日々の恐怖 11月27日 ろろく石(4)
そして、今にして思えば骨董蒐集の最後になったのが、江戸時代の幽霊画でした。
これはずいぶん高価なものだったはずです。
それは白装束の足のない女の幽霊が柳の木の下に浮かんでいる絵柄で、高名な画家の弟子が描いたものだろうということでした。
親父は、
「 この絵はお前たちは不気味に思うかもしれんが、実に力を持った絵だよ。
この家の運気を高めてくれる。」
と言っていました。
そして、その絵が家に来た晩から、小学校低学年の妹がうなされるようになったのです。
妹は両親と一緒に寝室で寝ていたのですが、決まって夜中の2時過ぎになると、
「 ひ~っ!」
と叫んで飛び起きます。
そして聞いたこともない異国の言葉のようなものを発し、両親に揺さぶられて我に返るのです。
もちろん病院に連れて行きましたが、何の異常も認められないとのことでした。
家の者はまた骨董のせいではないかと疑っていましたが、それを親父に言い出すことはできませんでした。
獅宝堂が来ていたときに親父がこの話をしたら、
「 おお、それはいよいよ生まれるのですな。」
と意味不明のことを言っていたそうです。
そしてその日の夜のことです。
やはり2時過ぎ、妹はうなされていましが、突然白目をむいて立ち上がり、叫び声とともに、大人の拳ほどの白い透明感のある石を、大量のよだれとともに口から吐き出しました。
次の日、獅宝堂が来て、その白い石をかなりの高額で買っていったそうです。
親父はこのことを契機に獅宝堂とのつき合いを断ち、骨董の蒐集もすっぱりやめてしまいました。
親父は、
「 ようやく分かったよ。
家族には迷惑をかけられないからな。
みんなの健康が何よりだよ。
これからは庭いじりでもやることにする。」
と言いました。
そして我が家の異変は完全に収まりました。
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