日々の恐怖 2月13日 地蔵
中心市街地から車で十分ほども行けば、県内でも有名な山に行き着くことができる。
さほど高い山ではないが姿が美しく、また山裾は海ギリギリまでせり出した面白い地形だった。
山の半分をぐるりと取り囲むように道路が走り、そのすぐ隣はもう海だった。
中心市街地へと向かうその道路は片側三車線で交通量もかなりのものだったが、走っていると両側から山と海が迫ってくるようで、少し緊張感があった。
山裾に沿って、道路はゆるくカーブを描く。そのカーブが一番極まったところ、つまり山が一番海にせり出した箇所に、一体の地蔵が置かれていた。
地蔵は小学校高学年ほどの子供の背丈の大きなものだった。
いつでも花が供えられ、小さく微笑んだような優しい顔をしていた。
ここは、昔から土砂崩れが頻繁に起こる場所だった。
異様にせり出した山裾は、古くからの土砂崩れでだんだん伸びていったからだといわれている。山は崩れるたびに、近くの集落や畑を飲み込んだ。
この地蔵は、土砂崩れの被害者を慰めるために建立された。
ところが、いつの頃からかこの地蔵に、不名誉な噂が立つようになった。
地蔵は左手に宝珠を乗せ、右手はこちらに向けた形で地を指している。
遠目に見れば、右手でおいでおいでをしているようにも見える。
その手の形から、地蔵が事故を招いているという噂が立ってしまったのだ。
よく見れば手の向きからそうでないことは明白なのだが、子供を中心にこの話が広まり、今では心霊スポットの一つとして数えられるようにまでなってしまった。
「 まったく、罰当たりな話ですよぅ。
肝試しだなんてそれだけでも失礼なのに、こんな風にゴミまで散らして帰って・・・。」
老婆はブツブツ言いながら、地蔵の周りに散乱したお菓子の袋や空き缶を拾い集めていた。朝の散歩のついでに地蔵に参るのは昔からだが、最近は特に夏場にはこんな風に、時折ゴミが散らかっているのだという。
私はそれを手伝いながら、
「 そうですね。」
と頷いた。
「 お地蔵様が来てから、土砂崩れは起きていないんですよね?
霊験あらたかなお地蔵様だ。」
「 まぁ、土砂崩れはなぁ・・・・。」
老婆はどこか含みを持たせるようにいった。
「 地蔵様が来られてから、この道路で事故が増えたのはね、ほんとなんですよぅ。
まぁそれくらいの頃に道路を広くして、その分とばす輩が増えたからなんでしょうけど。
バカみたいにスピード出すから、大体は死亡事故になってねぇ。
それを地蔵様のせいにされて、いい迷惑ですよ、ねぇ・・・・。」
最後の一言を、老婆は地蔵に向けて言った。
地蔵はもちろん答えず、静かな微笑みをたたえたままだった。
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