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日々の恐怖 2月19日 母

2022-02-19 16:17:54 | B,日々の恐怖





 日々の恐怖 2月19日 母





 中学からの友人に聞いた話です。
彼女の出生時、大量出血などで母親は死亡した。
一度も我が子を抱きしめる事なく逝ったそうだ。
 父親は無口で優しかったが出張の多い人で、彼女は祖母に育てられたらしい。
彼女は昔からものすごく人に気を使い、とても明るい性格だった。
 36で遅くなったが結婚し、出産した。
無事に子供は生まれたものの、その頃から彼女は壊れていった。
どうしても我が子を愛せないらしい。
 ある日心配で見に行くと、泣き叫び汚物臭のする赤子がいた。
彼女はその傍らで、耳を塞いで震えていた。
 私に子供はいなかったが、とにかく赤ちゃんにミルクを飲ませ、オムツを換えてやり、当時出張中だった彼女の旦那に、すぐ戻るように電話を入れた。
急いでも帰りは夜になると言うので、それまでいることにした。
 子供のように泣きじゃくる彼女は、

「 どうやっても可愛いと思えない。」
「 泣かれると殺したくなる。」

と病的な発言だった。
 育児ノイローゼだったんだと思う。
夜には旦那も戻り、育児協力と彼女を診療内科に連れて行く事を約束させ、私はその場を後にした。
 その翌日の仕事帰り、彼女の事が気になって仕方なかった私は、すぐに彼女の家に向かった。
胸をしめつけられながら開けた玄関の中に立っていたのは、晴れやかな顔をした彼女だった。
そして腕には、ぐっすり眠る赤ちゃんがいた。

「 昨日はごめんね~。」

とあっけらかんとした彼女にあっけをとられ、私はその場に座り込んでしまった。
 で、落ち着いたところで話を聞いてみて驚いた。
昨夜泣き疲れて、子は旦那に任せ眠ってしまったらしい。
 そして夜中、少し息苦しく目を覚ますと、若い女の人が涙を浮かべ彼女を抱きしめていたそうだ。
あまりの事に固まっていると、

「 これが母親の愛情よ、覚えおきなさい。」

そして、

「 抱きしめてあげられなくてごめんね。」

と消えてしまったそうだ。
それは写真でしか見た事がない、彼女の母だった。
 それから彼女は居間へ行き、改めて我が子を抱きしめてみると、

「 今まで感じたことのない、愛しさと涙が溢れだした。」

と言っていた。
 愛せなかったのではなく、愛し方を知らなかったのだと思う。
それを、一度も彼女を抱けなかった母が教えにきたのだと思った。
 今では彼女は立派な親バカです。
ただひとつ、母親は自分より一回り以上若かったことが悔しいと笑っていた。









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