20180225
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>2018十八番日記光の春(11)ブリューゲル展 in 東京都美術館
ミサイルママは、木曜日にはパステル画の会に入っていて、来月は日比谷のギャラリーでグループ展に作品を出すと張り切っています。
今取り組んでいるのは、古今の名画中の「美少女を模写する」という課題。「模写しているつもりなのに、元の絵とはちっとも似ていなくて、美少女なんだかどうかわからない」という腕前なのだと言うのですが、私など馬の絵を写しても犬だか豚だかわからないものになってしまうので、絵が描ける人に対しては、無条件で尊敬です。
ミサイルママとの、久しぶりの展覧会散歩。
『ブリューゲル展 画家一族 150年の系譜』会期は2018年1月23日(火)~4月1日(日)
ミサイルママは、「花のブリューゲル」と呼ばれる花瓶に活けてある花の絵のファンと言い、2階の静物画フロアをゆっくり見たいというので、お互いに自分のペースで別々に見てまわり、出口のエスカレータ脇ベンチで待ち合わせることにしました。
「机上の花瓶に入ったチューリップと薔薇」ヤン・ブリューゲル1世 ヤン・ブリューゲル2世(1615-1620年)
西欧絵画の日本での展覧会という、美術館からのまとまった作品借り出しが多いですが、今回は個人所蔵の作品が多く、もう2度と外部には出されないかも知れない貴重な作品もある、というので、いっそう「珍しもん見たさ」はつのります。
ブリューゲル一族は、16、17世紀のヨーロッパを代表する画家一家。ピーテル1世2世、ヤン1世2世。娘の婿も画家で、ピーテル・ブリューゲル1世から、2人の息子、孫、ひ孫、その他の一族9人の作品100点が展示されていました。
ブリューゲル一族は、一家で工房を経営し、父の作品を息子が模写して大量コピーを売りさばくなど、一大ブランドを築き上げていました。工房主の親方のもと、家族も弟子達も一丸となって絵を描いたのです。
親方の指示のもと、顔を描くのが上手な者、衣服を描くのが得意な者、背景を描くのが上手な者、共同作業で作品を描き上げました。
花の絵も、ブリューゲル一族の得意の題材。
絵の鑑賞では素人の私。近代以後の「絵はサインを入れた画家個人の、唯一無二の作品」という絵の見方を、近世までの絵に対しても、ついつい同じに思ってしまいがちでした。ミケランジェロ作とあればミケランジェロがひとりで彫った彫刻であると思ってしまいます。近代以前の「工房全体で制作したものを親方の名で世に出す」という作品の出し方のほうが普通であったこと、心得ていたほうがいいですね。
『運慶』展のときも、運慶の指示のもとに運慶の工房のものが共同で制作するということはわかったのですが、今回は、西洋画でもそういう共同作品のほうが、通常の方法であった、というのが納得されました。
9人のブリューゲル一家の作品。ひたすら父ピーテル1世の模写に励んだピーテル2世、花の絵や風景画に個性を発揮したピーテル2世の弟のヤン・ブリューゲル1世。
ピーテル2世が父のピーテル1世の模写をした方法が解説されていました。
1)薄紙を元の絵にあてて、浮き出てくる元絵の輪郭線に沿ってポツポツと穴をあけておく。2)穴の位置を厚紙に移して穴を開ける 3)厚紙をブリューゲル一族が使った板や銅版などにあてて、絵の具をたらす。(近代画に多い布地キャンバスはブリューゲル作品には少ない。板のほうが、絵の具を垂らして輪郭を確実に模写するとき描きやすかったのかもしれません)4)板についた絵の具のぼつぼつに従って輪郭線にすれば、元絵と寸分たがわぬ形が描かれる。5)輪郭線をたどり、工房の職人達総出で色彩を映せば、模写絵ができる。
たとえば、人気の画題だった「鳥罠のある冬景色」は、ピーテル2世工房の模写だけでも40点、それ以外の工房の模写は100点もの同じ作品が残されているとのこと。そういえば、西洋美術館にもピーテル2世の『鳥罠のある冬景色』が常設展示されています。
この絵は、西洋美術館収蔵品の基礎を作った松方幸次郎の旧蔵品のひとつでした。様々な事情で収蔵品の一部は散逸してしまいましたが、「鳥罠のある冬景色」は2005年にベルギーのギャラリーでオークションに出されたのを西洋美術館が1億7千万円で購入。作品の裏には、もともと松方のコレクションであったことが書かれていたとのこと。現在西洋美術館でいつでもこの「鳥罠のある冬景色」が見られるのはうれしいことです。
西洋美術館収蔵品は、40点も模写されたピーテル2世工房の作品のなかでも最良の作品ということです。
2階の花の絵や農民の絵、見応えがありましたが、人気作が多いから、私は人の山のすき間から絵を眺める、ということになりました。
見終わって、いったん会場を出てエントランスロビーでしばしのおしゃべり。私は、持って行ったチョコレートやウニせん、フロランタンなどを食べながらしゃべりましたが、ミサイルママは、美術館内であることを気にして、チョコを一粒食べただけ。ランチでおなかいっぱいになっていても、おやつは別腹で全部食べる私と、コルステロール値をいつも気にしているというミサイルママ、そりゃ太さが違ってきます。
木曜日の仕事も朝早いミサイルママとは、エントランスで別れました。私は、食べたウニせんとチョコの分のカロリーを消費すべく、もうひとまわり会場を見てから帰ると、ミサイルママに言って、バイバイしました。
背の低い私は、水曜無料日にわんさか集まったジーサンバーサンが人気の絵の前に塊のように集合している後ろから絵を見るのが苦手。
絵の前に一人で立ち、後ろの人に押されることもなくゆったり見るためには、どうすればいいか。5時の入場締め切りになったあとに会場を回ることです。閉館時間の5時半まで、地下1階と1階は人が少ない会場で、気が済むまでひとつの作品の前にいられました。
2階の花の絵、農民の絵の前にはまだまだ人がいましたが、それでも、5時前の混雑ぶりとは大違い。大理石に描かれた蝶や蟷螂の絵も、近づいてじっくり眺めることができました。
夫は「どうせ一人一人別々に見て回るなら、美術館にいっしょに行く意味はない。ひとりで行ってひとりで見ればいい」という考え方です。ひとりで行けば好きな時間に行けるのに、スケジュールすりあわせて時間を調整して、待ち合わせていっしょに行くのは無意味だと。
私はそうは思いません。見たあと、「あの蝶の絵、細かく描いていてすごかった」とか、「花、きれいだったね」というような、単純な感想でもいっしょに絵を見て、ことばを交わし合うこと、ひとつの時間を共有して過ごせたこと、それが大事なのだと思います。
久しぶりの「大人の遠足」、よい時間がすごせて良かったです。
<おわり>