20220813
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>2022シネマ猛暑の夏(2)ウエストサイドストーリー
1957年初演の舞台『ウエストサイドストーリー』が映画化されたのは、1961年。それから60年を経て、スピルバーグによって再映画化されました。不滅のミュージカル映画です。
だいたいリメイクというと点数が悪くなるのに、スピルバーグは何をめざして再映画化しようと思ったのか。脚本は、映画より初演舞台に近くなっているというけれど、どこがどう違っているのか、8月3日に飯田橋ギンレイで観覧。
大胆な改変を行えば、「原作を冒涜している」と長年のファンを怒らせるし、逆に原作に忠実でも「単なるコピー」という批判に晒される。
しかし、スピルバーグは単なるコピーでなく、新しい要素を取り入れて「新しいアメリカ文化」としてのミュージカルを作り上げることに成功したと思います。
以下、ネタバレを含む紹介です。「ロミオとジュリエット」を知らなかったり、1961年版映画を知らない人がいるかもしれないので、一応宣告。
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:トニー・クシュナー
制作総括:リタ・モレノ
出演:
・アンセル・エルゴート:トニー(ポーランド系移民の親を持つ。リフとジェッツを結成した。喧嘩をはてに逮捕され仮出所中。現在はバレンティーナの店で働いている。
・レイチェル・ゼグラー:マリア(ベルナルドの妹。トニーと相愛の中になる)
・デヴィッド・アルヴァレス:ベルナルド(プエルトリコ系のシャークグループのリーダー。ボクシング選手。
・ アリアナ・デボーズ :アニータ(ベルナルドの恋人)
- マイク・ファイスト:リフ (ジェッツのリーダー 、トニーの親友)
・ジョシュ・アンドレス:チノ (夜間学校で経理を学ぶなどまじめたところを見込んでベルナルドが妹の相手にしたいと思っている)
・リタ・モレノ:ヴァレンティーナ(プエルトリコ出身だが、白人のドクと結婚し夫亡き今も夫の残したドラッグストアを守っている。トニーはじめジェッツの世話を焼いている)
『アカデミー賞』では主要3部門(作品賞、監督賞、助演女優賞)含む7部門にノミネート。助演女優賞(アニタ役- アリアナ・デボーズ)を受賞しました。
中央で踊るアニタ
製作総指揮がリタ・モレノだっていうのも往年ファンの心をくすぐる。リタは1961年版のアニタ役で、非白人女性ではじめて助演女優賞を受賞した女優。2021年版ではトニーが働く店の老主人として出演も。
1961年版で日本でもっとも人気が高かったのは、主人公のトニーではなく、プエルトリコ系のグループ、シャークスのリーダーベルナルドを演じたジョージ・チャキリスでした。チャキリスはギリシャ系の白人俳優。顔に褐色のメイクを施して、プエルトリコ系の顔を作りました。チャキリスの足の長さダンスの華麗さに日本女性はうっとりでしたが、見事に1962年『アカデミー賞』助演男優賞を受賞しました。
日本でのポスターは、ほとんどがチャキリスがメイン。
白人がメークでラテンアメリカ人役を演じるなど、昨今のアメリカ映画界ならNGです。スピルバーク版でベルナルト役はキューバ人の両親を持つラテン系の俳優、デヴィッド・アルヴァレス。
現在のアメリカ映画界では人種問題がやかましく、「今年のアカデミー賞ノミネートは白人ばかりで黒人ノミネートが少ない」ということが問題となるほどです。
また、1961年版の「ラテン系=貧困・暴力的」というステレオタイプ的人種観や「ニューヨーク貧困地区なのに、黒人はひとりも歩いていない」という画面作りもスピルバークが再映画化にあたって考慮した部分と思います。ニューヨーク下町の通りには、ちゃんと黒人も歩いてました。
プエルトリコを映画の中にあらわすために、スピルバークはキャストとスタッフがプエルトリコの文化や歴史を学ぶための人員を雇い、制作総指揮にリタモレノをあてたことなども、プエルトリコを映画で扱う上の配慮を尽くしています。
リタ・モレノは、終盤に「Somewhere」を歌い、いい味だしていました。
2021年版では、このSomewhereを歌うのが老いたドラッグストアのオーナーヴァレンティ―ノに代わっていたほか、いくつか61年版と異なるところがありました。
冒頭、61年版は海から見たニューヨーク摩天楼からプロローグがはじまります。2021年版は、解体がすすむニューヨークのがれきの中からはじまります。リンカーン・センター(メトロポリタン歌劇場やジュリアード音楽院などを含む総合芸術施設)開発のため、建物の取り壊しが行われている現場です。古いスラム街はどんどん壊されて、こぎれいなビル街に生まれ変わり、貧乏な移民たちには住めない町に代わっていく様子がよくわかりました。舞台演劇を崩さずに映画化した61年版ミュージカルより、より映画的なダイナミックな画面作りが楽しめました。
61年版ではアニタやマリアは町の服屋のお針子をしている設定でしたが、2022年版は衣料デパートの掃除係。たぶんお針子すら、移民には「なかなかありつけない仕事」であったことが反映されているのでしょう。
マリアとトニーの初デートで、地下鉄に乗って古い美術館に出かけたりするシーンがあり、ニューヨークの街並み描写も楽しめました。
プエルトリコ系シャークスが話すセリフの多くは、警官らに「英語で話せ」と命じられないときははスペイン語で話され、より自然な流れ。
61年版の振り付けを手掛けたのは、巨匠ジェローム・ロビンズ。スピルバーグ版では、カリフォルニア生まれの34歳ジャスティン・ペックが手掛けました。新しい振り付け、よかったです。とくにアメリカアメリカをストリートでのダイナミックなダンスに生まれ変わらせた腕にうなります。
現代でもつづく「分断されたアメリカ」を色彩で視覚化している体育館ダンスシーン。
俳優の比較では。ベルナルトはなんといってもチャキリス様。リフも61年がいいかな。トニーは2021年版アンセルさま。アンセルの父親はファッション写真家だそうです。立っていても撃たれて寝転がっていても193cmという長身に甘いマスクがカッコいい。
アニタはどちらもすばらしい。マリアは私がナタリーウッドいまいちなので、2021年のレイチェル・ゼグラーに軍配。初々しいニュースターの誕生に拍手。
画面をより引き締めていたのは、リタ・モレノです。61年版では白人ドクがオーナーだったドラッグストアが、ドクの未亡人ヴァレンティ―ナ(プエルトリコ出身)に受け継がれている、と言う設定。トニーをはじめとする不良少年たちをやさしく包み込むヴァレンティ―ナ役として、1931年生まれ2021年には90歳のリタ・モレノが、すてきなおばあちゃん役でした。
ラストクレジットで、献辞「for Dad」と出てきたときなぜかグッときました。スピルバーグが少年のころ両親は離婚しています。本作の完成を待たず、1917年生まれの父アーノルド・スピルバーグは 2020年に亡くなりました。97歳という長寿での大往生ですから、年に不足はなかったろうけれど、スティーブンは、「我が集大成」と位置づけた映画を父に見てほしかったのだろうなあと思いました。
難しいと言われるリメイクを見事にまとめ傑作に仕上げたスピルバーグ 、お父さんもまんぞくしていると思います。
<つづく>