大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 3月29日 鍵

2024-03-29 09:42:50 | B,日々の恐怖




 日々の恐怖 3月29日 鍵




 ある男性とのおつき合いが始まった頃、彼がアメリカに2週間程出張するというので、当時、
仕事もなかった私は、彼の三匹の猫の世話で、彼の家で2週間留守番することにしました。
でも、彼の家では前の奥さんが亡くなっていて、(もっとも、亡くなって7年ほどになりますが)
亡くなっているとはいえ、私が先妻の立場だったら、嫌なんじゃないかと思っていました。
 そして、アメリカに行く彼を見送った帰り、彼の家に戻ってほっと一息ついたとき、
ふと飾ってある亡くなった奥さんの遺影に、

「 私がここにいてもいいのかしらん?」

と尋ねました。
 次の日、買い物に行こうと玄関に置いてある鍵をみると、家の鍵だけがなくなっています。
車の鍵と一緒にコイル状の金具できっちり付いていたはずなのに見つかりません。
家中探しましたが、その日は結局見つかりませんでした。
 その時ふと思ったのです。
鍵がないということは、外には出られないということになります。
ということは、私はこの家に居なくてはいけないという意味に取れます。
そして、再び遺影に尋ねました、

「 私はこの家に居ていいのですね。」

と。
 その後、暇に任せて家中の大掃除をしていたとき、ゴミみたいな物の中に紛れ込んでいた
彼女の日記が見つかりました。
盗み見みたいですが、その時は自分の疑問の答えのような気がして読みました。
彼女は結婚後すぐから死ぬまで、他の男性を熱烈に愛していたようで、後半の日記には、
彼女の夫であるはずの彼の名前すら誤字で記されていたのでした。
なんだか、彼女に、

” 私の分まで愛してあげてね。”

と引導を渡されたような気がしました。
 その後、彼と結婚しましたが、私が家に来てから丁度一年後、いつも着ているコートのポケットから、
チャリンと消えたはずの鍵が玄関に落ちました。










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