20191228
ぽかぽか春庭日常茶飯事典>十九文屋日記つづく(9)『あん』上映と河瀨直美トークショー in 国立映画アーカイブ
ひとりで楽しむことといったら美術館博物館か映画しか思いあたらない春庭。12月25日のひとりクリスマスは、映画にしました。映画アーカイブの特集「河瀨直美」。
2018年に近代美術館フィルムセンターから「国立映画アーカイブ」に名称が変わったことも気づいていなかったくらい、しばらく来ていませんでした。昔、東京駅から歩いても有楽町から歩いても迷ってたどり着くまで毎回時間がかかったのですが、都営地下鉄宝町駅で下車すればすぐでした。これからはちょくちょく来ようと思います。都営線に乗れば交通費かからず、映画は65歳以上は310円で、高齢者の暇つぶしに最適。
河瀨直美監督。長編第1作「萌の朱雀」(1997)でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞して以来、活躍してきてきて、五輪2020の総合監督に決定しました。
初期作から「Vision」まで18作品を12月24日から2020年1月19日まで連続上映し、上映後に監督トークショーが付いています。
25日は午後「現よ」、夜「あん」。どちらも監督トークあり。
午後の会は、310席の半分ほどの入り。ほとんどが白髪禿頭の定年退職後と見えるおっさん。ちらほら年配女性。
夜は200枚の前売り券完売だそうで、樹木希林人気もあってのことでしょうが、若い世代もたくさんいました。
「現よ(うつしよ)」は1996年の作品で、是枝裕和監督との「往復フィルム」。
往復書簡ならぬ往復フィルムは、河瀬が1992年『につつまれて(山形国際ドキュメンタリー映画祭国際批評家連盟賞受賞)』に続いて1994『かたつもり(山形国際ドキュメンタリー映画祭奨励賞受賞)』を受賞したおりに山形で初対面。意気投合して始めたフィルムによる交歓。
テレビマンユニオンの社員としてドキュメンタリーを撮っていた是枝が、1995年に『幻の光』で長編映画監督デビューする前の往復フィルム。
トークショー。
「往復フィルムで、互いに影響を与え合ったか」という質問に、河瀬は「互いに共通する面はたくさんあって、映画に対する思いも共通していたが、映画の作り方においては、影響しあうということはなかった」と、回顧していました。年齢は是枝のほうが7歳上ですが「フィルムによる映画作りにおいては、自分のほうが先輩」という自負が感じられました。テレビカメラで撮影してきた是枝に8ミリフィルムの扱い方をゼロから伝授したのはこの私、と語っていました。
午後の部トークショーの河瀨直美監督
夜の部の「あん」は、テレビ録画で見たのみで、劇場上映を見るのは今回が初めてです。
多磨全生園の中の木々のようす、葉擦れの音、画面いっぱいの桜など、自然を写したシーンは、大画面ならではの美しさで、やはり映画は劇場大画面で見るのがほんとだなあと思います。
「あん」を見た感想はこちら。あらすじ紹介などはこちらで。
https://blog.goo.ne.jp/hal-niwa/e/704032b3385eb29603977de38aa53bcd
夜の部トークショーには、浅田美代子と秦基博が参加。
浅田は、「あん」でどら焼き屋のオーナー役をつとめ、河瀨直美最新作(2020年春公開)「朝がくる」でも重要な役でキャスティングされています。秦は、「あん」のエンディングソングを作詞作曲歌唱。
あん主題歌「水彩の月」
秦基博は、主題歌作曲のオファーを受け、ゼロ号試写(小規模の関係者のみの試写)を見て、イメージを固めて、作曲はすぐにできたけれど、作詞は時間をかけた、と話していました。
あん主題歌「水彩の月」
https://www.youtube.com/watch?v=RbBXxVE_XC4
会場にはエグザイルヒロや南果歩などの有名人や団体からたくさんの花が届いていましたが、「萌の朱雀」の舞台となった奈良の五条市市長からの花と並んで浅田美代子からの花。
内田家の人々と長年の親交がある浅田から、内田一家の話も出ました。ワカナ役の内田伽羅(樹木希林の孫、内田也哉子本木雅弘の娘)は、もう20歳の大学生。(イギリス留学中)
完成初回試写会に長男UTAともども一家で来て、モックンは「娘の14歳を(スクリーンに)残していただき、ありがとうございました」と、監督に挨拶したのだそう。
伽羅は、愛知県でのロケ(徳江がふるさとを見つめるイメージシーン)にも出演がなくても樹木希林に同行し、おばあちゃんの背中を見つめていたそうです。
浅田は、樹木希林から河瀬作品への出演を勧められたこと、河瀬監督の撮り方は、「よーいスタート」も「カット」もなく、「演じる」のではなく、その役として生ききることが求められること、などの撮影話がありました。
河瀬は「樹木希林さんが、役者やるなら
に一度は河瀬作品を経験した方がいいと、あちこちで言ってくださったので、オファーをうけてくださる俳優さんが増えてありがたい」と話していました。
樹木希林のアドリブも画面に生かされています。月を指さす徳江に、空を見上げるワカナ、というシーンが樹木希林のアドリブだったことなど。緊張していた伽羅ちゃん、おばあちゃんの言葉に自然に反応することで緊張がほどけ、あとはしっかり役を生きたと、監督は語りました。
「どら春」店長千太郎(永瀬正敏)は、どら焼き作りを特訓しました。撮影に使った店を本物のどら焼き屋と勘違いした客が、ほんとうに千太郎が焼いたどら焼きを買っていき、永瀬だとはまったく気づかなかった、という撮影秘話も監督から語られました。スタッフはあわてて客を追いかけ、120円を払い戻したそうです。
「徳江を守れなかった」と感じていた千太郎が徳江の語る言葉を聞いて涙を流すシーンも、「演技ではなく、千太郎として生きている人が心から泣いているシーンになった」と、河瀬は語りました。
ほかにもいい話がいっぱい聞けて、聴衆にはなによりのクリスマスプレゼントになりました。おそらく、国立映画アーカイブの広報誌にトークの記録がでるでしょうから、ニュースレターが出たら読みたいです。
「夜の部トークショーの撮影録音は禁止」と開始前にアナウンスがあったので、カメラはリュックにしまってありました。
しかし、トーク終了後、出演者の意向として「クリスマスの夜にきてくださった方々」へのプレゼントとして、ハプニング撮影許可がでました。「1から5まで数える間だけ撮影OK」と司会者が言ったので、あわててカメラをだして撮影。
12月24日と25日&おおみそか31日をひとりですごすのは、娘が生まれて以来はじめてのこと。でも、25日夜は、心豊かに帰宅することができて、サンタさん、ありがとう!です。
<つづく>