20200622
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>ニーハオ春庭漢字話(1)中国語と日本語読み方のちがい意味の違い
2009年中国赴任中に書いた漢字話の再録です。
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2009/04/05
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(5)中国的漢字ふりがな
中国人大学院修士課程修了学生への漢字テスト。漢字にひらがなで読み方をふらせる「ふりがな試験」です。
長音、濁音と清音、促音(つまる音)、拗音(きゃきゅきょなど)の聞き取りが弱い学生が多いので、仮名をふらせると、この発音の間違いがよくわかる。また、地方の方言によって、RとN、RとTの音の区別がむずかしい学生がいるので、この発音のまちがいも、ふりがなでわかります。熱心に「れっしん」と仮名をふった学生、RとNの区別がつかない中国南方の出身者と思われます。日本人にはRとLの音の区別がわからず同じ音に聞こえるように、中国南方地域ではRとNの音が「同じ音」に聞こえるからです。
文法の試験でも、発音の間違いによって、×にされてしまう学生もいます。たとえば、「もし、都合が< >たら、遊びに来ませんか」という文の< >に「いい」という形容詞を活用させて記入する問題で、正解は「いい」を活用させ「もし都合がよかったら、遊びに来ませんか」なのですが、促音の聞き取りを苦手とする人たちは、しばしば「もし、都合が よっかたら~」と、書いてしまう。促音の聞き取りと発音はむずかしいので、なかなか促音を正しく発音できないのです。母音の聞き取りも「ん」も難しい。
<つづく>
ふりがなの間違いを書き出してみると。
合格こうかく 兄弟きゅうたい 出発しゅぱつ・しょうぱつ 条件じょけん 条件じょっけん 事故じこう 給料きゅうりょ 税金ぜきん・ぜんきん 熱心ねしん・れっしん 趣味しゅうみ・しゅっみ 種類しょうるい 長所ちょうしょう 迷惑めんわく 種類しゅうるい・しょうるい 平均点へいけんてん・へいきんてい
朝鮮族の学生は、文法はよくできます。朝鮮語は日本語と同じ文の並べ方だから。でも、発音が苦手です。漢字ふりがなでは、朝鮮族の苦手な発音がよくわかります。朝鮮語は語頭には必ず清音になり、語の中では濁音になりますから、合格を「こうがく」と書く学生もいるし、条件を「ちょうけん」と書く学生もいる。税金せいきん 洗濯物せんだくもの、など。清濁(無声音と有声音)の聞き分けはたいへん難しい。
日本の小中学生高校生への漢字読み仮名テストは、漢字の読み方を覚えたかどうかをチェックするテストなのですが、中国人大学院学生への漢字テストは、「発音のまちがい」をチェックするテストになります。もちろん、漢字の読み方そのものを覚えていなくて、「税金を納める」に「ぜいきんを なめる」「ぜいきんを のうめる」と書いた学生は音読みの「納」ナッ、ノウを覚えていて、訓読みを忘れたのだということがわかります。
間違える人もいますが、ほとんどの学生が、ふりがながよくできており、さすがエリート中のエリート大学院生だと感心しています。
非漢字圏学生への漢字テストだと、「兄弟あにいもと」とか、「出発ではつ」などはまともなほうで、どうしてこんな読み仮名をつけるかなあという笑えるふりがなが多い。非漢字圏の漢字学習者たち、知恵をふりしぼってユニークな読み方をひねりだすので、講師室ではいつも漢字担当者たちが「本日の笑えるふりがな」を披露しあって楽しんでいました。
現在担当の中国人大学院生たちのふりがなには、「笑える」ものはなくてつまらないですが、発音の間違いがよくわかる結果を見て、今後の発音教育に生かしていこうと思っています。
<つづく>
2009/04/10
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(6)トイレットペーパーで手紙を書く
日本語と中国語で同じ漢字熟語、意味内容が、(1)まったく異なる。(2)意味が共通している部分もあるが、微妙にずれている部分もある、(3)ほとんど同じ、
という3つに分類できます。
(3)のほとんど同じ、という場合は誤解も起きず、問題はないでしょう。
「手紙」のようにt中国語ではトイレットペーパーの意味になるなど、まったく異なる場合も、最近では意味の違いに興味を持つ人も増え、気をつけることができます。問題になるのは、(2)の、「微妙に異なる」場合です。
「収集」は、中国では「宝石を収集する」「古代中国絵画を収集する」とは言えるけれど「粗大ゴミは火曜日に収集する」などには使えません。「収集」は「貴重なものを集める」という意味だからです。そのため、中国人留学生は、「粗大ゴミの収集日」などの表現に違和感を感じます。
私は日本で「先生」と呼ばれる職業についていますが、中国では「先生」は、主としてあらたまった場で男の人につける敬称で、日本語なら「~さん」にあたる言葉です。日本では、教師、医師、弁護士、議員など、一定の職業の人にのみ使う、ということを知っておかないと、日本滞在の中国人も、中国滞在の日本人も誤解することがあります。
中国人学生に推奨する「日本語と中国語 漢字語の意味のちがい」を学ぶための参考書があります。大阪府立大学教授の張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)。張麟声先生のホームページURL
http://www.lc.osakafu-u.ac.jp/staff/zhang/lin_index.htm
また、同様の中国語と日本語の漢字語の意味のちがいを解説している本は、彭飛『中国語虎の巻』(東方書店)金若静『同じ漢字でも』(学生社1987)があります。
以下、日本語と中国語で意味の異なる漢字熟語のリストを掲載します。
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを、春庭が再編集したリストです。
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<1:人をあらわす語>
1-1愛人(あいじん)
日本語--妻以外に恋愛関係を持っている女性で、とくに経済的に援助をしている女性をさす。
中国語--配偶者。妻または夫。
1-2丈夫(じょうぶ)
日本語――身体や物がしっかりしていること、頑丈で壊れにくい。「丈夫な身体、丈夫な椅子」 古代日本語では「丈夫(読み方は、ますらお)」=強い男
中国語――男の配偶者、妻に対していう夫のこと。昔の中国語では、堂々とした強い成人男子のこと
1-3大丈夫(だいじょうぶ)
日本語――問題ない、心配することはない、という意味。
中国語――立派な一人前の男、古代の漢語の「丈夫」と同じ意味=夫
1-4外人(がいじん)
日本語――外国人。
中国語――家族や親戚以外の「他人」。或いは、自分の属する組織や範囲以外の人。「私は外人とはつきあわない」と言った場合、「自分の所属しているグループの外の人とは交際しない」という意味になります。
1-5先輩(せんぱい)
日本語――同じ学校や職場に先に入った人、或いは先に卒業・退職した人。
中国語――自分より前の、つまり親の世代のこと。中国語の「後輩」は自分より後の子供の世代。「先輩は、文化大革命で苦労をした」と言うとき、日本語なら具体的なひとりの人を指すのですが、中国語では「親の世代の人は、文革で苦労した」の意味になります。
<つづく>
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>ニーハオ春庭漢字話(1)中国語と日本語読み方のちがい意味の違い
2009年中国赴任中に書いた漢字話の再録です。
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2009/04/05
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(5)中国的漢字ふりがな
中国人大学院修士課程修了学生への漢字テスト。漢字にひらがなで読み方をふらせる「ふりがな試験」です。
長音、濁音と清音、促音(つまる音)、拗音(きゃきゅきょなど)の聞き取りが弱い学生が多いので、仮名をふらせると、この発音の間違いがよくわかる。また、地方の方言によって、RとN、RとTの音の区別がむずかしい学生がいるので、この発音のまちがいも、ふりがなでわかります。熱心に「れっしん」と仮名をふった学生、RとNの区別がつかない中国南方の出身者と思われます。日本人にはRとLの音の区別がわからず同じ音に聞こえるように、中国南方地域ではRとNの音が「同じ音」に聞こえるからです。
文法の試験でも、発音の間違いによって、×にされてしまう学生もいます。たとえば、「もし、都合が< >たら、遊びに来ませんか」という文の< >に「いい」という形容詞を活用させて記入する問題で、正解は「いい」を活用させ「もし都合がよかったら、遊びに来ませんか」なのですが、促音の聞き取りを苦手とする人たちは、しばしば「もし、都合が よっかたら~」と、書いてしまう。促音の聞き取りと発音はむずかしいので、なかなか促音を正しく発音できないのです。母音の聞き取りも「ん」も難しい。
<つづく>
ふりがなの間違いを書き出してみると。
合格こうかく 兄弟きゅうたい 出発しゅぱつ・しょうぱつ 条件じょけん 条件じょっけん 事故じこう 給料きゅうりょ 税金ぜきん・ぜんきん 熱心ねしん・れっしん 趣味しゅうみ・しゅっみ 種類しょうるい 長所ちょうしょう 迷惑めんわく 種類しゅうるい・しょうるい 平均点へいけんてん・へいきんてい
朝鮮族の学生は、文法はよくできます。朝鮮語は日本語と同じ文の並べ方だから。でも、発音が苦手です。漢字ふりがなでは、朝鮮族の苦手な発音がよくわかります。朝鮮語は語頭には必ず清音になり、語の中では濁音になりますから、合格を「こうがく」と書く学生もいるし、条件を「ちょうけん」と書く学生もいる。税金せいきん 洗濯物せんだくもの、など。清濁(無声音と有声音)の聞き分けはたいへん難しい。
日本の小中学生高校生への漢字読み仮名テストは、漢字の読み方を覚えたかどうかをチェックするテストなのですが、中国人大学院学生への漢字テストは、「発音のまちがい」をチェックするテストになります。もちろん、漢字の読み方そのものを覚えていなくて、「税金を納める」に「ぜいきんを なめる」「ぜいきんを のうめる」と書いた学生は音読みの「納」ナッ、ノウを覚えていて、訓読みを忘れたのだということがわかります。
間違える人もいますが、ほとんどの学生が、ふりがながよくできており、さすがエリート中のエリート大学院生だと感心しています。
非漢字圏学生への漢字テストだと、「兄弟あにいもと」とか、「出発ではつ」などはまともなほうで、どうしてこんな読み仮名をつけるかなあという笑えるふりがなが多い。非漢字圏の漢字学習者たち、知恵をふりしぼってユニークな読み方をひねりだすので、講師室ではいつも漢字担当者たちが「本日の笑えるふりがな」を披露しあって楽しんでいました。
現在担当の中国人大学院生たちのふりがなには、「笑える」ものはなくてつまらないですが、発音の間違いがよくわかる結果を見て、今後の発音教育に生かしていこうと思っています。
<つづく>
2009/04/10
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(6)トイレットペーパーで手紙を書く
日本語と中国語で同じ漢字熟語、意味内容が、(1)まったく異なる。(2)意味が共通している部分もあるが、微妙にずれている部分もある、(3)ほとんど同じ、
という3つに分類できます。
(3)のほとんど同じ、という場合は誤解も起きず、問題はないでしょう。
「手紙」のようにt中国語ではトイレットペーパーの意味になるなど、まったく異なる場合も、最近では意味の違いに興味を持つ人も増え、気をつけることができます。問題になるのは、(2)の、「微妙に異なる」場合です。
「収集」は、中国では「宝石を収集する」「古代中国絵画を収集する」とは言えるけれど「粗大ゴミは火曜日に収集する」などには使えません。「収集」は「貴重なものを集める」という意味だからです。そのため、中国人留学生は、「粗大ゴミの収集日」などの表現に違和感を感じます。
私は日本で「先生」と呼ばれる職業についていますが、中国では「先生」は、主としてあらたまった場で男の人につける敬称で、日本語なら「~さん」にあたる言葉です。日本では、教師、医師、弁護士、議員など、一定の職業の人にのみ使う、ということを知っておかないと、日本滞在の中国人も、中国滞在の日本人も誤解することがあります。
中国人学生に推奨する「日本語と中国語 漢字語の意味のちがい」を学ぶための参考書があります。大阪府立大学教授の張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)。張麟声先生のホームページURL
http://www.lc.osakafu-u.ac.jp/staff/zhang/lin_index.htm
また、同様の中国語と日本語の漢字語の意味のちがいを解説している本は、彭飛『中国語虎の巻』(東方書店)金若静『同じ漢字でも』(学生社1987)があります。
以下、日本語と中国語で意味の異なる漢字熟語のリストを掲載します。
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを、春庭が再編集したリストです。
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<1:人をあらわす語>
1-1愛人(あいじん)
日本語--妻以外に恋愛関係を持っている女性で、とくに経済的に援助をしている女性をさす。
中国語--配偶者。妻または夫。
1-2丈夫(じょうぶ)
日本語――身体や物がしっかりしていること、頑丈で壊れにくい。「丈夫な身体、丈夫な椅子」 古代日本語では「丈夫(読み方は、ますらお)」=強い男
中国語――男の配偶者、妻に対していう夫のこと。昔の中国語では、堂々とした強い成人男子のこと
1-3大丈夫(だいじょうぶ)
日本語――問題ない、心配することはない、という意味。
中国語――立派な一人前の男、古代の漢語の「丈夫」と同じ意味=夫
1-4外人(がいじん)
日本語――外国人。
中国語――家族や親戚以外の「他人」。或いは、自分の属する組織や範囲以外の人。「私は外人とはつきあわない」と言った場合、「自分の所属しているグループの外の人とは交際しない」という意味になります。
1-5先輩(せんぱい)
日本語――同じ学校や職場に先に入った人、或いは先に卒業・退職した人。
中国語――自分より前の、つまり親の世代のこと。中国語の「後輩」は自分より後の子供の世代。「先輩は、文化大革命で苦労をした」と言うとき、日本語なら具体的なひとりの人を指すのですが、中国語では「親の世代の人は、文革で苦労した」の意味になります。
<つづく>