日々の恐怖 11月8日 妹(1)
Kさんに聞いた話です。
彼には八歳離れた妹がいるのだが、その妹について、彼は子供の頃から不思議な感覚を持っているという。
時折、妹が妹でない時がある、というのだ。
どこがどう違うのか、それを説明することはできない。
ただ、朝起きて「おはよう」と言った時、食事中、歩いている後ろ姿、何気なくこちらを向く仕草、あくびの後、眠っている最中でさえ、「今は、違う」という違和感を感じるのだという。
両親にそれを告げても、意味がわからないと相手にされなかった。
彼自身、意味がわからなかったのだから、仕方のないことだった。
妹が妹でないと感じる時間は、一瞬の時もあれば、長くても三十分程度だった。
なので、そのうちKさんも気にしなくなった。
妹の違和感について、Kさんは心当たりがあったという。
実は彼と妹との間には、妹が生まれる五年前に、性別も分からぬうちに流れてしまったもう一人のきょうだいがいたのだ。
妹が生まれるずっと前に、「もうすぐお兄ちゃんだよ」と父親に頭を撫でられた記憶、肩を落として静かに泣く母親の記憶が、おぼろげに残っているという。
一目会うこともできなかったそのきょうだいは、きっと女の子だったのだろう。
普段は妹に寄り添い見守ってくれていて、妹が妹でない時は、きっとその子が妹に変わって世の中を見ているのだろう。
Kさんはそう思っていたという。
年の離れた兄妹は、Kさんが進学して家を離れたことを機に、会う回数がぐんと減った。
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