20210209
ぽかぽか春庭アート散歩>2020アート散歩回顧(16)キングとクイーン展 in 上野の森美術館
2020年最後の美術館散歩は、上野の森美術館のKing&Queen展でした。ぐるっとパス利用だと100円引きになるだけなので、上野のチケット屋で平日割引券を購入。ふたりで3400円。チケットを買ったときは、娘も図録をがまん。
私も図録がそれほどほしくなかったのは、期待した「チューダー朝から現在のウインザー朝までの肖像画がずらり」という展示ではなかったから。半分以上は現在のエリザベス2世ファミリーのグラビアなどに載ったことのある見慣れた写真。これではパパラッチ写真集のほうがよほど見ごたえがあるっていうものです。
たった1枚撮影OKのものは、1952年に撮影された戴冠後のエリザベス女王公式肖像写真のみ。
エリザベス2世公式肖像画
公式肖像画をもとにしたアンディ・ウォーホルの作品は、はじめて見ました。
チューダー朝のヘンリー8世やエリザベス1世の肖像も、「アルマダ海戦後のエリザベス」のようなよく知られた肖像です。以下画像は借り物。多くの美術館は所蔵絵画画像をネットに公開しています。
ヘンリーー8世
アルマダの闘いに勝利したことを誇るエリザベス。アルマダ海戦の絵が上部に描かれています
エリザベス1世の母、アン・ブリーン。1000日間王妃の座にあったのち、夫によって処刑されました。
「おおこれはお初!」というのは、レディジェーン・グレイ。王位継承のごたごたのさなか、王位継承権ありと主張して担ぎ出されたジェーンはわずか16歳。9日間女王としてすごしたのち、エリザベス1世の異母姉女王メアリーによって処刑されました。
これまでポール・ドラローシュが描いた「レディジェーングレイの処刑」を中野京子の「怖い絵」などで目にしてきましたが、National Portrait Galleryが所蔵する肖像画ははじめて見ました。
ヘンリー8世がとっかえひっかえした6人の王妃。最初の妻はもともと兄の婚約者だったから、「姉に当たる人との結婚は無効」と主張し、ローマ教皇の反対を押し切って離婚。侍女だったアン・ブリーンの妊娠を期に皇子誕生との期待をもって結婚。しかし生まれたのは娘エリザベス。どうしても世継ぎがほしい王はアン・ブリーンに姦通の濡れ衣をきせて処刑。3番目のジェーンシーモアは、待望の世継ぎを生むも産褥熱によって死去。
ヘンリー8世はすぐに4番目を物色。廷臣クロムウェルが連れてきた肖像画家ホルバインが花嫁候補の肖像画を描きました。肖像画はなによりも国と国との結びつきを作る政略結婚の必須アイテムでした。それの中で、フランドルのクレーフェ公国皇女アンナが一番気に入りました。
ホルバインの腕のよさは、本人だとわかる確かな肖像ですが、絶妙に美化して描くことができること。アンナ肖像も彼女のロバのような長い鼻面を巧みに美しさに変えて表現。王は新しい花嫁に期待して迎え入れたのに、床入りもせず半年もたたずに離婚。「フランドルの雌ロバ」を押しつけた罪により、クロムウェルを処刑してしまいました。美化の上手なホルバインは、その後もヘンリー8世の姿を美化しつつ描いています。
なんの罪もなく離婚されたアンナですが、罪をきせられて処刑されたアン・ブリーンよりはましな生涯をおくりました。ヘンリー8世も「鼻が長すぎる」と離婚したことに多少はうしろめたくあったのか、「王の義理の妹」という身分や住まいを与え年金で余裕の生涯をすごせるように手当しました。
アンナは5番目の妃キャサリンや嫡子エドワード、庶子に落とされ不遇だったエリザベスとも仲良く行き来し、エリザベスの王位継承権を復活させました。エリザベス1世が処女王としてイギリスの繁栄をもたらした第1歩には、アンナが剥奪されていたエリザベスの王位継承権を復活させた功績があったのです。
5番目のキャサリン・ハワードは、こちらは本当の姦通をして処刑されました。6番目のキャサリン・パーは、ヘンリー8世の死後再婚しましたが、36歳での出産後産褥熱で死去。結局ヘンリー8世の享年より長生きしたのは、「フランドルの雌ロバ」と夫にけなされたアンナのみ。王妃の座に座るのもたいへんです。
ほかに初めて見たのは、チャールズ1世の5人の子供が居並んだ絵。
チャールズ1世は、清教徒革命(イングランド内戦)で敗れて処刑された王様。その子供たちも、それぞれがさまざまな運命をたどりました。この絵の中の犬に手を置いている嫡男(夭逝したち長男にかわって次男が跡取りになった)は、チャールズ2世として即位しましたが、正式な王妃との間に子はできず、数多くの愛人との間に公式に認知しただけでも14人、非公式ではそれ以上の子を設けました。が、愛人の子(庶子)には王位継承権がなく、王位は弟のジェームズ2世が継ぎました。
ジェームズ2世の次女が「女王のお気に入り」に描かれたアン女王です。
アン女王、即位後は太りすぎて歩けず、宮廷内の移動にも輿に乗っていたということですが、この肖像画はまだ即位前ですから美化は当然ですが、1790年アン25歳のころに描かれたということですから、まだすらりとしています。
イギリスの王室、映画「冬のライオン」に描かれたプランタジネット朝ヘンリー2世にはじまって、さまざまなゴシップ満載で、裏歴史読み物としては面白いのですが、現代の王室肖像写真では、エリザベス2世のダイアナ妃いじめ問題とか、ゴシップはおおむねカットされているご清潔な写真肖像の羅列でした。
チャールズ皇太子が再婚したカミラ(結婚後はコーンウォール公爵夫人という称号を得た)の高祖母が、チャールズの高祖父である英国王エドワード7世の「公式愛人」として遇されていたことを知ると、あれまあ、女性の好みっていうのも遺伝の法則だねという娘の感想。
カミラとの関係を清算しないままダイアナと結婚したチャールズ、「公式愛人」という世間の認知がない時代だったのがいけなかったか。
王様女王様と私
2020年内最後の美術館巡り、それなりに面白かったです。帰りは上野駅エキュートの台湾カフェ騒豆花で「台湾ごはんセット」を食べて帰りました。
<おわり>