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分子動力学(MD)シミュレーション専用計算機「MDGRAPE-4A」の開発に成功

2019-12-16 | 科学・技術
 理化学研究所生命機能科学研究センター計算分子設計研究チームの泰地真弘人チームリーダーらの研究チームは、分子動力学(MD)シミュレーション専用計算機「MDGRAPE-4A」の開発に成功した。本開発は、「情報計算化学生物学会2019年大会」(10月24日)で報告された。本研究成果は、インシリコ創薬の可能性を大きく拡げるものと期待できる。
 〇MDシミュレーション
 MDシミュレーションは、水溶液中で変化し続けるタンパク質構造を解析するために、タンパク質を構成する原子や周囲の水分子に働く力を計算し、コンピュータ内でタンパク質を「動かす」手法である。大きなタンパク質の解析には、汎用スーパーコンピュータ(スパコン)でも膨大な時間がかかるため、分子シミュレーションを高速で行う専用スパコンの開発が待たれていた。
 研究チームは、自ら設計・開発した専用の大規模集積回路(LSI)を512個搭載し、システム全体として約1.3ペタフロップス(1秒間に1,300兆回)の計算能力を持つMDGRAPE-4Aを開発した。MDGRAPE-4Aは、タンパク質と水分子からなる10万原子系のシミュレーションを、1日の計算で最高1.1マイクロ秒(1マイクロ秒は100万分の1秒)進める性能を持つ。これにより、サブミリ秒(~100マイクロ秒)のタイムスケールで起きる水溶液中でのタンパク質と薬剤の分子間相互作用の解析が、現実的な時間で可能となる。
 〇背景
 細胞のさまざまな機能は、タンパク質などの分子が相互作用することにより制御されている。この仕組みを利用した分子標的薬の開発では、がん細胞や病原体が持つ標的タンパク質に結合し、その機能を阻害する化合物を探索することが基本になる。しかし、生体内(溶液中)のタンパク質の構造は柔らかく、ゆらゆらと常に変化している。このような構造変化は、X線結晶解析など通常の構造解析の手法で解析することは困難である。そこで近年、スーパーコンピュータ(スパコン)を用いた分子シミュレーションにより標的タンパク質の構造変化を再現し、それに結合する化合物の候補を膨大な仮想化合物ライブラリーの中からスクリーニングする「インシリコ創薬」が注目されている。
 タンパク質の構造変化のシミュレーションでは、タンパク質を構成する数千個以上の原子間に働く力や、これらの原子とタンパク質を取り囲む数万個の水分子との間に働く力を、時間刻みで計算する。この計算結果から全ての原子の動きを求めることを繰り返すことで、タンパク質全体の動きをあたかも映画のコマを1コマ1コマ進めるようにシミュレーションする。これは分子動力学(MD)計算という手法で、膨大な時間がかかるのが特徴である。
 生体分子の計算では、2フェムト秒(2×10-15秒)程度の動きを1コマとして計算する。生体内でのタンパク質の大規模な構造変化は、マイクロ秒(100万分の1秒)からミリ秒(1000分の1秒)、あるいはそれ以上のタイムスケールで起きると考えられており、例えば1コマ2.5フェムト秒(2.5×10-15秒)で10万原子系の100マイクロ秒間(1×10-4秒)の動きを再現するには、400億(4×1010)コマの計算が必要となる。現行の汎用スパコンでは1コマあたりの計算に最短でも約1ミリ秒(1×10-3秒)秒かかるため、400億コマの計算に必要な時間は最短で4000万秒(4×107秒、約1年3カ月)となる。スパコンの性能が上がっても、1コマあたりの時間をミリ秒以下にすることは汎用計算を行う設計上困難であるため、分子シミュレーションを高速で行う専用スパコンの開発が待たれていた。
 〇研究手法と成果
 研究チームは、MD計算で必要な粒子間の力の計算に特化した加速装置を大型集積回路(LSI)に組み込み、このLSIを512個実装したMDシミュレーション専用スパコン「MDGRAPE-4A」を開発した。MDGRAPE-4Aでは、タンパク質と水分子からなる10万原子系のシミュレーションを、1日の計算で最高1.1マイクロ秒間進める性能を持つ。これにより、100マイクロ秒間の動きに必要な計算時間は91日間となり、汎用スパコンで最短でも1年3カ月かかっていたシミュレーションを約3カ月で完了することができる。
 これまで理研が開発してきた専用計算機では、計算の一部のみを専用化し、残りは通常のコンピュータで計算していた。しかし、専用計算機が高速になるにつれ、この方式では通常のコンピュータの部分で性能が頭打ちになるようになってきた。そこで、MDGRAPE-4Aではこれまでの専用計算回路に加え、汎用計算部分やネットワークなど計算の全てを一つのLSIに統合した大規模な「システムオンチップ(SoC)」とすることで、ボトルネックの解消を図っている。この実現には、多くの新しい技術開発が必要となった。
 主要なものとしては、
(1)遠くの原子間に働く力の計算を加速するための、専用計算機に適した計算アルゴリズムの開発とハードウェア実装。
(2)近くの原子間で働く力を計算する高速の専用回路。
(3)512個のLSIを光ファイバーでつなぐ高速・低遅延のネットワーク。
(4)RISC-V[10]をMD計算向けに変更したプロセッサ。
(5)演算器やデータ管理回路を埋め込んだメモリ。
(6)FPGA(プログラム可能な集積回路)による超高速な3次元FFTの実装。
 こうした個別の工夫に加え、LSIに実装された多くの要素全てを連携させて高速に動作できるよう、ハードウェアとソフトウェアの共設計を進めた。さらに512個のLSIをシステムとして組み上げることにより、システム全体として約1.3ペタフロップス(1秒間に1,300兆回)の計算能力を持ち、高速に計算を行うことができるシステムの動作を達成した。本システムは、RISC-Vをベースとした実用大規模システムとしては世界初である。
 〇今後の期待
 インシリコ創薬の技術は、候補分子の構造式を用いて実施できるという大きな利点を持ち、ほとんど無制限ともいえる数の化学構造式をスクリーニングの対象にできる。MDGRAPE-4Aによる長時間シミュレーションを実行すれば、候補分子とタンパク質とが実際に結合するときの構造変化を探索し、より高精度な予測が実現できる。また本計算手法は、タンパク質の「形」だけではなく、「動き」を制御する分子を開発する上でも有望であり、創薬の可能性を大きく広げるものと期待できる。さらに将来的には、創薬以外の広い分野での産業・アカデミアへの共用に供していきたいと考えている。
 計算機開発の面では、半導体の性能向上を支えてきた「ムーアの法則」が終焉を迎える中、専用計算システムの役割がますます重要になると考えられる。MD計算において、ハードウェアとソフトウェアの両面で「深いレベルの統合」を行った開発を現在進めているのは、米国のD. E. Shaw研究所と理研の本研究チームのみであり、今後もMD計算のさらなる加速に加え、人工知能への応用等、専用回路と汎用回路の結合による大規模システムの開発を推進していく。
 ◆用語説明
 〇分子動力学(MD:Molecular Dynamics)
 原子間に働く力を計算し、運動方程式を繰り返し解くことで、分子の動きを追跡する方法。分子動力学法の基礎の開発について、2013年のノーベル化学賞が授与されている。
 〇MDGRAPE-4A
 1990年より開発が進められている天文学分野での重力(GRAvity)多体問題の計算に特化した専用計算機GRAPE(GRAvity PipE、重力パイプライン)の、分子動力学(Molecular Dynamics: MD)バージョン。MDGRAPE-4Aはその5作目に当たる。なお、MDGRAPE-3は高性能計算科学の賞であるゴードンベル賞を受賞している(2006年)。
 〇インシリコ創薬
 細胞生物学的、生化学的な手法を主とする創薬候補物質の探索に対して、コンピュータ(シリコンチップ)の中で行う創薬をインシリコ(in silico)創薬と呼ぶ。
 〇汎用スーパーコンピュータ
 さまざまな用途で高速計算を行えるコンピュータ。スーパーコンピュータ「京」やその後継機「富岳」は、汎用スーパーコンピュータの例。
 〇大規模集積回路(LSI:Large Scale Integration)
 特定の演算機能を持たせるために、多数の素子を一つにまとめた電子部品を集積回路(Integragted Circuit, IC)といい、素子の集積度が1,000個~10万個程度のものを大規模集積回路(LSI)と呼ぶ。
 〇原子系
 物質を、力学法則に従う粒子(原子)の集合として捉えた系。水溶液中の一般的なタンパク質は、タンパク質を構成する数千個の原子と、周囲の数万個の水分子からなる10万原子系と見なすことができる。
 〇分子標的薬
 特定の疾患に関与する分子だけに作用する薬剤。例えばがん治療においては、増殖中の細胞が一般的に持つ性質を利用する従来の抗がん剤に対して、がん細胞の増殖に特に関与する分子を標的とする薬剤を開発することにより、副作用の軽減が期待される。
 〇X線結晶解析
 構造生物学の手法の一つ。タンパク質の結晶を作製し、その結晶にX線を照射して得られる回折データを解析することにより、タンパク質の内部の原子の立体的な配置を調べる方法。この方法によって、タンパク質の形(立体構造)や内部構造を知ることができる。
 〇システムオンチップ(SoC)
 演算処理を担うCPUのみを集積した回路に対し、メモリや信号処理を含めたシステム全体を一つのチップに載せたもの。
 〇RISC-V
 カリフォルニア大学バークレイ校を中心に開発されているコンピュータの命令セットアーキテクチャ(Instruction Set Architecture: ISA)の一つ。RISC-Vは完全にオープンであり、RISC-VのISA使うためのライセンス料は不要。
 〇FPGA(プログラム可能な集積回路)
 製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路。FPGAはField-Programmable Gate Arrayの略。
 〇3次元FFT
 計算機上で離散フーリエ変換を高速に計算するアルゴリズム。信号処理などで頻繁に用いられている。例えば2次元FFTは、よく使われている「JPEG」フォーマットでの画像データ圧縮の基礎である。FFTは、Fast Fourier Transform(高速フーリエ変換)の略。
 〇ムーアの法則
 世界最大の半導体メーカーIntel社の創設者の一人であるGordon Moore博士が1965年に経験則として提唱した、「半導体の集積密度は18~24カ月で倍増する」という法則。
 〇D. E. Shaw研究所
 計算機科学研究者でありヘッジファンド創設者のD. E. Shawが創設した米国の私設研究所。分子シミュレーション専用計算機の開発に際して、集積化したチップの搭載を世界に先駆けて実現した。

 天気は朝から晴れ。
 塀の上に飛び出した”シロヤマブキ”の黒い実を見つけた。”シロヤマブキ”は白花の”ヤマブキ”ではない。”シロヤマブキ”はバラ科シロヤマブキ属であり、”ヤマブキ(山吹)”はバラ科ヤマブキ属である。 ”ヤマブキ”の花色は黄色(山吹色)で5弁花。”シロヤマブキ”は4弁花。葉の付き方は、”シロヤマブキ”は対生、”ヤマブキ”は互生である。
 ”シロヤマブキ(白山吹)”の名は、花の様子が”ヤマブキ(山吹)”似の白花から付けられた。因みに、実がなるのは”ヤマブキ”も”シロヤマブキ”も花が一重(ひとえ)だけ。
 シロヤマブキ(白山吹)
 学名:Rhodotypos scandens
 バラ科シロヤマブキ属
 落葉低木
 開花時期は4月~5月
 花は花弁4枚(径3cm~5cm)で白色
 果実は痩果で、1花に光沢がある黒色の実が4個付く
 4個の実は熟すと黒色となる