20200625
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>ニーハオ春庭漢字話(6)中国語日本語意味の異なる熟語その3
2009年中国赴任時の春庭漢字話を再録しています。
~~~~~~~~~~
2009/04/13
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(9)教養つけて強制労働
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを編集したリストつづき。
<4:中国語では動詞が主な意味を担う語>
4-1覚悟
日本語(かくご)――困難や不利な結果が出るかもしれないと予測して、心を決めること。「どんなに難しくてもあきらめないで、感性させる覚悟です」
中国語――(理論や政策に)めざめる、自覚する。「有覚悟」「覚悟高」の人とは、「中国共産党の理論、路線、政策に対する意識や理解が高い人の意味。
4-2教養
日本語(きょうよう)――学問・文化に関する広い知識を身につけることで得られる心の広さ。
中国語――人のよくない習慣やくせを強制的な手段によってなくす、という意味の動詞。
また、「しつけ」という意味の名詞。「労働教養院」=強制労働収容所
4-3作風
日本語(さくふう)――作品に表れる作者特有の個性。「彼の作風は少年時代の生活環境が深く関係している」
中国語――人の思想、生活態度をいう。中国語で「作風がよい」というと、その人の異性関係が潔癖で、逆に「作風がよくない」というと、まず異性関係がだらしないというイメージが浮かぶ。
4-4勉強
日本語(べんきょう)――(1)学問や技術に励み努めること。(2)無理して商品の値引きなどをする
中国語――無理をして何かをする、自分の意に反してしぶしぶ何かをすること。
4-5出世
日本語(しゅっせ)――昇進、栄達すること。「彼は取締役に出世した」
中国語――語源は仏教用語「世」は俗世間のことで、「出世」は、「世に出る」つまり、(1)生まれること、(2)「世を出る」つまり、出家する。
4-6作為
日本語(さくい)――よく見せようとして、わざわざ仕組んだり、手を入れたりする
こと。「データを作為的に変更した」
中国語――業績、貢献。日本では基本的に「無作為」をよしとし、中国では「有作為」をよしとする。
4-7収集
日本語(しゅうしゅう)1--「集める」「火曜日には粗大ゴミを収集する」
中国語1--では収集
の対象は価値あるもの、有用なものに限られるが、日本語では「ごみ」にも「収集」が使われる。
4-8暗算
日本語(あんざん)――「筆算」の反対語。紙・鉛筆や計算機などを使わないで頭でする計算。中国語では「口算」「心算」
中国語――だまし討ち、ひそかにたくらんで人を殺す、または陥れる。日本語では「暗殺」。
4-9遠慮
日本語(えんりょ)――他人に気を使って言動を控えめにすること。「ここではタバコ
はご遠慮ください」「遠慮なく頂きます」中国語では「ご遠慮無くどうぞ」は「不客気」
中国語――将来のことを深く考えること。
4-10温存
日本語(おんぞん)――何かを使わないで大事に保存しておくこと。「試合に備えて体力を温存する」日本語は「副詞+動詞」、「暖かく(大切に)保存する」、
中国語――人、ことに異性に対して大変優しい。中国語は「主語+述語」、「温かみが存在する」から、思いやりがある、やさしい、という意味になる。
4-11合算
日本語(がっさん)――数字を合計する。
中国語――(1)合計する (2)「考えてみる」「相談してみる」
4-12我慢
日本語(がまん)――辛抱強く耐える、こらえる。「疲れたけれど、我慢して走った」
中国語――「主語+述語」、「私は遅い」。
<つづく>
2009/04/14
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(10)工夫を続ける暇はない
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを編集したリストつづき。
4-13工夫
日本語(くふう)――いろいろと考えてよい方法を得ようとすること。「なにかうまい工夫はないか」
中国語――何かをするのに要する時間、暇。「没有那样的工夫 そんな暇はない)」
4-14無心
日本語(むしん)――(1)雑念や邪心がないこと。「彼は無心に仏像を彫っている」「少女が無心に笑っている」(2)金や物をあつかましくねだること「友だちに金を無心した」
中国語――「無心」の「心」は意図性。わざとしたことではない、なにかをする気が起こらない。「この事故は無心で起きたことだ」
4-15留守
日本語(るす)――(1)家を空けること、不在。「旅行するのでしばらく留守にします」(2)(他のことに気をとられて)すべきことをしないで放っておくこと「ほかのことを考えていたので、頭がお留守になっていた」(3)中国語と同じ使い方「留守番」
中国語――留まって守ること。軍隊や各種の団体の本体が移動して現地を離れた時、少数の人が残ってその留守を守ること。
4-16結束
日本語(けっそく)――人間を結ぶ、人々を束ねる。同じ志の者が力を合わせて団結すること。「賃上げのため結束して交渉する」
中国語――終わる、終結する。人間の手に持っている武器、道具。道具や武器を「結び束ねてしまう」ことは、仕事や戦が終わる、終結する時のこと
4-17裁判(審判)
日本語(さいばん)――法に基づいて訴訟を裁くこと。中国語では「審判」
中国語――スポーツ競技で勝ち負けや反則の有無を判断すること。日本語では「審判」
4-18翻案
日本語(ほんあん)――既成の作品の大筋を生かしながら、作り変えてゆく作業。「この映画は、シェークスピアのハムレットの翻案です」
中国語――ある人に関するそれまでの判決や歴史的な評価を覆して、新しい決定をくだすこと。「修正主義者として失脚した鄧小平は3度の翻案を経験した」
===============
中国語の漢字熟語と日本の熟語の意味のちがいについて対照してきました。言語学では、日本語と中国語のような、文法構造が異なる言語を比べて研究することを対照言語学と呼びます。韓国語朝鮮語モンゴル語トルコ語など、文法構造が同じ系統の言語を比べて研究することを比較言語学と呼びます。
現在の春庭コラムのテーマは、「日本語語彙中国語語彙の意味・対照言語学」です。こう書くとなんだか高尚なことを論じているような気分になりますが、違う言語を並べて異同をしらべてみるのは、楽しい遊びにもなります。
日本語では祖母・祖父・は父方も母方もおなじに「おじいさん・おばあさん」と呼びますが、中国語では、父方のおじいさん、書き言葉では「祖父」で、呼びかけるときは「爺爺(爷爷)ジエジエ」、父方のおばあさん、書き言葉では「祖母」、呼びかけるときは「奶奶ナイナイ」、母方のおじいさん書き言葉では「外祖父」、呼びかけるときは「老爺(老爷)ラオジエ」、母方のおばあさん、書き言葉は「外祖母」、呼びかけるときは「姥姥ラオラオ」と、呼び方が違います。
おじさんおばさんとなると、父方か母方か、両親より年上か年下かで、それぞれ呼び方が異なる。
中国では、父方と母方は厳密に区別します。そのため、嫁いできたヨメの名字は変わることがありません。王さんのところにヨメにきた李さんは、結婚後も李の名字を持ち続けます。王家に生まれた者ではないからです。
一方、日本語では年齢が上か下かで区別する「兄・弟」が英語ではまとめてブラザーbrotherですし、「姉・妹」は、まとめてシスターsisterです。
日本語では、外で見かけた年老いた人を「今日、電車の中で、手をつないでいるおじいさんとおばあさんを見た」と表現できますが、英語では、grandmother grandfatherは、自分の祖父母にだけ用い、よそのおばあさんならold woman, old ladyなどと表現します。
アフリカのある言語では、母の姉妹は全部「ママ(という意味のことば)」で呼ぶため、文化人類学者のなかには、姉妹がそろって一人の男にとつぐ一夫多妻社会だと誤解したこともありました。
ことばは文化を反映しており、ことばの異同を調べることは、その社会をより深く理解することにつながります。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>ニーハオ春庭漢字話(6)中国語日本語意味の異なる熟語その3
2009年中国赴任時の春庭漢字話を再録しています。
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2009/04/13
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(9)教養つけて強制労働
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを編集したリストつづき。
<4:中国語では動詞が主な意味を担う語>
4-1覚悟
日本語(かくご)――困難や不利な結果が出るかもしれないと予測して、心を決めること。「どんなに難しくてもあきらめないで、感性させる覚悟です」
中国語――(理論や政策に)めざめる、自覚する。「有覚悟」「覚悟高」の人とは、「中国共産党の理論、路線、政策に対する意識や理解が高い人の意味。
4-2教養
日本語(きょうよう)――学問・文化に関する広い知識を身につけることで得られる心の広さ。
中国語――人のよくない習慣やくせを強制的な手段によってなくす、という意味の動詞。
また、「しつけ」という意味の名詞。「労働教養院」=強制労働収容所
4-3作風
日本語(さくふう)――作品に表れる作者特有の個性。「彼の作風は少年時代の生活環境が深く関係している」
中国語――人の思想、生活態度をいう。中国語で「作風がよい」というと、その人の異性関係が潔癖で、逆に「作風がよくない」というと、まず異性関係がだらしないというイメージが浮かぶ。
4-4勉強
日本語(べんきょう)――(1)学問や技術に励み努めること。(2)無理して商品の値引きなどをする
中国語――無理をして何かをする、自分の意に反してしぶしぶ何かをすること。
4-5出世
日本語(しゅっせ)――昇進、栄達すること。「彼は取締役に出世した」
中国語――語源は仏教用語「世」は俗世間のことで、「出世」は、「世に出る」つまり、(1)生まれること、(2)「世を出る」つまり、出家する。
4-6作為
日本語(さくい)――よく見せようとして、わざわざ仕組んだり、手を入れたりする
こと。「データを作為的に変更した」
中国語――業績、貢献。日本では基本的に「無作為」をよしとし、中国では「有作為」をよしとする。
4-7収集
日本語(しゅうしゅう)1--「集める」「火曜日には粗大ゴミを収集する」
中国語1--では収集
の対象は価値あるもの、有用なものに限られるが、日本語では「ごみ」にも「収集」が使われる。
4-8暗算
日本語(あんざん)――「筆算」の反対語。紙・鉛筆や計算機などを使わないで頭でする計算。中国語では「口算」「心算」
中国語――だまし討ち、ひそかにたくらんで人を殺す、または陥れる。日本語では「暗殺」。
4-9遠慮
日本語(えんりょ)――他人に気を使って言動を控えめにすること。「ここではタバコ
はご遠慮ください」「遠慮なく頂きます」中国語では「ご遠慮無くどうぞ」は「不客気」
中国語――将来のことを深く考えること。
4-10温存
日本語(おんぞん)――何かを使わないで大事に保存しておくこと。「試合に備えて体力を温存する」日本語は「副詞+動詞」、「暖かく(大切に)保存する」、
中国語――人、ことに異性に対して大変優しい。中国語は「主語+述語」、「温かみが存在する」から、思いやりがある、やさしい、という意味になる。
4-11合算
日本語(がっさん)――数字を合計する。
中国語――(1)合計する (2)「考えてみる」「相談してみる」
4-12我慢
日本語(がまん)――辛抱強く耐える、こらえる。「疲れたけれど、我慢して走った」
中国語――「主語+述語」、「私は遅い」。
<つづく>
2009/04/14
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(10)工夫を続ける暇はない
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを編集したリストつづき。
4-13工夫
日本語(くふう)――いろいろと考えてよい方法を得ようとすること。「なにかうまい工夫はないか」
中国語――何かをするのに要する時間、暇。「没有那样的工夫 そんな暇はない)」
4-14無心
日本語(むしん)――(1)雑念や邪心がないこと。「彼は無心に仏像を彫っている」「少女が無心に笑っている」(2)金や物をあつかましくねだること「友だちに金を無心した」
中国語――「無心」の「心」は意図性。わざとしたことではない、なにかをする気が起こらない。「この事故は無心で起きたことだ」
4-15留守
日本語(るす)――(1)家を空けること、不在。「旅行するのでしばらく留守にします」(2)(他のことに気をとられて)すべきことをしないで放っておくこと「ほかのことを考えていたので、頭がお留守になっていた」(3)中国語と同じ使い方「留守番」
中国語――留まって守ること。軍隊や各種の団体の本体が移動して現地を離れた時、少数の人が残ってその留守を守ること。
4-16結束
日本語(けっそく)――人間を結ぶ、人々を束ねる。同じ志の者が力を合わせて団結すること。「賃上げのため結束して交渉する」
中国語――終わる、終結する。人間の手に持っている武器、道具。道具や武器を「結び束ねてしまう」ことは、仕事や戦が終わる、終結する時のこと
4-17裁判(審判)
日本語(さいばん)――法に基づいて訴訟を裁くこと。中国語では「審判」
中国語――スポーツ競技で勝ち負けや反則の有無を判断すること。日本語では「審判」
4-18翻案
日本語(ほんあん)――既成の作品の大筋を生かしながら、作り変えてゆく作業。「この映画は、シェークスピアのハムレットの翻案です」
中国語――ある人に関するそれまでの判決や歴史的な評価を覆して、新しい決定をくだすこと。「修正主義者として失脚した鄧小平は3度の翻案を経験した」
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中国語の漢字熟語と日本の熟語の意味のちがいについて対照してきました。言語学では、日本語と中国語のような、文法構造が異なる言語を比べて研究することを対照言語学と呼びます。韓国語朝鮮語モンゴル語トルコ語など、文法構造が同じ系統の言語を比べて研究することを比較言語学と呼びます。
現在の春庭コラムのテーマは、「日本語語彙中国語語彙の意味・対照言語学」です。こう書くとなんだか高尚なことを論じているような気分になりますが、違う言語を並べて異同をしらべてみるのは、楽しい遊びにもなります。
日本語では祖母・祖父・は父方も母方もおなじに「おじいさん・おばあさん」と呼びますが、中国語では、父方のおじいさん、書き言葉では「祖父」で、呼びかけるときは「爺爺(爷爷)ジエジエ」、父方のおばあさん、書き言葉では「祖母」、呼びかけるときは「奶奶ナイナイ」、母方のおじいさん書き言葉では「外祖父」、呼びかけるときは「老爺(老爷)ラオジエ」、母方のおばあさん、書き言葉は「外祖母」、呼びかけるときは「姥姥ラオラオ」と、呼び方が違います。
おじさんおばさんとなると、父方か母方か、両親より年上か年下かで、それぞれ呼び方が異なる。
中国では、父方と母方は厳密に区別します。そのため、嫁いできたヨメの名字は変わることがありません。王さんのところにヨメにきた李さんは、結婚後も李の名字を持ち続けます。王家に生まれた者ではないからです。
一方、日本語では年齢が上か下かで区別する「兄・弟」が英語ではまとめてブラザーbrotherですし、「姉・妹」は、まとめてシスターsisterです。
日本語では、外で見かけた年老いた人を「今日、電車の中で、手をつないでいるおじいさんとおばあさんを見た」と表現できますが、英語では、grandmother grandfatherは、自分の祖父母にだけ用い、よそのおばあさんならold woman, old ladyなどと表現します。
アフリカのある言語では、母の姉妹は全部「ママ(という意味のことば)」で呼ぶため、文化人類学者のなかには、姉妹がそろって一人の男にとつぐ一夫多妻社会だと誤解したこともありました。
ことばは文化を反映しており、ことばの異同を調べることは、その社会をより深く理解することにつながります。
<つづく>