日々の恐怖 7月7日 借家(2)
経緯を話すと、大家は顔を曇らせた。
「 お貸ししているあの家は、もともと僕の祖父母が建てた家で、いわくもないですし、事故物件でもありません。
あの家で何かがあったということはない。
ただ・・・・・・。」
「 ただ・・・?」
「 以前住んでいたのが、少し変わった人物でして・・・・。
あなたの話を聞くと、それが関係あるのかもしれません。」
大家によると、友人の前に住んでいたのはいわゆるロクデナシの男だったらしい。
若い頃から定職につかず遊び歩き、しばらく姿をくらましたと思えば、還暦間近になって両親の年金をあてに帰って来るような男だった。
そんな息子でも両親は切り捨てられず、少ない年金で彼を養っていたという。
やがて両親が相次いで亡くなると、男は家に引きこもるようになった。
男のすぐ近くには、彼の年の離れた兄が住んでいた。
両親が生きている間は援助を惜しまなかった兄だが、何を言っても改心しない弟に堪忍袋の緒が切れたようで、両親の死後は一切の援助を打ち切ると啖呵を切った。
しかし、実の弟を簡単に捨て去ることは難しかったようで、こっそり自分で作った食事を男の家のブロック塀に置いていたそうだ。
その兄も、両親の死後一年もしないうちに亡くなった。
もともと癌で闘病中だったそうだ。
兄の四十九日が終わった翌日、男が家から少し離れた林の中で自ら命を絶っているのが見つかった。
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