20181009
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>事実と真実(4)グレイテストショウマン
2012年のジャズダンス発表曲。ペーパームーン。私たちのサークルは、美空ひばり歌唱の曲をつかいました。
「It’s Only A Paper Moon」春庭:訳詞
Say, it's only a paper moon そうね、それってただの紙の月
Sailing over a cardboard sea 厚紙細工の海を渡ってく
But it wouldn't be make believe でもこの月も信じられるんじゃない?
If you believed in me もしあなたが私を信じるならば
Yes, it's only a canvas sky ええ、これは書き割りの空
Hanging over a muslin tree モスリン布地の木が広がる
But it wouldn't be make believe だけどそれも信じられる
If you believed in me もしあなたが私を信じるならば
Without your love, あなたの愛がないならば
it's a honkey-tonk parade こんなの、空騒ぎのパレードよ
Without your love, あなたの愛がないならば
it's a melody played in a penny arcade こんなのゲームセンターのメロディにすぎない
It's a Barnum and Bailey world こんなのバーナムベイリーサーカス団の世界と同じ
Just as phony as it can be ただのまやかしにすぎないわ
But it wouldn't be make believe でもそれは信じられるに違いない
If you believed in me もしあなたが私を信じるならば
この歌詞の中の、「こんなのバーナムベイリーサーカス団の世界と同じ ただのまやかしにすぎないわ」と、いう句。
バーナムベイリーサーカス団は、リングリング・ブラザーズ・サーカスと合併したのち、USAで最大規模のサーカス団となり、最盛期には車輌90輌、従業員1540人、ウマ450頭、ゾウ40頭、フットボール場2つ分の大テント、イス11000人分でという規模の「地上最大のサーカス」と謳われました。
ペーパームーンのなかで歌詞になっているのは。
大人気を博し、子どもたちがこぞってその華麗な世界にあこがれたバーナムサーカスも、大テントを出てみれば、決して現実の世界ではなく、作られたまやかしの時空であったことを言っている部分。
「バーナムサーカス」は、現実から離れた、きらびやかな幻想だという意味で使われています。サーカスは目の前に現前するけれど、それは真実ではない。現実とはことなるものであり、ほんとうの世界ではないけれど、、、、
フィニアス・テイラー・バーナム(Phineas Taylor Barnum1810-1891)は、コネチカット州に生まれの事業家、政治家。
いくつかの事業のうち、もっとも成功したのが見世物やサーカスでした。
見世物興行を成功させたバーナムは、1871年にニューヨーク市ブルックリンの「バーナムのアメリカ博物館」を開業。でサーカス・動物園・フリークス・蝋人形展示をない交ぜにしたものを巡業させる「地上最大のショウThe Greatest Show on Earth」を設立し、興行を成功させました。
バーナムサーカスの売り物のひとつが、フリークス・ショウでした。矮人、結合双生児などの異形の人を見世物にして、人気を集めたのです。
低身長症の「親指トム将軍」は、1844~1845年の欧州巡業中、ビクトリア女王への謁見にも同行しました。
現実のバーナムは、上昇志向が強く、「コネチカット州選出下院議員」「ブリッジポート市長」をつとめています。
バーナムサーカス団を設立した興行師P・T・バーナムをモデルとした映画『グレイテストショウマン The gratest showman』
以下、ネタバレ含む紹介です。
「グレイテストショウマン」にも、フリークスが登場しますが、矮人、ひげを生やした女性、全身刺青男なども、見た目の異形性を見世物にするのではなく、芸を持つ芸人としてサーカスの一員となっています。
バーナムの伝記そのままの映画ではありません。
バーナムのサーカス施設が全焼したのは、1944年の出来事ですから、バーナムが死んでから50年もたってからのこと。でも、モデルにはなっていても、バーナムの伝記映画じゃありませんからね。
映画の中の火事シーンは、見せ場のひとつになっています。バーナムは、劇作家のフィリップを炎の中から救い出します。フィリップは共同経営者として、再建費用の負担を申し出ます。
フィリップは、黒人の血をひくアンを愛しながらも、白人と黒人の結婚がタブーであった世の中で逡巡していましたが、アンの献身的な看護に心が定まります。
この映画はサーカスの楽しさ華麗さを画面に表すことにも成功し、バーナムの人間性も「上昇志向で家庭をこわしかねない」という弱点も適度に表現して、ストーリーとしては破綻なく進んでいます。
バーナムを演じたヒュー・ジャックマン(1968~)は、「レ・ミゼラブル」ジャンバルジャン役で歌のうまさも抜群でしたが、今作でも50歳になるとは思えない動きのよさを見せています。
2017年12月アメリカ公開です。90回目のアカデミー賞では、主題歌のみノミネートされました。「ラ・ラ・ランド』で歌曲賞を受賞したコンビですから、ノミネートは当然とおもいましたが、受賞せず。(受賞作はリメンバーミー)
アメリカの映画レビューでは、今作の評判はイマイチなんだそう。なぜか。
たとえば、劇作家のフィリップ・カーライルが愛するようになるのが、黒人の血をひく美女のアンではなくて、ふとっちょのひげ女レティ・ルッツ だったら、批評家の評価ももうちょっと上がったのかもしれないけれど。
「フリークスとの愛」というなら、掃除婦と怪魚人との愛のほうが、すんごいもんなあ。
「フリークスたちを含めたサーカス全員がわが家族」と、バーナムが目覚めるところが、なんだかとってつけたよう、と思いました。
実在のバーナムにとって、フリークスは見世物に出すための対象でしかなかった。バーナムは、けっして彼らを家族のように愛する対象とはみなしていなかったと思いますが、映画のなかでは、見世物フリークスへ次第に心をひらき、同じ人間として尊重できる相手なのだと認識していく過程を見せてほしかったな、と思います。
実際のバーナムフリークにいた「髭女」は、歌がうまかったかどうかわかりませんが、映画The gratest showmanのひげ女レティ(キアラ・セトル)の歌声、力強くてすてきです。
マイノリティを力づける歌詞と歌声です。(医学的には、ホルモンバランスの異常で、女性なのに髭の濃い人がいたそうで、見世物の対象になっていました。フリークスショウではけっこう人気だったそうです)。
見た目がほかの人たちと異なっている「見た目問題」を抱えている人々が、勇気と自信を持って生きていける時代になってきているのだと思いますが。トリーチャーコリンズ症候群の人や顔面のあざなどの、外見上の問題を抱える人たちが「自分らしく」生きていける社会であってほしいです。
レティを演じるキアラ・セトル
主題歌「This is me」(春庭拙訳)
I am not a stranger to the dark 私は暗闇の中の怪物じゃない
Hide away, they say 隠れてろ、とやつらは言う
'Cause we don't want your broken parts おまえらのぶっ壊れた体を見たくない
I've learned to be ashamed of all my scars 私の傷を恥じてきた
Run away, they say あっちへ行け、とやつらは言う
No one'll love you as you are だれもこのままを愛しちゃくれない
But I won't let them break me down to dust でも私は粉々のゴミにされたくない
I know that there's a place for us ここは、私のための場所
For we are glorious 私が輝ける場所
☆ When the sharpest words wanna cut me down 鋭いことばで私を切るなら
I'm gonna send a flood, gonna drown them out 洪水を起こしてやつらを沈める
I am brave, I am bruised 私は立ち向かう、私は傷つけられた
I am who I'm meant to be, this is me 私がだれであっても、私はわたし
Look out 'cause here I come 見て!私はここにきているから
And I'm marching on to the beat I drum 私は、私のドラムのビートで行進する
I'm not scared to be seen もう見られても恐れない
I make no apologies, this is me ☆ はばかることもない、私はわたし
Oh-oh-oh-oh,Oh-oh-oh-oh,Oh-oh-oh-oh,Oh-oh-oh-oh
Oh-oh-oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh, oh, oh
Another round of bullets hits my skin つぎつぎに弾丸が私を撃つ
Well, fire away そう、撃ちなさいよ
'cause today, 今日の私は
I won't let the shame sink in 恥に沈められることはない
We are… わたしたちは、、、
☆~☆ 繰り返し
We are bursting through the barricades バリケードを突き進み
And reaching for the sun 太陽に向かって手を伸ばす
(we are warriors) 私たちは戦士
Yeah, that's what we've become そう、これが 私のあるべき姿
and I know that I deserve your love 私は愛される価値がある
(Oh-oh-oh-oh)
'cause there's nothing I'm not worthy of 私にふさわしくない価値なんかない
oh-oh-oh-oh, oh-oh-oh, oh-oh-oh, oh, oh)
When the sharpest words wanna cut me down 鋭いことばが私を刺すとき
I'm gonna send a flood, gonna drown them out 洪水を起こして やつらを沈める
This is brave, this is proof 私は立ち向かう、これが証し
This is who I'm meant to be, this is me 私がだれであっても、私はわたし
ひげ女レティ&バーナムサーカス全員による「これが私」
https://www.youtube.com/watch?v=CjxugyZCfuw
サーカス経営者バーナムの伝記映画としてみるなら、事実と異なるところはたくさんあるのですが、サーカスに生きる人々、とくにフリークスとして見世物になっていた人たちの真実の姿がある程度は出ていてよかったと思います。わたしは、フリークスたちをもっと表にだしたほうが好みになると思いました。親指トム将軍がビクトリア女王に謁見したときの気持ちとか。
映画の世界も、バーナムショウと同じように、見かけきらきらしたマヤカシの世界をいかにも本当らしく作り上げていくのが仕事です。でも、その中に真実を表現することはきっとできる。映画はそのためにある。
<つづく>