日々の恐怖 6月2日 キーホルダー(2)
閉じ込め事件から数年後。
自分が転職するかしないかで悩んで田中に相談したときのことだ。
田中から思いっきり罵倒された。
小学校からずっと勉強で苦労したことのないお前がむかついていた。
こっちは結婚もしたし子供もいるし国家資格もとった、お前より人間できてるんだ、勉強で苦労してないんだからもっと苦労しやがれ、大学出た贅沢者の世間知らずが、って感じに延々言われて、縁が切れた。
田中の家は学歴至上主義の最低でも大卒、理想は博士って考えだった。
俺と田中は幼稚園から高校までずっと同じで、自分は大学、田中は専門学校に進学している。
田中は自分で、好きな科目は夢中になって勉強して学年一位の点数取るけど、嫌いな科目は無視ってタイプだと言っていた。
だから自分の好きなことができる専門に行くって、高校の時に本人から聞いていた。
本当はそうじゃなかったんだ。
ちょっとググったら、ナザールボンジュウは邪視から守ってくれる古い言い伝えらしい。
人の目は窓で、その人の悪い考えもよい考えも窓から出ていく。
悪い考えが出てきた目=邪視から身を守ってくれるんだって。
昔からよく田中が言っていたんだが、田中の趣味は人間観察だ。
ドトールとかスタバの窓際に座って、ひたすら人を眺めてはどういう人間なのか行動を観察するのが楽しいそうだ。
身を守ってもらえたかはわからないが、そういう理由もあって、キーホルダーから感じた視線は田中のものと思っている。
あと田中は当時会社管理のアパートに住んでいたんだが、トイレからずっと叫び続けたうえに二日間無断欠勤でも、誰も安否確認にこなかったと聞かされた。
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