20180710
ぽかぽか春庭感激観劇日記>全力劇場(2)ミサイル全力
ミサイルママの長男さん、高校卒業時から演劇一筋で生きてきました。アルバイトをしながら弱小劇団の客演を続けたり、ひとり芝居の公演を続けたり。
ミサイルママはミサイル君のゆくすえを案じて、「演劇やめてどこでもいいからちゃんとお給料もらえるところに就職してほしいと思っていたけれど、30過ぎてもあきらめないで続けているので、もう、好きなこととことんやったらいいっていう気になってきた。40すぎたら、生きてさえいればいいと思えてきた。このごろ母親にお金貸してって、言わなくなったし」
美人のミサイルママの息子ですから、長男も次男も超イケメンです。次男さんはバリスタの資格をとり、レストランなどで働く一方、専門学校のバリスタ養成講師も務めるという堅実派で、ミサイルママの働き者DNAをひきついだみたい。長男さんは、経済にはまったくうとい芸術派。
私は、20年ほど前、娘の高校の近くで「ふたり芝居」の公演があり、ミサイルママから「息子が出演している」と聞き、保護者会の帰りに見たのが最初でした。このころ使っていた芸名がミサイルでした。
その後、ミサイルママにさそわれて、ミサイル芝居を見てきました。前衛的なお芝居で、最初から最後まで私は寝っぱなし、というときもあったけれど。
最近は180cmの長身に女子衣装をつけて演じるひとり芝居が多かったということでしたが、ここ2年程、私はミサイル芝居から遠ざかっていました。
ある日のこと、駅に向かってミサイルママが歩いていくと、駅から出て歩いてくるウエディング姿の人が見えました。やけにデカい花嫁さんだなと思って近づいてきてよく見たら、ウエディング姿で一晩中ひとり芝居をして帰るところの長男だった、という話も大笑いしながら聞きました。
今回は、「長男ね、ようやく芸能プロとの契約ができて、自分でチケット売ったりしなくてもよくなったみたい」という劇団の第2回公演を見に行くことにしました。
劇団は「全力歌劇団」というミュージカル劇団。劇団員の多数がトランスジェンダー。
LGBTの人々が集まって2018年1月に旗揚げ公演。そのとき病気降版した俳優の代役をつとめたのがミサイルで、その縁から6月の公演から正式団員として舞台にたつことになりました。
春庭夫の病院へは、娘息子と私の交代で行っていましたが、6月21日、私は病院行きはお休み。仕事を早めに終えて、新宿歌舞伎町へ。
新宿FACEというライブホールでの公演。19時開演ですが、客席は床がフラットだというので、開場と同時に入って、前のほうの席を確保。普段は、プロレス興行などが行われるホールです。前売りチケット4000円+ドリンク代500円must。
全力歌舞団のミュージカル、「長屋の花見」「子ほめ」「二十四孝」などをとりまぜて、一応のストーリーがあります。でも、ミュージカルだから、メインは歌とダンス。
2018年1月に「女装子(じょそこ)歌劇団」として旗揚げしたのだけれど、トランスジェンダーの役者ダンサーだけでなく、あらゆる性自認の人を受け入れて幅広く活動していきたいとして、女装子から「全力歌劇団」に劇団名変更。
人口の6%は、身体性別と心の性別が一致しないという統計があるし、人の性自認は、とても複雑。クラスにひとりはマイノリティがいることになるけれど、その子たちは息をつめて、自分を押し殺して学校にいることが多い、と全力歌劇団のアピール文にあります。
悩みを抱えた子どもたちが、ステージに立つ私たちを見て、自信を持って輝くきっかけをつかんでほしい。息苦しさを感じながら社会や職場で頑張っているすべての少数者の人々に、難しい理屈ではなくエンタテインメントを通して決して私たちは1人ではないと伝えたい。私たちが、なぜエンタテインメントへの道を選んだのか。それは難しい主張や理屈よりも、この劇団の成功こそが私たちが誇りを持って生きているという姿が一番ストレートに伝わると思ったからです!!!。
というのが、全力歌劇団の「伝えたいこと」なのだとHPに載っています。
さまざまな性自認を持つ子たちが自分に誇りをもって生きていく、それはとても大切。しかし、それをエンターテインメントとして活動するなら、エンタメとしての誇りも必要でしょう。
さて、全力歌劇団、エンタテインメントとしての実力はどうか。
今回はじめて見たわたくし、楽しかったですよ。笑えるところもあったし、歌も聞けたし、でもお芝居はまだまだ素人。演じられている舞台の構成が、地方の会社慰安会レベルというのは、次回はなんとかしてもらいたい。
ダンスは、まあまあそこそこ、というレベル。一生懸命踊っていて、その一生懸命さが伝わるところはよかったのだけれど、レベル的には、大阪府立登美丘高校ダンス部はじめ、高校生ダンスクラブのほうがレベルが高い。
歌は、今のところ、メインボーカルのひとりのみ。
センターボーカルのなおさんの「歌で伝えたい」という気持ちがストレートに伝わって、気持ちのよい歌声でした。しかし歌のテクニックとしては、微妙なところ。これからもボイストレーニングや歌のレッスンを続けていくのだろうと思いますが、この先の課題は多いと思います。
今はまだいい。「うちの子」が出ているので、親戚縁者、その友人がチケットを買っている。だが、来年1月にふたたびミュージカル公演があるというので、そのときこそ、エンターテインメントとして、きちんとプロの演技とダンスを見せてほしい。初公演から1年たったら、素人が演技をすることが許される期間は終わり。
女装子たち、かわいい子が多かったし、個性もそれぞれでよかったのだけれど、演技レベルもダンスレベルも、低い。「エンターテインメントを通して、決して私たちはひとりではないと伝えたい、そのためには劇団の成功こそが伝えられる力」と、いうのなら、まずはエンターテインメントとして、実力を確立してほしいです。
たとえば、劇団四季でも宝塚でも、ダンスと歌のレベルは練習生(歌劇学校生徒)でも、ハイレベルです。そして、数年間、みっちり訓練は続きます。
全力歌劇団、センターのナオさんは、レッスンを受けているとミサイルママに聞いたけれど、他の人々、学芸会レベルです、ダンスも演技も。
ダンスは、元気がよくてきれがいいのはいいけれど、最初から最後までワンパターンの振り付けなので、次回までには、もう少しダンスレベルをあげてほしい。
振り付けと作曲、もうちょっと高いところを狙ってもいいのではないかしら。
もし、2019年1月のダンスと作曲が、今回と同じレベルだったら、少なくとも私は次の次は見ない。私はトランスジェンダーだからどうのこうのではなく、ミュージカルを上演する劇団であるなら、お金をとるレベルを確保してほしいと思うのです。
素人の集まりとして学芸会が許されるのは、2回目までじゃないかと思います。
2018年1月の1回目公演を見て、今度が2度目のミサイルママは、「メンバーみなじょうずになってきた」と言いますが、全員の演技とダンス、歌が「金とれるレベル」になるまで、本当は歌劇団としての訓練だけをつづけて、一定のレベルを保ってから公演すべきだったと、私は思います。
ミサイル君は、これまでのひとり芝居で過激なパフォーマンスを行い、舞台上で骨折などのけがをしたこと、たびたびです。ミサイルママは、ずっと息子の芝居にハラハラし通しでした。「劇団のなかでやるなら、そうむちゃもできないだろうから、けがをせずにすむかも」と、今回の劇団参加には賛成しています。
今はミサイル君も劇団カラーに合わせようとしているけれど、そのうち、また、ひとりで好き勝手な舞台を作るほうに戻ってくるような気もする。がんばれミサイル。
観覧者のうち、2丁目関係、女装愛好者関係からの客がどれくらいの割合でいるのかと客席を見渡す。1~2割くらいは、女装しています。あとは、家族とお友達か。
「キャンディミルク」と、胸のハンカチに名前を書いていた太めの女装子さん、背にはランドセルしょって、キャンディになりきっていました。女装界ではカリスマ的存在なのですって。
ビキニ姿でおなかを見せていた方は、「あの人、お医者さんなんだって」と、ミサイルママからの情報。
今後の全力歌劇団に期待しましょう。
中列中央がセンターボーカルの「なお」。前列左はし「うさぎ」、その隣が「東京デスティニーランド」。
<つづく>