一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

内部統制と左足ブレーキ

2006-05-25 | コンプライアンス・コーポレートガバナンス

「分数を大きくするには分子を増やすか分母を減らせばいい」という小学校の算数を実践した社会保険庁の事件がありました。これについて
年金不正免除で社保庁長官「法令無視の指示はない」
(2006年 5月24日 (水) 12:37 朝日新聞) 

衆院厚生労働委員会で24日、各地の社会保険事務所が国民年金保険料の免除手続きを勝手に行っていた問題が取り上げられた。この中で、村瀬清司・社会保険庁長官は、自身が保険料の納付率向上を強く指示したことが不正を生む引き金となったのではないかとの指摘に対し、「法令を無視してやれという指示を出したつもりはない」と反論した。

ということですが、社会保険庁自身数値目標を掲げて納付率の向上の目標設定をしている(しかもうまくいっていなくて組織全体にプレッシャーがあった)のは事実のようです。

社保庁改革法案審議入り 国保期限を短縮 年金納付率向上盛る
(2006年 5月19日 (金) 03:04 産経新聞)  

・・・十七年度の国民年金保険料納付率は三月末現在(十七年四月-十八年二月分)66・7%で、前年同期に比べ3・8ポイント改善したものの、同年度の最終的な納付率は未集計の十八年三月分を上乗せしても、社保庁が掲げた十七年度の目標値69・5%を達成するのは困難な見通しだ。
十九年度には80%まで回復させる計画を立てているが、法案に盛り込んだ対策を実施しても納付率の改善にどれだけつながるかは不透明。野党側は追及の構えを強めており、国会審議では年金制度の抜本改革の是非が再び焦点となりそうだ。

つまり、徴収率向上は経営課題の中でも優先順位が高く、トップが「法令を無視してやれという指示を出したつもりはない」(確かにいまどきそんなことを言う人はいないでしょう)といっても、事実上人事考課に反映したりすると、現場はどうしても無理をしてしまいがちになります。


これが上場企業になると、公表した決算予想数字を達成できない場合は(特に新興市場企業においては)「期待はずれ」で株価の下落につながりかねません。
さらに、人事制度で目標管理制度を導入していたりすると、決算予想数字(をブレークダウンした部門目標)を達成するために現場にプレッシャーがかかることになります。

よく、期末セールとして「契約(や引渡し)を3月中にしてくれれば安くしますよ」という誘いを受けたことがあると思います。
期末恒例の決算対策の安売りなら(独禁法や景品表示法などに反しない限りは)いいのですが、これが「バックデートでもいいですから」とか「内金は立て替えときますから」となると 損保ジャパンのような保険会社では違法行為になるでしょうし、法令違反にならない業種だとしても「財務報告の信頼性」の面からは問題になりますね。(さらに「契約・未引渡し」で売上計上するのが公正妥当な会計慣行に拠っているかという議論もあります)

こういう風に、現場レベルで違法なことに踏み込んでしまう機会や動機付けはけっこうあるわけです。
 これを防ぐために、昨今話題の「内部統制」が求められるわけです(会社法と金融商品取引法でそれぞれ求められる趣旨は若干異なるようですがそのへんは省略)。

教科書どおりにいけば、「行為規制のガイドラインを作り周知徹底させるとともに、きちんと守っているか、抜け道はないかをモニタリングして、随時フィードバックさせる」ということになります。
ただその一方で、目標達成のためには一定のプレッシャーをかける必要もあるわけで、そのバランスはけっこう難しいんですよね。


昔、自動車雑誌で、オートマチック車の運転方法で「左足ブレーキ」を推奨する評論家がいました(今も流行っているのかな?)。
この方法は右足をアクセルから踏みかえるよりも素早くブレーキを踏める、というメリットがあります。

ところが、実際にやってみると、慣れるまでが大変でした。

左足の力加減がわからないもので、つい強く踏みすぎて「カックンブレーキ」になったり、逆に踏み遅れるのが怖くて常に左足をブレーキの上に軽く乗せているのと、常にブレーキを踏んでいるかのような状態になってしまいます。

これを内部統制にたとえれば、「カックンブレーキ」はガイドラインが厳しすぎたり、それを修正したら今度は緩すぎたりとそのくり返しで業務が混乱するような状況でしょうし、「常時ブレーキ」は常に現場の箸の上げ下ろしまで法務セクションや弁護士の確認を求める、という効率の悪い(コストの高い)組織運営にたとえられると思います。
また、これは組織内部だけでなく、取引先(後続車)にも迷惑をかけることにもなります。

もともと定着率が低く、組織への求心力も期待できない従業員を高い歩合制で雇ってガンガン営業させているような企業であれば、性悪説にたって現場の暴走をおさえるための内部統制を引いているでしょうけど(アイフルの例などを見ると必ずしもそうとはいえないか?)、長期雇用、固定給を前提とした多くの企業は、慣れるまでに時間がかかると思います。


左足ブレーキは結局慣れる前にやめてしまいましたが、内部統制はそうもいかないのがつらいところです。

コメント
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