日々の恐怖 6月28日 お釣り(2)
疑問顔の私に、店長は説明してくれました。
「 お釣りを渡そうとすると、何故か硬貨や紙幣がつるつる滑って取りづらくなることがあるんだよ。
その前後の客だと、問題なく取れるのに・・・・。」
取り損ねるだとか、取り落とすとか、取ろうとして空振りする、というニュアンスではなく、本当につるりと滑って取れないらしい。
「 何度か滑ってから、ようやく取れるんだけどね、だけど・・・・。」
そこまで口にしておいて、店長は言い淀む。
「 滑ってお釣りが渡し難かった客は、どうも近い内に金銭トラブルになるみたいなんだ。」
それは自発的なものだったり、事故だったり、他人の借金に巻き込まれたり、とにかく金銭的に不幸な目に遭っているのだそうな。
「 たまたま、お釣りが渡し難かった客の知り合いが買い物に来て、投資で大損こいて自殺したって話を耳にしてね・・・・。」
そんな話に呼び寄せられたわけではないのだろうが、今まで覚えている範囲で渡し難かった客が金銭トラブルで不幸になってるという話が伝わってきたのだとか。
「 これって、どういうことだと思う?」
「 金銭的な不幸に遭う人を見分ける、店長さんの能力とか?」
「 なんだ、そんなの・・・・。」
二人して乾いた笑いを浮かべたあと、店長はポツリと呟いた。
「 もしかして金銭的な不幸を与える能力なのかもなあ。
中には凄く人の良いお客さんもいたんだよ。」
そう呟いて煙草に火をつけた。
ここで一応、私は宣言してみる。
「 取り敢えず、店長ところで買い物はしません。」
店長は、
“ テヘッ・・・・!?”
と笑ってから、
「 しまった、一人客を逃がしたか・・・。」
再度の乾いた笑い合い。
ただ、次の台詞には笑えなかった。
「 けど、うちの店だけじゃないかもしれないよ?」
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