興味深い記事を見つけた。1年以上前の2018年3月9日発表の技術記事である。
北海道大学石垣侑祐助教・大学院生の島尻拓哉氏・鈴木孝紀教授らの研究グループは、通常の結合長より17%も長い炭素-炭素単結合を持つ安定な化合物の創出に成功した。今回の成果は、世界記録の更新に留まらず、化学結合の極限状態で生じる現象の解明につながるもの。例えば、1.8Aを超える「超結合」は、外部刺激に柔軟に応答する可能性を秘めており、新たな材料開発への応用が期待され、新たな材料開発の進展が期待される。
ポイント
〇1.8 A を超える炭素-炭素単結合を有する安定な化合物の創出に世界ではじめて成功。
〇通常の結合長より17%も長いにもかかわらず、このような結合が存在することを実験的に証明。
〇市販の化合物からわずか3工程で合成可能であり、新たな材料開発の進展に期待。
背景
有機化合物は炭素や水素・酸素・あるいは窒素といった原子で構成され、これらの原子同士が互いに結合することで有機分子を形作る。この「化学結合」は、物質を創る最も基本的な要素であり、その本質を理解することは極めて重要な研究課題である。中でも炭素-炭素共有結合は有機分子の基礎となる結合であり、ほぼすべての化合物で単結合長は1.54 A という決まった値をとる。これらの結合を組み合わせることで数多くの分子が創られているが、1.7 A を超える炭素-炭素結合長を有する化合物の報告例は限られたものしかなかった。世界一長い炭素-炭素単結合の創出は、単なる数字の追求だけではなく、化学の本質解明に向けた至上命題ともいえる。
研究手法
研究グループは、以前に1.791(3) A の結合長を有する化合物を報告しており、通常の結合よりもはるかに長いが故に弱い結合(コア)をいかにして安定化させるかが、記録更新への課題であった。今回の研究では、本来不安定なコアを大きく剛直な骨格(シェル)で保護するような分子設計戦略を採用して、二つのジベンゾシクロヘプタトリエン骨格を有する新たな化合物を設計した。理論計算化学により分子構造を予測したところ、大きな二つのシェルが非対称に折れ曲がり、中心の結合を効果
的に保護するような「分子内コア-シェル構造」が確認された。その特異な構造によって長い炭素-炭素結合の存在も予測されたことから、市販の化合物から3工程で得る効率的な方法を考案し、実際に合成した化合物を用いて検討を行った。その結果、X線結晶構造解析によって結晶中での結合長を明らかにし、結合の存在を裏付ける結合電子を観測した。また、炭素-炭素結合に特徴的な伸縮振動をラマン分光法によって直接観測することで、実験的に結合の存在を証明することに成功した。
研究成果
新たに合成した化合物のX線結晶構造解析を低温(-73℃)で行ったところ、計算により予測された構造とよく一致し、中央の炭素-炭素結合は1.7980(18) A と従来の記録を超える結合長が明らかとなった。通常の単結合は強固であるため温度によって値が変化することは稀であるが、このように長い結合は結合エネルギーが小さく、伸縮性があると考えられる。そこで、様々な温度(-173~+127℃)で測定を行ったところ、高温では結合が長くなり、+127℃において1.806(2) A という世界一の炭素-炭素結合長を示した。高精度の解析が可能な実験を行うことで、結合電子対の存在を確認することもできた。また、ラマン分光法によっても結合の伸縮振動が理論予測と一致して観測され、世界で初めてとなる1.8 A を超える結合を実証した。
特筆すべき点はこの物質の安定性である。一般的には結晶状態で安定でも溶液中では分子の運動が大きくなり、結合が切断したり分解生成物が生じたりする可能性もあります。そこで、溶液中での安定性についても確認したところ、+127℃の高温下でも全く分解は見られず、大気中室温で100日放置しても安定だった。以上の研究結果から、本分子設計指針である「分子内コア-シェル構造」の有効性が確かめられ、「世界一長い炭素-炭素単結合の創出」に成功した。
今後への期待
今回の研究によって,1.8 A を超える炭素-炭素単結合を創出し、その存在を実験的に証明することができた。このような「超結合」の伸縮振動はラマン分光法によって明らかにされ、通常の結合エネルギーより著しく小さいことが特徴的である。これにより、本来強固な化学結合に柔軟性が付与され、圧縮や引張といった機械刺激に応答する新規材料の創出につながると考えられる。
◆用語解説
〇コア-シェル構造
中心の核(コア)を外殻(シェル)が覆うような集合体のこと。本研究においては、長く弱い結合(コア)を剛直な骨格(シェル)が保護していることを意味する。
〇A(オングストローム)
0.1 nm(ナノメートル)、即ち1 ミリメートルの1/1000 の更に1/10000の長さ。
〇結合エネルギー
二個の原子がばらばらに存在するときのエネルギーと、共有結合を形成して安定化しているときのエネルギーの差のこと。結合エネルギーが小さいということは、外部からの刺激などで結合が切断してしまいやすく、不安定であることを意味する。
〇超結合(hyper covalent bond)
1.8~2.0 A の範囲にある長い炭素-炭素結合のことで、石垣助教らはこのような共有結合を「超結合」と呼ぶことを提唱している。通常の共有結合には見られない「伸縮性」や「応答性」の発現が期待される。
〇理論計算化学
コンピューターを用いて分子の構造を予測したり、反応経路を解析したりする手法のこと。本研究では,密度汎関数(DFT)法と呼ばれる手法を用いて,結晶の最適化構造やエネルギーを導いている。この方法は電子密度から計算するものであり、有機化合物に広く用いられている。
〇X 線結晶構造解析
試料(単結晶)にX 線を照射し、結晶構造を明らかにする解析法のこと。分子の構造を確認することで、結合長や結合角といった情報を取得できる。
〇伸縮振動
結合がバネのように伸び縮みする現象のこと。結合の強さと原子の質量によって検出される波数が異なる。
〇ラマン分光法
レーザーを照射し、ラマン散乱光を検出することで、分子内の伸縮振動などを検出できる測定法のこと。
今日は雲多いが晴れ。風は穏やかで微風程度。
散歩道沿いで、赤い実・黄色の実が沢山付いた”ピラカンサ”を見つけた。まだ鳥に食べられていない・・綺麗だね、自宅の”ピラカンサ”の実は殆どない。
”ピラカンサ”は、バラ科トキワサンザシ属(Pyracantha) の種類の総称である。日本では赤色の実の”トキワサンザシ:常磐山査子”、黄色の実の”タチバナモドキ:橘擬”、赤色の実の”カザンデマリ:花山手毬”の3種類が多く栽培されており、これをピラカンサと一括りで呼んでいる事が多い。赤いこの実は、”トキワサンザシ””カザンデマリ”・・どちらかかな。
ピラカンサ
バラ科トキワサンザシ(ピラカンサ)属
常緑低木
開花時期は4月~6月
花は小さく、白い5弁花
果実は径2cm位で赤・橙・黄色に熟す、見頃は10月~12月
ピラカンサと呼ばれる
タチバナモドキ(橘擬)
学名:Pyracantha angustifolia
果実は橙(黄)色
トキワサンザシ(常盤山櫨子)
学名:Pyracantha coccinea
果実は鮮紅色に熟す。カザンデマリと相似し区別しにくい
カザンデマリ(花山手毬)
学名:Pyracantha crenulata
果実は赤い。別名ヒマラヤトキワサンザシ