日々の恐怖 6月19日 食糧(1)
今から30年くらい前の大学生の頃の話だ。
当時、ワンルームの古いアパートを借りて住んでいた。
風呂なしでトイレは共同。
それでも特に困ることなく暮らしていた。
そこに住み始めて半年くらい経った頃、ある違和感に気づいた。
帰るとやかんにお湯が沸かしてあったり、空っぽの冷蔵庫に食糧が入っていたり、身に覚えの無い出来事が何回も起きるようになった。
もちろん彼女はいなかったし親が来ている訳でもない。
万年床、汚部屋はそのままだった。
俺はその食糧を食べることもなく、やかんは丁寧に洗って使っていた。
しかし、またしばらくすると冷蔵庫に食糧が入っている。
さすがに気持ち悪くなり管理人へ相談してみた。
そこで発覚した。
二重貸しの手違いだった。
俺と同じくらいの年齢の大学生の男性らしい。
その時は原因がわかってホッとしたんだけど、よく考えたらその男性と鉢合わせしたことがなかった。
部屋も綺麗になるわけでも汚れるわけでもない。
ただ、お湯が沸かしてあったことと冷蔵庫の食糧だけだ。
管理人に平謝りされ重なっていたのは数週間だからと説得された気がする。
少しだけど謝礼金も貰った。
その後、相手の男性は別のアパートに行きましたと言われた。
たとえ数週間だとしても1度も会わず、少なくとも自分は置いてある家具や洋服などは、全て自分の物だったので変に思わなかったが、相手側にしてみれば、家具付アパートにしては変だと思うはずだ。
訳も分からず、数ヶ月後くらいにそのアパートは引っ越した。
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