20191015
ぽかぽか春庭にっぽにあにっぽん語教師日誌>福コーチョーデビュー(4)入学式とセミナー「伝統医療と健康長寿」
10月4日。2年間準備してきた日本語学校の入学式。
今年、文科省からの認可通達が遅れ、学生募集の期間が一ヶ月しかなかったために、10月入学生は5名のみ、という新規校ゆえの小規模スタートとなってしまいました。
しかし、それだからこそ、新規校としてできるだけ華やかな開校式&入学式にしたいという思いが学校経営者にあり、開校お披露目会と入学式を東京大学で行うことにしたのです。
ホームページを見た人が、「新規校ながら、ほかの学校にはない特色を持っている」と思ってくれるかもしれない、という思惑。根強い「東大神話」を利用して、「東大で入学式を行うくらいの学校なので、新規校ながら信用できる」と留学希望者に思ってもらえるのではないか、という「東大での入学式」です。
理事長が東京大学で博士号を取得し、現在も客員研究員の身分であるために、「セミナー開催」を主目的にしてホールを借りることができたので、「入学式はつけたし」という扱いです。
そのため、HALふく校長は、日本語についてのセミナー講義を実施しました。
本来は、新入生向けの日本語講義であるべきですが、新入生の一人は6月に留学申請書類を提出してから半年近くあったのに、平仮名片仮名の練習すらしてこなかったという超のんき者というか留学の心構えが出来ていないというか。
例えば、半年後にアメリカ留学することが決まったとしたら、abcアルファベットを知らないでアメリカへ行く人がいるでしょうか。再三、「日本語を自習しておくように」と、注意されていたにもかかわらず、平仮名片仮名読み書き出来ずに来日した度胸は買うけれど、先行き不安。日本語ゼロの学生には申し訳ないけど、日本語初級レベル既習の学生向けに講義しました。英語レベルでいうと、中学校2年生程度の英語力と同じくらいと思ってください。
セミナーでは、「こんにちは」のご挨拶のあと、「こんにちは」「こんにちわ」どちらの書き方がいいかという質問からスタート。初級を中国で学習してきた学生は自信満々で「こんにちは」と、私が指示したエアーノートとエアーペンで空中に書きました。
正解を褒めたあと質問します。どうして?
当然、留学生は知りません。「私は春庭です。」と書く時、私=わたし。しかし、「私わ」でなく「わたしは」だよと小学校で教わり、なんの疑問も持たないできた日本語母語話者も知りません。
なぜ「こんにちは」と書くのかも知らないで、やれ近頃の若ゾーの日本語は乱れているだの、コンビニで出会う外国人店員の日本語に違和感があるだのという日本語母語話者のなんと多いことか。(とあるトリビア番組のナレーションの真似です)
「こんにちは」の「こんにち」は、漢字では「今日」。現代日本語で「きょうはいいお天気ですね」などとあいさつするのと同じように、「こんにちはよいお日柄ですが、つきましては、先日お話しした、、、、」などと、会話の最初の出だしが「こんにち」についての話題で、「こんにち」のあとには、話題が続きます。
「こんにちは」の「は」は、助詞の「は」です。「は」と書いても、発音は「わ」。助詞は「へ」も「え」と発音します。助詞「を」は、「お」と発音します。
「こんにちは」の「は」は、「日本はいい国です」などと言うときの助詞「は」と同じだよ、という講義をしました。文科省表記基準で助詞には「へ」「は」「を」を使い、発音は「え」「わ」「お」とする、と記載されています。
日本語トリビア、日本語母語話者には「へぇ!!」と受けたのですが、初級学習者には少々難しかったかも。
次に日本語を公用語としている国、地域があるかという質問。例として、英語は世界で60か国近くの国家が公用語とし、21の地域が英語を公用語として定めています。中国語は、人民共和国のほか、台湾中華民国、シンガポールで公用語と定められています。
日本語を公用語としている地域?日本は、法律では公用語を定めていません。法律にするまでもなく、1億2千万人のほとんどが日本語を母語としているからです。残念なことに、日本のもうひとつの言語であるアイヌ語を母語話者として育つ人は、現在のところいなくなってしまっています。
国会使用言語(演説してよい言語)は、日本語標準語、沖縄方言、アイヌ語の三つですが、公用語として定められてはいないのです。
しかし、世界にたったひとつ、日本語を公式に公用語として採用し、法律に定めている地域があります。南太平洋のパラオ共和国アンガウル州です。人口200人という小さな島アンガウル島。法律で公用語を定めたときには、戦争中日本の統治が行われていた時代に日本語教育を受け、日本語を話せるお年寄りが残っていたための法律だと思います。しかし、現在は、日本語を母語として話せる島民はいません。それでも公用語して残しておいてくれるアンガウル州、なんだかうれしいです。
日本語は1億2千万人の母語話者がいて、これは世界で日常的に使われている500の言語のなかで、10番目に母語話者数が多い言語です。(言語数は世界中に3000言語あり、絶滅危惧語(母語話者がいなくなった言語)を含めると7000言語あります)。そして国連公用語は、英語中国語スペイン語アラビア語フランス語ロシア語の6言語。経済力はつけてきても、75年前の負け組であるドイツ語日本語は、公用語になっていません。
世界で10位の大言語であるにも関わらず、ほとんどの日本人は、英語や中国語に比べて、日本語はマイナー言語だと意識しています。それは、国連公用語になっていないことと、母語話者以外に、世界の中で日本語によってビジネスに使用したり生活に使ったりする人がいないから、広がりがないためです。
これから日本語を習う留学生は、世界に羽ばたいていって、日本語を世界に広げてください、と結んで、春庭の「日本語セミナー」を終えました。
入学した学生たち、加油!がんばって。
学校の総力をあげて面倒を見て、少数精鋭で日本語教育をしていきたいと思います。
9月1日に東京大学で行われた「伝統医療と健康長寿」というセミナーに出席しました。
主催は中国からの留学生が作っている留学生団体で、共催者が、HAL福コーチョー所属の日本語学校です。
ウィルスや細菌をやっつけて病気を治す、ということが中心になる西洋医学と異なり、中医(中国医学)で重視されることのひとつに「未病」という概念があります。病気を未然に防ぐことを目的とした医術で、健康な身体で長生きを目指すためには、ひとつひとつの病気に対峙していくこと以上に、病気を防ぐ体を作ることが重要、という考え方です。
日本でも「塩分濃度の高い食事を続けていると高血圧の危険が高まる」「肥満は万病のもと」など、日常生活、食習慣が病気につながることが知られてきました。
中医の「未病予防」「治未病」という考え方は、そのままにしておくと病気の体になってしまう手前で、病気にならないような体づくりをしていく、ということが基本の健康法です。
実をいうと、私は漢方薬などの宣伝広告で中医の宣伝をしているものがあると、「なんかうさんくさい」と思い込んでしまう疑り深い人間でした。なんか、あやしいなあ、バカ高い漢方薬とかを売りつけようとしているんじゃないか、って。
「これが効く」と思い込んで飲めば、偽薬(プラシーボ効果placebo effect)も起こる人間の体と心理ですから、信じている人がどんな健康法をとろうと、それはそれでいいのだと思うのですが、私自身は「紅茶キノコ」が大流行した時も、「アガリスクが癌治療に有効」と大騒ぎされたときも、斜めに見てきました。(アガリスクブームでは、偽物のアガリスクが数多く出回った)
今回参加したセミナー基調報告者の呂沛宛教授は、中国の中医薬大学の治未病科の科長先生です。
呂先生は、やさしい雰囲気の女医さん。日本ならワイドショーなどの「健康指南コーナー」などでひっぱりだこになりそうな女性医師です。
呂先生(画像借り物)
健康科学に関する著作も多数出版しており「把好大夫請回家=よい医者といっしょに家に帰ろう」は、河南省科学技術功労賞の第一位を獲得しました。
このような健康セミナーを日本語学校が共催することになったについては、さまざまな人脈を通してのことだったと聞いています。
中心になってセミナーの企画を進めたのは、春庭がフクコーチョーである学院の、もうひとりの副校長N先生とその教え子さんの企画によります。
副校長N先生は、来年3月まで現役の独立行政法人大学教授なので、校長兼任ができず、彼の義兄の元私立大教授、現非常勤講師が半年だけ校長職に名を連ね、副校長の大学退職後に交代する、という手はず。
N先生の企画で「当学院が認可され10月に開校することを、公的な場できちんとした形で世間に周知するために、中国からの留学生団体が主催するセミナーに、共催という形でのることにして、セミナーの休憩時間に学校設立の宣伝をしてしまおう」ということになりました。
N先生は、専門の農業経済&環境科学に付け加えて、「アグリセラピー=農作物を作る体験によって治療効果を得る」という研究もなさっていらっしゃる。高齢者や精神的弱者となっている人々の治療に、農作業が高い効果がある、というアグリセラピー。私も聞いたことはあります。そのため、N先生はさまざまなセラピーを研究するなかで、中医の「未病」の研究にも関わることになった、ということです。
学校設立説明のパワーポイントスライドは、現校長H先生が作ってくださるというし、セミナーの司会は、N先生の担当。フクコーチョーHALセンセは、お話を聞いて、せいいっぱい拍手でもしていればいい、という係だったので、一生懸命聞いていて拍手しました。
針きゅうのM先生のお話でも、呂先生のお話でも、ツボを意識して体を整えることの大切さが繰り返して述べられました。
10月からの授業、たった5名の新入生なのですが、ひらがなも覚えていない学生と、中級レベルの学生が混じったレベルまちまちのクラスなので、午前と午後のクラスにわけました。思った以上の負担。授業準備も2つ、小テスト漢字テストの準備も。
健康に留意しつつ、日本語授業すすめていきます。
呂先生のお話をよく思い出して、「未病」気をつけたいと思います。持病はあるのですが、血圧もその他臓器の数値も今のところ正常値というのですが、なにしろ食べすぎるので、どうしても肥満からくる病気には「未病」とはいかない。
加油!!
油を加える、といっても、甘いものや糖質と油成分の高い食べ物は制限します。健康維持、がんばります。
こうして、学校設立お披露目会と入学式を東大で行い、授業はつつがなくスタートしました。
10月入学の学生は2021年3月まで在籍します。新入生は中国の大学卒業生で、全員大学院への進学を望んでいます。希望する大学院は全員東大。入学式を東大で行ったからって全員が入学出来るかはわかりませんが。希望は大きくはてしなく。
来日したばかりの学生に、台風19号が吹き付ける事態を心配していたところ、理事長の妹夫妻が学生みなを自宅に宿泊させたという連絡がはいりました。新築マンションの寮は風雨には強いはずですが、まだニュースの災害情報も十分に理解できない学生たち。不安なく台風の一夜を過ごせたこと、よかったです。
未病の概念に当てはめると、これからさまざまな不安が出てくるまえに、日本で安心して留学生活を送れる気持ちにしてあげられたことの意義は大きいです。
<おわり>