いのに全身真っ黒なコートにくるまってやがる。
「 えーっと、何度も説明致しました通りですね。
このビルには404号室は存在しないのです。
縁起が悪いとオーナーがおっしゃってましてですね。
こちらのように。」
と言って私は見取り図を見せた。
「 403号室と405号室の間に部屋はありませんのです。」
これを説明するのは何度目だろう。
「 知っている・・・、404号室がないのは知っている。
でも借りるのだ。」
こいつは白痴だろうか?
それともどっかのやくざが因縁付けに来たのか?
冗談じゃない。
こっちはまっとうに商売してきたつもりだ。
「 何度も説明したとおりですね。
ないものはないので、貸しようがないのですよ。」
「 それは分かっている。
金は払う。
そちらは404号室を貸すと言う書類をつくって私と契約してくれればそれでいい。
部屋はなくてもいいのだ。」
こいつは、狂っている。
間違いない。
私は堪忍袋の緒が切れて声を荒げてしまった。
「 おい、あんたいい加減にしないと警察を呼ぶぞ。
冷やかしならさっさと出て行けよ。」
騒がしくなってきたことに気づいて、所長が事務所の奥からのっそり出てきた。
むかっ腹が立っていた私は所長にいままでの経緯をまくし立てた。
私から全ての経緯を聞いた所長は、
「 お客様、詳しいお話をお聞かせ願えませんでしょうか。」
と言うと今まで私の座っていたいすに座り妙な客と話し始めた。
「 あ、申し訳ないが君は席をはずしてくれないか?」
まあ、所長の好きにさせるさ。
手に余るに決まってる。
無い部屋を借りようだなんてバカな話は聞いたこともない。
私は事務所の奥に引っ込み、所長がいつまで我慢するのかみてやろうと、聞き耳を立てていた。
「 いや、うちのものが失礼致しました・・・。」
などと所長が謝っているのが聞こえたが、やがてひそひそ声しかしなくなった。
いつ切れるかいつ切れるかと30分もまっただろうか、うとうとしかけたころ、
「 おい、君。話がまとまったぞ。」
所長に声をかけられた。
「 このお客様に404号室をお貸しする。」
バカかこの所長は?
この夏の暑さで気でも狂ったのか。
「 でも所長。ないものをどうやって。」
「 いつものとおりだ。
書類を作って手続きをとる。
お互いに404号室については納得済みである。
なんの問題もない!!」
大ありですよ。
「 オーナーにはなんと言うのです。」
「 さっき、確認をとった。
家賃さえ払ってくれるなら細かいことは気にしないそうだ。」
めちゃくちゃだ。
「 役所にはなんと。」
「 無い部屋なんだから、報告する必要はない。
黙っていればいい。」
それでも所長か。
「 問題は全て片付いたようだな・・・・、では書類を作ってくれ。
金はここにある。」
黒尽くめの男が陰気な声で言って、手元のかばんを開けると札束を取り出した。
「 はい。
直ちに作りますので、少々お待ちくださいーー。
ほら君早くして!!」
ご機嫌になった所長に言われて、私はしぶしぶこのバカな話に付き合った。
書類を作りヤツにサインを求める。
ヤツめ、手まで真っ黒だ。
妙な筆跡で読みづらいが、名はNyoru・hatepとか言うらしい。
手続きが終わると、
「 では、邪魔したな。
これから引越しの準備があるのでこれで失礼する。」
そいつは事務所から出ていった。
「 所長、おかしいですよ、どう考えても。
変な犯罪に巻き込まれたらどうするんです。」
「 変でも変でなくてもいいんだ。
金を払ってくれるんだから別にいいじゃないか。
無い部屋を借りようなんてよく分からんが、まあ世の中にはいろんな人がいてもいいだろう。」
「 でも引越しとかいってましたよ。
どっかの部屋に無理やり住み込まれたらどうするんです。」
「 そうしたら追い出すだけさ。
貸したのはあくまでも404号室だ。
404号室ならいいが、それ以外はだめだ。」
それから、一週間後。
退去者がでるので、件の貸しビルへ明渡と現状の確認に訪れた。
一週間前のことを思い出して4階の様子もみてみようと思ってエレベータで4階に行くと・・、そこには404号室があった。
大方、例のヤツがどこかの部屋に無理やり住み着いて、部屋のプレートを書き換えてるんだろう。
所長め、やっぱり厄介なことになったじゃないか。
ベルを鳴らすと真っ黒のヤツが部屋の中から現れた。
「 ああ、この間の方か・・・、何か用かな?」
「 おい、あんた何をやってるんだ。
借りるのは404号室をと言う契約のはずだぞ。」
「 見ての通り、404号室だが。
何かおかしなことでも?」
すっとぼけてやがる。
「 ふざけるなよ。
そういうことをすると警察の厄介になるぞ。
早く荷物をまとめてでていけ。」
「 残念ながら、君の考えているようなことはしていない。
よく確認して見たまえ。」
私は4階の部屋の数を数えた。
見取り図では401から405まである。
そのうち404号室は存在していないわけだから4部屋あるわけだ。
部屋が4つだからドアも4つ。
単純な計算だ。
しかし、ドアはなぜだか5つあった。
「 そういうわけだから、お引取り願おうか。」
ヤツにバタンとドアを閉められたが、こっちはどうしても納得がいかない。
やけになって他の全ての部屋にあたってみることにした。
401号室の住人
「 え、404号室はなかったんじゃなかっったって?んーーそういえばそんな気もするけど今あるってことは最初からあったんだろう。」
402号室の住人
「 404号室ですか。確かに最初はありませんでしたよ。いつのまにか出来て人がすんでるみたいですね。ちょっと変だけどまあ、特にこっちに迷惑がかかるわけでもないし・・・。」
403号室の住人
「 お隣さん?引越しの時に挨拶したけど別に普通だったよ。」
405号室の住人
「 隣の方ですか?黒ずくめでかっこいいですよねえ。俳優さんかな。」
どういうことだ。
他の階に行ってみると全てドアは4つだ。
4階だけ5つあるってことは404号室の分だけどっかから沸いて出てきたってことになるじゃあないか。
管理人にも聞いてみよう。
管理人
「 404号室に引っ越すって言ってきたときはなんかの間違いだと思ったけど。
あの人と一緒に4階に行ったら本当にあったねえ。
びっくりしたけど、世の中はいろいろあるからねえ。
書類もきっちりしているし、オーナーも承知だし何の問題もないだろう。」
「 何か変わったことはないですか?」
「 お客さんが多い人みたいだよ。
妙にのっぺりした顔の人が多いね。
前に仕事を尋ねたときがあるけど、相談所なんかをしてるみたいだよ。
お国の人の悩みを聞いてあげてるそうだよ。」
隣の部屋のやつらも管理人ももっと不思議がれよ。
都会人が他人に無関心というのは本当らしい。
もう一度4階に行ってみようと思い、ヤツの部屋のベルを再び鳴らす。
「 また、あなたですか・・・。
いい加減にしていただきたいな。」
「 ちょっと、部屋の中を見せてくれないか。」
「 断る。
私は金を払ってこの部屋を借りている。
あなたに勝手に入る権利はない。」
その通りだ。
しかし、どうしても我慢できない。
無理やり中をみてやろうとヤツを押しのけるように部屋に入ろうとした。
そのときゴツンと何も無い空間に手ごたえがあった。
“ なんだ、これは?”
何も無いのにまるで防弾ガラスでもあるようだ。
「 部屋は用も無いものが入ることを許さない。」
「 私は管理会社のものだぞ。」
「 だからと言って無断に立ち入る権利はない。」
くそっ。
その通りだ。
ヤツと問答していると、エレベータが開いて人の声がした。
「 お、ここだここだ。
え、404号室か。
あ、こんにちはー、ご注文のものを届にきました。」
「 待っていた。
この部屋だ。運び込んでくれ。」
「 はい、わかりました。」
そういうと、業者は私がはじかれた空間を何の抵抗も受けずに通り抜け部屋に入っていった。
「 おい、どうしてあいつは入れるんだ。」
「 彼は荷物を届けるのが仕事であり、ゆえに部屋に入らなければならないからだ。」
筋は通っている。
なんとか私も用事を考えようとしたが、駄目だ。
何も思いつかない。
この場は引き下がるが、絶対に部屋の中をみてやる。
どんな手品かしれないがタネは絶対にあるはずだ。
そのからくりを暴いてやる。
それから仕事も手につかなくなった。
なんとかヤツに一泡吹かせてやろうと、色々考えたがどうしても用事が思いつかない。
所長に声をかけられた。
「 君、最近ふわふわしているがどうかしたのかね。」
「 あ、実は」
と、今までの経緯をすべて話すと。
「 ふうむ、君それはいけないよ。
お客様のプライバシーに踏み込むようなことはしちゃいけないなあ。」
「 でも、ヤツは住んでるんですよ、404号室に。」
「 確かに不思議だが。
しかし家賃はしっかり払ってくれている。
管理会社としてそれ以上なにを望むんだね。」
「 妙だと思いませんか。」
「 思わんね。」
「 何故。」
「 金は払ってくれているからだ。」
埒があかない。
「 お客様に迷惑をかけたりするようなことがあれば、君の査定にも影響してくるぞ。
さあ、くだらないことに迷わされていないで、しっかり働くんだ。」
くだらない?
くだらないことか?
所長も管理人も他の住人もどうかしてる。
しかし、遂に私の疑問も解ける時が来た。
一ヵ月後のことだ、
「 ああ、君。こないだの404号室の方が退去されるそうだ。
明渡しに立ち会ってくれ。」
やった。
とうとう用事が出来た。
これはケチのつけようがない立派な用事だ。
退去する時とは残念だが、必ずタネを暴いてやる。
「 くれぐれも失礼なことはするなよ。」
404号室のベルを鳴らす。
「 やあ、入らせてもらうよ。」
ドアが開くや否や足を踏み出す。
“ よし!”
今度ははじかれることもなく、すんなりと部屋にはいれた。
こんなにあっさり入れると、ちょっと拍子抜けするほどだ。
「 はやく確認をすませてくれないか・・・。」
黒ずくめのゴキブリがなんか言ってるが知ったことか。
私はとうとう入れた部屋の中をじっくりと確認した。
何かおかしなことはないか、どこか妙なところはないかと必死に探した。
しかし小一時間も探したが、何一つ妙なところはない。
ごく普通の部屋だ。
私はすっかり困り果ててしまった。
「 参った。
降参だよ。
いったいどうやったのか、本当に知りたいんだ。
教えてくれないか?」
「 なにを・・・?」
「 この部屋だよ。
どうやって一部屋余分に繰り出したんだ。」
「 私は何もしていない。
契約だから部屋が出来た。
契約終了と同時に部屋は消える。
もう確認は済んだだろう。
私は帰らせてもらうが、あんたはどうするんだ?」
すっとぼけやがって。
何が契約だよ。
うまいこといいやがって、きっと何か秘密道具でもしかけてあるんだろう。
何がなんでも探してやる。
「 ああーーいいとも。
確認は終わったよ。
きれいなもんだ。」
「 一緒に帰らないか?」
こんな薄気味の悪いヤツと並んで歩くのなんてまっぴらだ。
「 では、お先に・・・。」
そういうとヤツは部屋を出て行った。
それからヤツが帰ったあともひたすら部屋の中を探ったが何もわからない。
気が付けば外も薄暗くなってどうやら、もう夕方のようだ。
「 一旦帰るか。」
私はドアをあけて帰ろうとした。
が、ドアが開かないのだ。
カギをいじくってもだめだ。
いやな予感がして窓を開けようとした。
これも開かない。
ベランダにもでれない。
ふと時計を見る。
午後3時。
なのにどんどん暗くなっていく。
外から歩く音がする。
4階の他の住人が廊下を歩いているようだ。
ドアをたたき、
「 おーい、あけてくれ!」
と叫んだ。
住人はまったく気づかず通り過ぎる。
そもそも何で外が薄暗いんだ。
今はまだ3時なのに、なんで暗くなるんだ。
外を見ると今までの光景と全く違っている。
今までは外に見えていたのは普通のどうってことない町並みだ。
なのに、今、外には何も見えない。
真っ暗な空間がぽっかりあるだけだ。
それから半年が過ぎた。
ヤツの言葉が思い出される。
「 契約終了と同時に部屋は消える。」
もしかすると、部屋は消えたくないんじゃあないのか?
契約終了ってことはつまり私が現状確認をしてこの部屋を出ていくことだ。
つまり私がこの中にいるかぎりこの部屋は存在できる。
部屋は私を死なせたくないようだ。
備え付けの冷蔵庫の中にはいつも食料がたっぷりだ。
どういう仕組みか水もでるし、電気も通っている。
“ ここから出たい。”
私は一生このままなのだろうか・・。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ