20230608
ぽかぽか春庭アート散歩>2023アート散歩6月(3)ブルターニュの光と風 in SONPO美術館
近くにある美術館が共同してひとつのテーマで企画展を開催することがあります。うらわ美術館と埼玉県立近代美術館が共同で「大・タイガー立石展」を企画開催したとき、私はぐるっとパスで見ることができるさいたま近代美術館」のほうにしかいきませんでしたけれど。
しかし、都内の美術館で共同で開催しているとは思えない私立の美術館と国立美術館が同様の企画で同時期に展覧会を開いたとき、学芸員はいったいどんな気持ちなのかと思います。ひとつの企画を実現するには、担当の学芸員は3年ほど前から作品の借入先などとの交渉をはじめ、展覧会開催までたいへんな苦労だと聞きました。その企画が偶然かどうか同じような内容でかぶってしまったとき、相手の館への観覧客の入りなど、お互いに気になってしまうのでは。
今年、西洋美術館が「憧憬の地ブルターニュ」という企画展を開催。
西洋美術館の口上は
19世紀後半から20世紀はじめにかけ、モネ、ゴーガンら多くの画家たちがフランス北西端のブルターニュ地方を訪れ、この地を作品に描きとめました。本展では国立西洋美術館の「松方コレクション」を含む、30か所を超える国内所蔵先と海外の2館からブルターニュをモティーフにした作品約160点を精選。彼らがこの「異郷」に何を求め、何を見出したのかを探ります。
西洋美術館の豊富な所蔵品の中からブルターニュに関する絵を集めた企画です。
一方、SONPO美術館は、フランスブルターニュ地方にあるカンペール美術館から70点弱を借り出し、愛知美術館などからの借り出しも含めて「ブルターニュの光と風」を企画展示。
さて、どちらが先だったのか、それとも偶然同じような企画がかぶったのか。とりあえず、6月7日水曜日に新宿に出たついでに、SONPO美術館を見てきました。
新宿に出た時の「ついでの美術館」は、SONPO美術館。今回は、3月までの日本語学校元同僚との新宿京王百貨店内で会食した「ついで美術館観覧」です。会期最終の時期ですから、平日水曜日の午後でしたが、そこそこ人は入っていました。
日本の他館からの借り入れの絵は写真撮影不可ですが、カンペール美術館の所蔵品は、数点を除いて写真撮影OKでした。
画家たちを魅了したフランス〈辺境の地〉ブルターニュの光と風
会期:2023.03.25(土)- 06.11(日)
損保美術館の口上
豊かな自然と独自の文化を持つことで知られるフランス北西部の地、ブルターニュ。本展は、ブルターニュに魅了された画家たちが描いた作品を通じ、同地の歴史や風景、風俗を幅広くご紹介する展覧会です。深緑の海や険しい断崖が連なる海岸線、平原と深い森とが織りなす固有の景観、また、そこに暮らす人々の慎ましい生活と敬虔な信仰心は、19世紀初め以来、数多くの画家たちの関心を掻き立ててきました。本展では、ブルターニュに関する作品を多数所蔵するカンペール美術館の作品を中心に、45作家による約70点の油彩・版画・素描を通じて、フランス〈辺境の地〉ブルターニュの魅力をご覧いただきます。
フランス北西部に位置するブルターニュは、日本ではあまり知られていない地域かもしれません。 豊かな自然と独自の文化を持つこの〈辺境の地〉は、19世紀のフランスにおいてもある種の「内なる異世界」として、エキゾティシズムに満ちた眼差しの下に見い出されてきました。本展では、そうしたブルターニュの歴史・自然・風俗を、画家たちの眼差しを通して追体験するように、ご覧いただきます。
西洋美術館常設展に「ブルターニュ」の女の子を描いたゴーギャンの絵があり、タヒチに向かう前のゴーギャンが描いた地方、という認識があるのみで、ブルターニュにアヴァン川が流れ、ポンタヴァンPont-Avenという町があることも知らず、ブルターニュにカンペール美術館という施設があることも知りませんでした。
食い気で生きている私が、ブルターニュと聞いて、思い浮かぶのは、そば粉で作るガレットのみ。ガレットも日本そばも庶民の食べ物のはずなのに、東京で食べるガレットはおしゃれで高い食べ物になっているのはどうしてなのか。そばもガレットも好きですけど。
カンペール美術館の所蔵するポンタヴァン派の作品、その他を70点並べた展覧会。今回見た絵の多くは私が初めて見る画家の作品でした。
第1章 「ブルターニュの風景—豊饒(ほうじょう)な海と大地」
——ロマン主義の文学者たちが描き出したブルターニュは多くの画家を刺激した。多様な風景と、ブルトン語を話し、ケルトの伝統が色濃く残る風習のなかで生きる人々に対する関心の高まりは、やがてサロンにおけるブルターニュ絵画の流行へとつながっていった。画家たちが最初に求めた風景は、激しい嵐の光景だった。古くから伝わる伝説や民間伝承は、ブルターニュの沿岸地域が常に海の脅威と隣り合わせにあったことを伝えており、サロンで活躍した画家たちは、厳しい自然と共に生きる人々の姿を、確かな描写力によって克明に描き出し、人気を博した。
他方、荒野、森、耕作地などが織りなす内陸部について、画家たちは荒涼とした大地を繰り返し描くことで、不毛な大地というブルターニュの典型的なイメージを作り上げていくことになる。素朴な生活を続ける人々の暮らしぶりや、「パルドン祭」に象徴される人々の信仰心のあつさも、魅力的な画題として繰り返し描かれた。
第1展示室には、どでかい作品がずらり。幅2mくらいの絵が並んでブルターニュの海や海岸を描いていました。
テオドール・ギュタン「ベルイル沿岸の暴風雨」1851
アルフレッド・ギュ「さらば」1892
この絵は、暴風雨で遭難した漁船の船長が死んで
しまった息子にわかれを告げているシーンだという解説がついていました。ポスターを見た時は恋人との別れに見えたので、ほんものを見ると解説詠んだりして見方が変わるもんだと思いました。
次の絵も、解説みなければ、こちらも難破しかかっているボートかと見てしまうところでしたが、絵のタイトルは「鯖漁」魚を釣り上げる漁師たちの絵でした。どうも海無し県に生まれ育ったもんで、海に理解が行き届かない。
テオフィル・デイロール「鯖漁」1881
アルフレッド・ギュ「コンカルノーの鯖加工場で働く娘たち」1896
エマニュエル・ランシエ「干潮のドゥアルヌネ湾」1879
エミール・ヴェルニエ「コンカルノーのブルターニュの引馬」1883
アドルフ・ルル―「ブルターニュの婚礼」1863
リュシアン・レヴィ=デュルメール「パンマールの聖母」1896
」
第2章
ブルターニュに集う画家たち—印象派からナビ派へ」——ブルターニュのとりわけ大きな魅力は、果てしない海と空の広がりではないだろうか。持ち運び可能な画材を携えて各地を旅した風景画家たちの心を捉えた。港町で育ち、海を愛したウジェーヌ・ブーダンが素早く的確に描きとめた空の様子は、印象派に先駆けた自然描写となった。
ポール・ゴーギャンは、フランス国内の異邦といえるブルターニュへ赴き、1886年には小村ポン=タバンにたどり着く。同地に滞在していたエミール・ベルナールやポール・セリュジエらとの出会いは、太く明確な輪郭線と平坦な色面構成を特徴とする「クロワゾニスム」を作り上げ、彼ら「ポン=タバン派」の誕生によって、ブルターニュは近代絵画史上にその名を刻むこととなった。
ゴーギャンの教えをセリュジエがパリに持ち帰ったことは、ピエール・ボナールやモーリス・ドニらによる「ナビ派」誕生へとつながり、彼らは、心象的なイメージを重んじ色面と線で大胆に表現する手法をさらに展開することで、印象派に代わる新たな表現世界を作り上げていった。
ウジェーヌ・ブータン「ノルマンディーの風景」1854-57
クロード・モネ「」ルエルの眺め」1858
ポール・ゴーギャン「ブルターニュの子供」1889
アンリ・モレ《ポン=タヴァンの風景》 1888-89年
ポール・セルジェ「ル・プールデュの老婦人」1889-93
ポール・セルジュ「蒼い背景のりんご」1917
ポール・セルジュ「さようならゴーギャン」1906
タヒチに向かうゴーギャンとの別れを描いたセルジュの作品。ポンタヴァン派という一派を立ち上げて育てたゴーギャンは、さらに「見知らぬ土地」を求めて旅立っていきました。新しい土地を指さすゴーギャンに対して、おわかれを言うセルジュは、寂しげですが、自分はこの土地に残るという気持ちを示しているように思います。
第3章
新たな眼差し—多様な表現の探求」——ゴーギャンが去った後のブルターニュで制作に励んだ画家たちは、さまざまな絵画表現を試みた。1870年代に誕生した印象派、ついで1880年代に登場した新印象派の様式を特徴づける明るい色彩と筆触はポン=タバン派の画家たちにおいても継承され、風景画の中でさらなる展開を見せた。
アンリ・ジャン・ギョーム・マルタン「ブルターニュの海」1900
エドゥアール江戸問・ドワニュー「ポンラぺの子どもたち」
リュシアン・シモン《じゃがいもの収穫》 1907年 カンペール美術館
アンドレ・ドーシェ「ラニュロンの松の木」1917
展示の中に浮世絵の影響がみられる作品がたくさんあったが、この松の木の描写もそのひとつ。松の幹を輪郭線で黒く描いているようすなどが見てとれた。
マックス・ジャコブ「ふたりのブルターニュの女性」1931
ピエール・ド・ブレ「ブルターニュの少女」1940 「ブルターニュの女性」1940
19世紀末から1940年頃までのブルターニュを描いた画家たち。モネやゴーギャンのように日本でよく知られた画家の作品もありましたが、私がはじめて知った画家も多かったです。パリを中心として集まっていた画家にとって、ブルターニュはエキゾチックな異郷として重要なモチーフになっていたことがよくわかりました。ブルターニュの女性風俗も、独特な頭巾の描写にパリとは異なる衣裳への「独特の美」を見出そうとする画家のまなざしを感じました。
あまり乗り気でないけれど、新宿に出たついでだからと立ち寄った美術館。よい時間をすごすことが出来ました。
<つづく>