2012/01/20
ぽかぽか春庭十二単日記>遊びをせんとや生れけむ(7)写真美術館散歩
私の散歩、長い距離動き回るときは自転車散歩です。去年は、水元公園まで2時間かけて自転車で走り、菖蒲を見てきました。電車で出かけて、公園や庭園を散歩するのも好き。今年もバラやツツジ、紫陽花、菖蒲、あちこちの花を見て歩くつもりです。美術館散歩、博物館散歩は、招待券が手に入り次第なので、いつどこに行くとも決まっていません。
1月2日、東京写真美術館へ。箱根駅伝を往路ゴールを見てから出かけ、6時の閉館まで、楽しく歩きました。正月2日の写真美術館は、どのフロアも無料公開です。無料、大好き。
3F「ストリート・ライフ ヨーロッパを見つめた7人の写真家たち」。イギリス、ドイツ、フランスで19世紀後半から20世紀前半に展開した社会記録写真(ソーシャル・ドキュメンタリー)を展示。写真家たちは、町に出て、産業革命後の急激なヨーロッパの変化を写し取りました。写真そのものが過渡期の技術であり、さまざまな技法が試みられた中、トーマス・アナン、ジョン・トムソン、ビル・ブラント、ブラッサイ、ウジェーヌ・アジェ、アウグスト・ザンダー、ハインリッヒ・ツィレらが、消えゆく街角、貧民街の生活風景など、失われていく歴史の一コマを記録しました。
http://syabi.com/contents/exhibition/index-1448.html
ヨーロッパの街の表情、そして人々のようす。なにげない街角の記録が、激動の時代の歴史をしっかりと表現していることに心惹かれました。
2F「日本の新進作家展vol.10写真の飛躍」
私にはわからない様々な撮影技術現像技術を駆使して、写真の新しい表現をしている若い写真作家たち。多重露光、露出、コラージュなどの技法。ロビーのテレビモニターでは、出品作家のうち一番若い1982年生まれの西野壮平が、写真によるコラージュ作品を完成させるまでを録画し、流していました。都市をうつした写真を大きな画面に並べていき、ひとつの都市のイメージコラージュを作り上げるという作品です。モノクロで写した都市の写真。それを並べて「Diorama Map」を作り上げる。
今回の展示作品とは違うものだけれど、こんな作品
http://web.canon.jp/scsa/newcosmos/gallery/2005/sohei_nishino/index.html
B1F「映像をめぐる冒険vol.4見えない世界のみつめ方」
出品作家の鳴川肇さんが会場にいて、自作の「地球儀と同じ縮尺で正確な面積のまま標示される平面地図」の作成方法について、説明していました。「AuthaGraph World Map」という投影技法で、球体から多面体へ、多面体から正四角錐へと地図を投影していき、正四角錐を展開すると、縮尺がゆがまない地図ができあがる、という方法です。一般の地図のメルカトル図法などだと、極地に近づくほど面積が大きくなってしまう欠点がありますが、それを是正する画期的な平面地図です。
私たちが住む地球の姿への意識のありよう。天動説であったころから、地動説へ。20世紀後半から、衛星写真、月から捉えた地球の写真などで、地球が青い星だというイメージは、完全に人々の脳裏に埋め込まれたのだけれど、それまでの人類のイメージの形成で、どのように地球が捉えられてきたか、天動説の本などが展示されていました。
1969年に、アポロ11号によって撮影された「地球の出」の写真。私たちがほんとうに丸いひとつの星の上に住んでいることを強烈に印象づけた1枚の写真でした。
「見ること」は、写真を撮ることや絵を描くことに比べ受動的に感じられるかも知れません。でも、「見る」という行為の能動性は、人間の心理をそっくり変えてしまうくらい強いものでもあります。
今年は上野の東京都美術館がリニューアルオープンするし、美術館歩き、いろいろ楽しめそうです。次回から東京国立博物館「清明上河図」にたどり着くまでの4時間待ちについて。
<つづく>
07:10 コメント(1) ページのトップへ
2012年01月21日
ぽかぽか春庭「博物館で列に並ぶ」
2012/01/21
ぽかぽか春庭十二単日記>遊びをせんとや生れけむ(8)博物館で列に並ぶ
たいていの場合、美術館を歩くのは招待券をもらったときに限る。自分でお金を出して入館料払うのは、よほどのとき。で、正月2日から公開の「清明上河図」を見ようかどうか迷っていたのも、招待券が手に入れられそうにないので、さて、1500円という私にしてみれば高いチケットを買うかどうか迷った10日間。えい、清水の舞台、、、、、というほどは高くないが、2階の屋根くらいから飛び降りて、チケット購入。買ったからには朝早くから夕方までたっぷり時間をとって見ようと、13日金曜日の朝、9時半には家を出ました。この日は、センター試験準備日休講で、平日に休みがとれ、平日だから空いているかも、と思って出かけたのです。
ところが、10時開館と思った東京国立博物館は9時半にオープンしていて、10時ちょいすぎに正門に着いたときには、すでに長い列が平成館から本館前まで伸びていました。
平日の10時だというのに、世の中、こんなにも閑そうなじいさんばあさんがいるんだ!と感心する。
若い人はほとんど見かけない。そりゃそうね。働いているか学校へ行っているか。ヒマなのは爺さん婆さん。たまに白いダウンやら煉瓦色のコートがいるけれど、爺さん婆さん達は、黒っぽいコートやらダークグレイ、焦げ茶などが多いので、全体的に黒々とした列で、冬の寒さがいっそう増す気がする。そういう私も、ユニクロの黒いウルトラライトダウンの上に焦げ茶のコートを重ね着するという完全防備の冬支度バーサンです。このユニクロウルトラライトダウン、電車の一車両に5人は見かける。私は去年買えなくて、元日の特売で買いました。くすん、また柳井正を儲けさせてしまった。
「平成館の入り口に達するまで50分待ち。入館したあと、「清明上河図」の前にたどり着くまでには、さらに180分待ち」と、列をさばく係の看板に書いてあります。どうしようかと迷いました。いつもなら「こんなに混んでいるんなら、別の日にまた来よう」とか思うところですが、なにせ、1500円払ってしまったので、「これをムダにしてなるものか」と、貧乏性が言う。はい、おとなしく並びました。3時間。
平成館に入るまで40分。このときはバッグに入っていた山田風太郎の『あと千回の晩飯』を読んでいました。面白い。でも、もう後半ですから、2時間もたたないうちに読み終わりそう。読み終わっちゃったら、あとの時間、どうやってヒマ潰そうか。夫婦連れは仲よさそうに語り合っているし、友達と二人連れのおばちゃん組は賑やかにおしゃべりしている。こういうとき、おひとり様は本がないと困ってしまう。列に並んでいる人のウォッチングも3時間も続けたら飽きてしまう。
列が動いたので、読み終わりそうな文庫をバッグにしまって入館し、「清明上河図」観覧の列に加わりました。
北京の故宮博物院に行ったことあるけれど、「清明上河図」は、中国の人だってめったに見ることが出来ない秘宝中の秘宝。これを逃したら、一生のうちに見ることができないだろうと思うから、おとなしく並びました。
1階ラウンジに2人ずつ並ぶという列、私はひとりだから、もう一人70代くらいの白髪の女性と組になりました。
私が文庫本を読んでいると、彼女は小さなスケッチブックに、スケッチをしている。列の移動のとき、ちらっと覗くと、ささっと書いているけれどなかなかうまい。「お上手ですね、絵をやっていらっしゃるんですか」と声をかけてみたところ、それから怒濤の彼女のおしゃべりが続き、3時間飽きることなく列に並んでいられました。
<つづく>
10:32 コメント(0) ページのトップへ
2012年01月22日
ぽかぽか春庭「博物館で待ち続ける」
2012/01/22
ぽかぽか春庭十二単日記>遊びをせんとや生れけむ(9)博物館で待ち続ける
清明上河図を見るための、3時間待ちの列。
いっしょに並ぶ70代とお見受けした女性、見学待ち行列に並んで、おしゃべりが続きました。「あのね、私、八王子市の絵画教室に入って水墨画習ってるの。初級中級ときて、上級はもう2回くりかえしたんだけれど、毎回教室の人気が高くて抽選だから、もう、応募しても、初めての人が優勢みたいで、はずれちゃったの。中国から来たとてもすばらしい先生で、リー先生、ムサビでも教えているの。こうやってこんなふうに身体使って筆動かすので、そりゃもうすばらしい絵なんです」と、先生自慢をする。
「そうですか。私も中国に行っていたころずいぶん水墨画も見ましたけれど、故宮博物院でも清明上河図は展示していなかったので、今回はとても期待して見にきました。ご自身で水墨画習っていらっしゃるなら、私のような素人とは違って、深い見方がおできになるでしょうから、いろいろ教えていただきたいです」と、話を向ける。
彼女が名前と電話番号のメモをくれたので、私も名刺を渡しました。Oさんというお名前。
Oさんは「ほら、これは、私の絵に5歳の孫が色をつけたんですけれど、とても色づかいがいいでしょう」と、別のスケッチブックを開いた。「あら、お上手ですね、お孫さん、絵がお好きなら、先が楽しみですね」と、見せてもらう。
純真なこどものころは伸びやかな線を描き、こだわりのない色づかいができるのに、大人になると自由な絵心が消えてしまう、など、彼女の話が続きます。彼女の娘さんは西日暮里に住んでいて、上野に来るときなどは娘の家で一泊し、それから美術館巡りをするのだそうです。
「もう、私、認知症が始まったみたいなので、、、、」とOさんが言うので、「そんなことないでしょう、しっかりお話なさっているし、こうして元気に絵を見たり描いたりなさっているのですもの。私のほうこそ、物忘れが多くて、今日も東博は9時半オープンっていうのを忘れちゃって、ほかの美術館のように10時オープンだと思って来たら、この行列だもの、ちゃんと開館時間を覚えていなかったこっちが悪いんですけど」
長い待ち時間でしたが、彼女はしゃべりっぱなし。
Oさんは、1937(昭和12)年生まれというので、今は75歳。小柄な身体ですが、元気いっぱいに見えます。
「すっと仕事を持っていたんですけど、娘がね、年をとったらいつまでも仕事していないで、好きなことだけしたほうがいいって勧めてくれたので、こうして美術館に来たりしているんです」
「いいですねぇ、私はまだまだ仕事を続けなければ食べていけないので。今日はたまたま休みになってので、平日に来られたけれど、平日で3時間待ちなら、土日はもっとすごいでしょうね」
彼女は若い頃、絵を志していたけれど、結婚後は絵はあきらめて、家事育児のほか、時間にしばられずに仕事ができるフリーの速記者として雑誌のインタビュー速記をしていたのだそうです。「速記1級なんて、すごいじゃないですか。私の夫、新聞記者の仕事に必要だろうからって速記を習ったって言っていましたけれど、2級とるのがせいいっぱいで、1級はよほどすごい人じゃないと合格しないって言っていましたよ」
速記1級がむずかしい専門職なのだ、ということを知っている人間に出会えて気分よくしたとみえ、速記者時代の話を続けてしてくれました。
<つづく>
00:57 コメント(2) ページのトップへ
2012年01月24日
ぽかぽか春庭「無限ループ話を聞く」
2012/01/24
ぽかぽか春庭十二単日記>遊びをせんとや生れけむ(10)無限ループ話を聞く
Oさんが尋ねるので、私が読んでいた文庫は山田風太郎のエッセイだと言うと、「あら、その作家は知らないけれど、私、作家に会ったことあるわ。ほら、日本沈没とかの、あら、誰だったかしら」「日本沈没は小松左京だと思いますけど。昨年亡くなりましたよね」「そうそう、その人。私会ったことあるのよ。雑誌の仕事でインタビューに行ったの。話の内容は全部忘れたけれど、つりズボンのベルトのところをこうやって伸ばして話していたの覚えているわ」と、「私が会った有名人」シリーズがはじまりました。
「あと、あの人、だれだっけ、芸術は爆発だ、の人」「岡本太郎ですか」「そうそう、あの人の講演会にも行ったわ。若い女の人といっしょにいたっけ」「その人はたぶん、岡本敏子さんでしょうね」「そうそう、思い出した。お母さんたち相手の講演会で、岡本太郎さんは、子どもは子どもの気持ちのままに自由に絵を描けばいいって言ってた」
そのほか、大江健三郎や松下幸之助のインタビューも速記記録したとのこと。
「松下さんはね、四畳半で奥さんと明日食べる米がないって泣いていたこともあるってお話してました」というので、「ええ、私も『神様の女房』ってドラマ見ましたよ。常盤貴子が松下むめのやってましたね」
「そうそう、女優さんにもいろいろ会った。女優の三田佳子は芸能人には珍しく、時間をきちんと守る人だったわ。高千穂ひずるはプロ野球関係の人がおとうさんだったわね、色の白い人でした。山本富士子はね、一番ツンとした人でした」
速記者としてインタビューに立ち会ってきたけれど、速記録を文字に起こして、雑誌社に送ればそれで仕事は終わりなので、記録も何もとっていないといいます。「あら、もったいない。会った方達の印象を一行の記録でもいいから、お孫さんに残しておあげになったらよろしいじゃありませんか」と話す。
「清明上河図」の展示室が見えてきて、180分待ちの列もようやく終わりになると思った頃、「やっと清明上河図に対面できますね」と私が言うと、彼女の話は「あのね、私、八王子市の絵画教室に入って水墨画習っているの。初級中級ときて、上級はもう2回くりかえしたんだけれど、毎回教室の人気が高くてね。抽選だから、初めての人が優先みたいで、私は、はずれちゃったの。中国から来たとてもすばらしい先生で、ムサビでも教えているんだけど、リー先生、こうやってこんなふうに子どもみたいに自由に身体使って筆動かして、、そりゃもうすばらしい絵なんです」と、列に並び始めたころの話題にループしました。
それまでたびたび「私、認知症もはじまっていて」というのを、「元気なお年寄りジョーク」だと思っていたのですが、まさか、話が最初に戻るとは。
「うちの5歳になる孫、私のスケッチに色を塗ってくれるんですけど、この色づかいは、大人にはとても出せないもので、、、、」と、孫の自慢話もループ。
おお、これがお年寄りの無限ループ話か。
どこかの老人ホームへ行って傾聴ボランティアしようかしら、なんて、気軽に考えたことを反省しました。同じ話が2度繰り返されただけでびっくりしているんだもの。4度でも5度でもにこやかに相づちをうって同じ話を聞くというボランティアは、とてもできそうにない。年寄りの無限ループ話を傾聴するのは、姑の昔話だけにしておいたほうがよさそうです。
<つづく>
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2012年01月25日
ぽかぽか春庭「清明上河図を見る」
2012/01/25
ぽかぽか春庭十二単日記>遊びをせんとや生れけむ(11)清明上河図を見る
東博平成館2階の第2展示室。中に入ると、まだまだ列はぎっしり続く。拡大された清明上河図が貼ってある壁に沿ってのろのろ進む。係員はひっきりなしに「立ち止まらないでください。一歩ずつ前へ進んで下さい」と声を張り上げています。
拡大図を見ながら、いっしょに列に並んだOさんと「すごい筆使いですね」と、そろそろと進みました。清明上河図の拡大絵が見えるようになったら、Oさんの話は「上河図」のことになったので、無限ループかと思った思い出話が終わって、ちょっとほっとしました。
本物を見る前に、拡大図で細かいところまでよくわかって面白かったです。図版ではあまりよくわからないところも、細々と見て取れました。
いよいよガラスケースに入った清明上河図の本物。
私は館内係員が「前の方に続いて、一歩ずつおすすみください」とガナるので、前の人に続いてすすみましたが、私の後ろにいるはずのOさんは、すすもうとせず、私とOさんの間に隙間ができました。振り返ってOさんを見ると、涙ぐんでいます。
ずっと見たいと願っていた絵を見ることができて、もうこの絵を見るのはこれで最後かもしれない、そんな感慨いっぱいの目でした。間がどんどん開いても、Oさんは前にすすもうとしないので、私はOさんから離れて、一足先に展示会場を出ました。Oさん、係員に追い立てられるまで、見入っていたことでしょう。
会場を一歩出てしまうと逆行はできず、もう一度見たい人は、1階ロビーの待ち列最後尾に行ってくださいとのこと。さすがに、もう一度3時間も待つ気にはなれない。
Oさん、もう会うことはないのでしょうね。「昔のことは思い出すけれど、きのう今日のことはすぐ忘れちゃうのよ」と言っていたとおりに、私と会っておしゃべりしたことも、明日には忘れてしまうのでしょう。明日は明日で、Oさんは出会った人に無限ループで孫の話をしているのかも。
ケースの中の絵をじっくり見ることもできずに、追い立てられるように会場を出てしまい、3時間待って、絵を見ていられた時間は10分ほどです。
「清明上河図」本物を見た、という感慨だけ残して、絵の細かいところは、図版でもう一度見ようと、図録購入。2500円。入場料の1500円とあわせて4000円。一日の行楽費としては、私としては大盤振る舞いです。まあ、まだ正月気分ということで、自分にお年玉。
第2展示室の書をざっと見て出ると、2時になっていました。朝ご飯食べずに来たので、さすがにおなかがすきました。休館中の東洋館にある精養軒のレストランで「広島牡蠣フライ定食」1300円を食べてから、ふたたび平成館へ。
朝方は180分待ちの看板が出ていましたが、午後は210分待ちの標示。みんなそんなに清明上河図が見たいのか、と、思ったら、1月8日の朝、日曜美術館で特集が組まれ紹介されたところだったのだそうです。善男善女は、テレビで紹介されれば、押すな押すなで列に並ぶ。まあ、私も並んだ「ヒマそーなバーサン」のひとりです。これなら、1500円のチケットに躊躇せず、1月5日見ればよかった。5日は、世間では仕事が始まっていて、私はまだ冬休みだったから。平日に見ることができて、ジーサンバーサンたちは、テレビを見て押しかける前で、13日ほどは混んでいなかったろう。
第2展示室の「故宮博物院の至宝」を見ました。清王朝第6代皇帝乾隆帝(けんりゅうてい、1711-1799)の遺物などを中心に、皇帝衣装や宝物が並んでいます。『蒼穹の昴』を去年見たところだし、興味深く見てまわりました。
「清明上河図」一生に一度かも知れず、見ることができてよかったです。お話をきかせてくださった元速記者、八王子のOさんにも、出会えて良かったです。
これからも美術館博物館散歩、絵との出会い、人との出会いを楽しみにして歩きまわります。
<つづく>
ぽかぽか春庭十二単日記>遊びをせんとや生れけむ(7)写真美術館散歩
私の散歩、長い距離動き回るときは自転車散歩です。去年は、水元公園まで2時間かけて自転車で走り、菖蒲を見てきました。電車で出かけて、公園や庭園を散歩するのも好き。今年もバラやツツジ、紫陽花、菖蒲、あちこちの花を見て歩くつもりです。美術館散歩、博物館散歩は、招待券が手に入り次第なので、いつどこに行くとも決まっていません。
1月2日、東京写真美術館へ。箱根駅伝を往路ゴールを見てから出かけ、6時の閉館まで、楽しく歩きました。正月2日の写真美術館は、どのフロアも無料公開です。無料、大好き。
3F「ストリート・ライフ ヨーロッパを見つめた7人の写真家たち」。イギリス、ドイツ、フランスで19世紀後半から20世紀前半に展開した社会記録写真(ソーシャル・ドキュメンタリー)を展示。写真家たちは、町に出て、産業革命後の急激なヨーロッパの変化を写し取りました。写真そのものが過渡期の技術であり、さまざまな技法が試みられた中、トーマス・アナン、ジョン・トムソン、ビル・ブラント、ブラッサイ、ウジェーヌ・アジェ、アウグスト・ザンダー、ハインリッヒ・ツィレらが、消えゆく街角、貧民街の生活風景など、失われていく歴史の一コマを記録しました。
http://syabi.com/contents/exhibition/index-1448.html
ヨーロッパの街の表情、そして人々のようす。なにげない街角の記録が、激動の時代の歴史をしっかりと表現していることに心惹かれました。
2F「日本の新進作家展vol.10写真の飛躍」
私にはわからない様々な撮影技術現像技術を駆使して、写真の新しい表現をしている若い写真作家たち。多重露光、露出、コラージュなどの技法。ロビーのテレビモニターでは、出品作家のうち一番若い1982年生まれの西野壮平が、写真によるコラージュ作品を完成させるまでを録画し、流していました。都市をうつした写真を大きな画面に並べていき、ひとつの都市のイメージコラージュを作り上げるという作品です。モノクロで写した都市の写真。それを並べて「Diorama Map」を作り上げる。
今回の展示作品とは違うものだけれど、こんな作品
http://web.canon.jp/scsa/newcosmos/gallery/2005/sohei_nishino/index.html
B1F「映像をめぐる冒険vol.4見えない世界のみつめ方」
出品作家の鳴川肇さんが会場にいて、自作の「地球儀と同じ縮尺で正確な面積のまま標示される平面地図」の作成方法について、説明していました。「AuthaGraph World Map」という投影技法で、球体から多面体へ、多面体から正四角錐へと地図を投影していき、正四角錐を展開すると、縮尺がゆがまない地図ができあがる、という方法です。一般の地図のメルカトル図法などだと、極地に近づくほど面積が大きくなってしまう欠点がありますが、それを是正する画期的な平面地図です。
私たちが住む地球の姿への意識のありよう。天動説であったころから、地動説へ。20世紀後半から、衛星写真、月から捉えた地球の写真などで、地球が青い星だというイメージは、完全に人々の脳裏に埋め込まれたのだけれど、それまでの人類のイメージの形成で、どのように地球が捉えられてきたか、天動説の本などが展示されていました。
1969年に、アポロ11号によって撮影された「地球の出」の写真。私たちがほんとうに丸いひとつの星の上に住んでいることを強烈に印象づけた1枚の写真でした。
「見ること」は、写真を撮ることや絵を描くことに比べ受動的に感じられるかも知れません。でも、「見る」という行為の能動性は、人間の心理をそっくり変えてしまうくらい強いものでもあります。
今年は上野の東京都美術館がリニューアルオープンするし、美術館歩き、いろいろ楽しめそうです。次回から東京国立博物館「清明上河図」にたどり着くまでの4時間待ちについて。
<つづく>
07:10 コメント(1) ページのトップへ
2012年01月21日
ぽかぽか春庭「博物館で列に並ぶ」
2012/01/21
ぽかぽか春庭十二単日記>遊びをせんとや生れけむ(8)博物館で列に並ぶ
たいていの場合、美術館を歩くのは招待券をもらったときに限る。自分でお金を出して入館料払うのは、よほどのとき。で、正月2日から公開の「清明上河図」を見ようかどうか迷っていたのも、招待券が手に入れられそうにないので、さて、1500円という私にしてみれば高いチケットを買うかどうか迷った10日間。えい、清水の舞台、、、、、というほどは高くないが、2階の屋根くらいから飛び降りて、チケット購入。買ったからには朝早くから夕方までたっぷり時間をとって見ようと、13日金曜日の朝、9時半には家を出ました。この日は、センター試験準備日休講で、平日に休みがとれ、平日だから空いているかも、と思って出かけたのです。
ところが、10時開館と思った東京国立博物館は9時半にオープンしていて、10時ちょいすぎに正門に着いたときには、すでに長い列が平成館から本館前まで伸びていました。
平日の10時だというのに、世の中、こんなにも閑そうなじいさんばあさんがいるんだ!と感心する。
若い人はほとんど見かけない。そりゃそうね。働いているか学校へ行っているか。ヒマなのは爺さん婆さん。たまに白いダウンやら煉瓦色のコートがいるけれど、爺さん婆さん達は、黒っぽいコートやらダークグレイ、焦げ茶などが多いので、全体的に黒々とした列で、冬の寒さがいっそう増す気がする。そういう私も、ユニクロの黒いウルトラライトダウンの上に焦げ茶のコートを重ね着するという完全防備の冬支度バーサンです。このユニクロウルトラライトダウン、電車の一車両に5人は見かける。私は去年買えなくて、元日の特売で買いました。くすん、また柳井正を儲けさせてしまった。
「平成館の入り口に達するまで50分待ち。入館したあと、「清明上河図」の前にたどり着くまでには、さらに180分待ち」と、列をさばく係の看板に書いてあります。どうしようかと迷いました。いつもなら「こんなに混んでいるんなら、別の日にまた来よう」とか思うところですが、なにせ、1500円払ってしまったので、「これをムダにしてなるものか」と、貧乏性が言う。はい、おとなしく並びました。3時間。
平成館に入るまで40分。このときはバッグに入っていた山田風太郎の『あと千回の晩飯』を読んでいました。面白い。でも、もう後半ですから、2時間もたたないうちに読み終わりそう。読み終わっちゃったら、あとの時間、どうやってヒマ潰そうか。夫婦連れは仲よさそうに語り合っているし、友達と二人連れのおばちゃん組は賑やかにおしゃべりしている。こういうとき、おひとり様は本がないと困ってしまう。列に並んでいる人のウォッチングも3時間も続けたら飽きてしまう。
列が動いたので、読み終わりそうな文庫をバッグにしまって入館し、「清明上河図」観覧の列に加わりました。
北京の故宮博物院に行ったことあるけれど、「清明上河図」は、中国の人だってめったに見ることが出来ない秘宝中の秘宝。これを逃したら、一生のうちに見ることができないだろうと思うから、おとなしく並びました。
1階ラウンジに2人ずつ並ぶという列、私はひとりだから、もう一人70代くらいの白髪の女性と組になりました。
私が文庫本を読んでいると、彼女は小さなスケッチブックに、スケッチをしている。列の移動のとき、ちらっと覗くと、ささっと書いているけれどなかなかうまい。「お上手ですね、絵をやっていらっしゃるんですか」と声をかけてみたところ、それから怒濤の彼女のおしゃべりが続き、3時間飽きることなく列に並んでいられました。
<つづく>
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2012年01月22日
ぽかぽか春庭「博物館で待ち続ける」
2012/01/22
ぽかぽか春庭十二単日記>遊びをせんとや生れけむ(9)博物館で待ち続ける
清明上河図を見るための、3時間待ちの列。
いっしょに並ぶ70代とお見受けした女性、見学待ち行列に並んで、おしゃべりが続きました。「あのね、私、八王子市の絵画教室に入って水墨画習ってるの。初級中級ときて、上級はもう2回くりかえしたんだけれど、毎回教室の人気が高くて抽選だから、もう、応募しても、初めての人が優勢みたいで、はずれちゃったの。中国から来たとてもすばらしい先生で、リー先生、ムサビでも教えているの。こうやってこんなふうに身体使って筆動かすので、そりゃもうすばらしい絵なんです」と、先生自慢をする。
「そうですか。私も中国に行っていたころずいぶん水墨画も見ましたけれど、故宮博物院でも清明上河図は展示していなかったので、今回はとても期待して見にきました。ご自身で水墨画習っていらっしゃるなら、私のような素人とは違って、深い見方がおできになるでしょうから、いろいろ教えていただきたいです」と、話を向ける。
彼女が名前と電話番号のメモをくれたので、私も名刺を渡しました。Oさんというお名前。
Oさんは「ほら、これは、私の絵に5歳の孫が色をつけたんですけれど、とても色づかいがいいでしょう」と、別のスケッチブックを開いた。「あら、お上手ですね、お孫さん、絵がお好きなら、先が楽しみですね」と、見せてもらう。
純真なこどものころは伸びやかな線を描き、こだわりのない色づかいができるのに、大人になると自由な絵心が消えてしまう、など、彼女の話が続きます。彼女の娘さんは西日暮里に住んでいて、上野に来るときなどは娘の家で一泊し、それから美術館巡りをするのだそうです。
「もう、私、認知症が始まったみたいなので、、、、」とOさんが言うので、「そんなことないでしょう、しっかりお話なさっているし、こうして元気に絵を見たり描いたりなさっているのですもの。私のほうこそ、物忘れが多くて、今日も東博は9時半オープンっていうのを忘れちゃって、ほかの美術館のように10時オープンだと思って来たら、この行列だもの、ちゃんと開館時間を覚えていなかったこっちが悪いんですけど」
長い待ち時間でしたが、彼女はしゃべりっぱなし。
Oさんは、1937(昭和12)年生まれというので、今は75歳。小柄な身体ですが、元気いっぱいに見えます。
「すっと仕事を持っていたんですけど、娘がね、年をとったらいつまでも仕事していないで、好きなことだけしたほうがいいって勧めてくれたので、こうして美術館に来たりしているんです」
「いいですねぇ、私はまだまだ仕事を続けなければ食べていけないので。今日はたまたま休みになってので、平日に来られたけれど、平日で3時間待ちなら、土日はもっとすごいでしょうね」
彼女は若い頃、絵を志していたけれど、結婚後は絵はあきらめて、家事育児のほか、時間にしばられずに仕事ができるフリーの速記者として雑誌のインタビュー速記をしていたのだそうです。「速記1級なんて、すごいじゃないですか。私の夫、新聞記者の仕事に必要だろうからって速記を習ったって言っていましたけれど、2級とるのがせいいっぱいで、1級はよほどすごい人じゃないと合格しないって言っていましたよ」
速記1級がむずかしい専門職なのだ、ということを知っている人間に出会えて気分よくしたとみえ、速記者時代の話を続けてしてくれました。
<つづく>
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2012年01月24日
ぽかぽか春庭「無限ループ話を聞く」
2012/01/24
ぽかぽか春庭十二単日記>遊びをせんとや生れけむ(10)無限ループ話を聞く
Oさんが尋ねるので、私が読んでいた文庫は山田風太郎のエッセイだと言うと、「あら、その作家は知らないけれど、私、作家に会ったことあるわ。ほら、日本沈没とかの、あら、誰だったかしら」「日本沈没は小松左京だと思いますけど。昨年亡くなりましたよね」「そうそう、その人。私会ったことあるのよ。雑誌の仕事でインタビューに行ったの。話の内容は全部忘れたけれど、つりズボンのベルトのところをこうやって伸ばして話していたの覚えているわ」と、「私が会った有名人」シリーズがはじまりました。
「あと、あの人、だれだっけ、芸術は爆発だ、の人」「岡本太郎ですか」「そうそう、あの人の講演会にも行ったわ。若い女の人といっしょにいたっけ」「その人はたぶん、岡本敏子さんでしょうね」「そうそう、思い出した。お母さんたち相手の講演会で、岡本太郎さんは、子どもは子どもの気持ちのままに自由に絵を描けばいいって言ってた」
そのほか、大江健三郎や松下幸之助のインタビューも速記記録したとのこと。
「松下さんはね、四畳半で奥さんと明日食べる米がないって泣いていたこともあるってお話してました」というので、「ええ、私も『神様の女房』ってドラマ見ましたよ。常盤貴子が松下むめのやってましたね」
「そうそう、女優さんにもいろいろ会った。女優の三田佳子は芸能人には珍しく、時間をきちんと守る人だったわ。高千穂ひずるはプロ野球関係の人がおとうさんだったわね、色の白い人でした。山本富士子はね、一番ツンとした人でした」
速記者としてインタビューに立ち会ってきたけれど、速記録を文字に起こして、雑誌社に送ればそれで仕事は終わりなので、記録も何もとっていないといいます。「あら、もったいない。会った方達の印象を一行の記録でもいいから、お孫さんに残しておあげになったらよろしいじゃありませんか」と話す。
「清明上河図」の展示室が見えてきて、180分待ちの列もようやく終わりになると思った頃、「やっと清明上河図に対面できますね」と私が言うと、彼女の話は「あのね、私、八王子市の絵画教室に入って水墨画習っているの。初級中級ときて、上級はもう2回くりかえしたんだけれど、毎回教室の人気が高くてね。抽選だから、初めての人が優先みたいで、私は、はずれちゃったの。中国から来たとてもすばらしい先生で、ムサビでも教えているんだけど、リー先生、こうやってこんなふうに子どもみたいに自由に身体使って筆動かして、、そりゃもうすばらしい絵なんです」と、列に並び始めたころの話題にループしました。
それまでたびたび「私、認知症もはじまっていて」というのを、「元気なお年寄りジョーク」だと思っていたのですが、まさか、話が最初に戻るとは。
「うちの5歳になる孫、私のスケッチに色を塗ってくれるんですけど、この色づかいは、大人にはとても出せないもので、、、、」と、孫の自慢話もループ。
おお、これがお年寄りの無限ループ話か。
どこかの老人ホームへ行って傾聴ボランティアしようかしら、なんて、気軽に考えたことを反省しました。同じ話が2度繰り返されただけでびっくりしているんだもの。4度でも5度でもにこやかに相づちをうって同じ話を聞くというボランティアは、とてもできそうにない。年寄りの無限ループ話を傾聴するのは、姑の昔話だけにしておいたほうがよさそうです。
<つづく>
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2012年01月25日
ぽかぽか春庭「清明上河図を見る」
2012/01/25
ぽかぽか春庭十二単日記>遊びをせんとや生れけむ(11)清明上河図を見る
東博平成館2階の第2展示室。中に入ると、まだまだ列はぎっしり続く。拡大された清明上河図が貼ってある壁に沿ってのろのろ進む。係員はひっきりなしに「立ち止まらないでください。一歩ずつ前へ進んで下さい」と声を張り上げています。
拡大図を見ながら、いっしょに列に並んだOさんと「すごい筆使いですね」と、そろそろと進みました。清明上河図の拡大絵が見えるようになったら、Oさんの話は「上河図」のことになったので、無限ループかと思った思い出話が終わって、ちょっとほっとしました。
本物を見る前に、拡大図で細かいところまでよくわかって面白かったです。図版ではあまりよくわからないところも、細々と見て取れました。
いよいよガラスケースに入った清明上河図の本物。
私は館内係員が「前の方に続いて、一歩ずつおすすみください」とガナるので、前の人に続いてすすみましたが、私の後ろにいるはずのOさんは、すすもうとせず、私とOさんの間に隙間ができました。振り返ってOさんを見ると、涙ぐんでいます。
ずっと見たいと願っていた絵を見ることができて、もうこの絵を見るのはこれで最後かもしれない、そんな感慨いっぱいの目でした。間がどんどん開いても、Oさんは前にすすもうとしないので、私はOさんから離れて、一足先に展示会場を出ました。Oさん、係員に追い立てられるまで、見入っていたことでしょう。
会場を一歩出てしまうと逆行はできず、もう一度見たい人は、1階ロビーの待ち列最後尾に行ってくださいとのこと。さすがに、もう一度3時間も待つ気にはなれない。
Oさん、もう会うことはないのでしょうね。「昔のことは思い出すけれど、きのう今日のことはすぐ忘れちゃうのよ」と言っていたとおりに、私と会っておしゃべりしたことも、明日には忘れてしまうのでしょう。明日は明日で、Oさんは出会った人に無限ループで孫の話をしているのかも。
ケースの中の絵をじっくり見ることもできずに、追い立てられるように会場を出てしまい、3時間待って、絵を見ていられた時間は10分ほどです。
「清明上河図」本物を見た、という感慨だけ残して、絵の細かいところは、図版でもう一度見ようと、図録購入。2500円。入場料の1500円とあわせて4000円。一日の行楽費としては、私としては大盤振る舞いです。まあ、まだ正月気分ということで、自分にお年玉。
第2展示室の書をざっと見て出ると、2時になっていました。朝ご飯食べずに来たので、さすがにおなかがすきました。休館中の東洋館にある精養軒のレストランで「広島牡蠣フライ定食」1300円を食べてから、ふたたび平成館へ。
朝方は180分待ちの看板が出ていましたが、午後は210分待ちの標示。みんなそんなに清明上河図が見たいのか、と、思ったら、1月8日の朝、日曜美術館で特集が組まれ紹介されたところだったのだそうです。善男善女は、テレビで紹介されれば、押すな押すなで列に並ぶ。まあ、私も並んだ「ヒマそーなバーサン」のひとりです。これなら、1500円のチケットに躊躇せず、1月5日見ればよかった。5日は、世間では仕事が始まっていて、私はまだ冬休みだったから。平日に見ることができて、ジーサンバーサンたちは、テレビを見て押しかける前で、13日ほどは混んでいなかったろう。
第2展示室の「故宮博物院の至宝」を見ました。清王朝第6代皇帝乾隆帝(けんりゅうてい、1711-1799)の遺物などを中心に、皇帝衣装や宝物が並んでいます。『蒼穹の昴』を去年見たところだし、興味深く見てまわりました。
「清明上河図」一生に一度かも知れず、見ることができてよかったです。お話をきかせてくださった元速記者、八王子のOさんにも、出会えて良かったです。
これからも美術館博物館散歩、絵との出会い、人との出会いを楽しみにして歩きまわります。
<つづく>