日々の恐怖 6月30日 チャルメラ(1)
彼女は中学校に上がるまでアパートに住んでいたのだが、そこには冬になると時々、ラーメンの屋台がやってきたそうだ。
さすがに人力ではなくトラック屋台だったが、夕方になると誰もが知る、
“ チャララ〜ララ〜。”
という音楽を鳴らし、赤提灯とのれんをつけた、どこか哀愁漂う昔ながらのラーメン屋台だったという。
ラーメン屋台はいつも、アパートの敷地の隅にある小さな公園で客を待っていた
彼女は常々、一度でいいからそのラーメンを食べてみたいと思っていたが、屋台が来るのはいつも不定期で、おまけに母親が夕食の支度に取り掛かる時間にちょうど重なるため、
「 今晩はラーメンにしようよ。」
とねだっても一蹴されていたそうだ。
結局、彼女はラーメンを食べる機会のないまま、アパートを引っ越してしまった。
悔いが残ったためか、屋台の細部までよく覚えており、特に、トラックに描かれた、
「 あれって、龍・・だよね・・・・?」
と誰かに確認したくなる微妙な絵は、忘れたくとも忘れられないという。
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