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ぽかぽか春庭「留学生の漢字習得レベル」

2020-06-13 00:00:01 | エッセイ、コラム
20200607
ぽかぽか春庭にっぽにあニッポン語教師日誌>留学生の漢字教室(1)留学生の漢字習得レベル

 春庭のブログ再録。漢字話を続けています。
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2008/12/15
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>再録・感じる漢字教室(1)漢字習得レベル

 「朕」は、使用頻度は低くても、常用漢字に入っています。この語を一人称に使用する人はたった一人で、使用頻度はごくわずかですが、常用漢字。一方使用頻度が低いとみなされ常用漢字に入っていなかった語で、その後社会に広く使われるようになり、常用漢字になったものもあり、常用漢字、現在約2000字。(2020年現在は2136字)

 文化審議会国語分科会は、新しく加わる可能性のある2140字の漢字を公表しました。今後使用頻度の調査などによってさらに絞り込み、2010年に新常用漢字表の制定を目指しています。さて、「頻度」は、読めましたか。「ヒンド」ですよ。では「頻繁」はどうでしょうか。

 昨今、話題の漢字といえば、「踏襲、頻繁、未曾有」
 なぜ話題になったか。21%まで支持率低下のアソぼん太郎さんが、これを「ふしゅう、はんざつ、みぞうゆう」と読んだからです。もちろん、正しい読みは、「とうしゅう、ひんぱん、みぞう」。

 日本語教師志望者の日本人学生には、こう話しました。「お金持ちの世襲政治家のぼっちゃまなら、漢字読めなくてもなれちゃうのが日本の首相ですね。首相ってのは、この程度の日本語力でもなれるもんらしいですけれど、日本語教師は、そういう程度の漢字力ではなれません。漢字は必修ですよ」

 と、言っても、私もしょっちゅう、漢字を間違えます。
 私は、20歳すぎてそうとうたつまで、同人雑誌を「どうにんざっし」と言っていた人間です。
 私の知人は、日本語教師になっても「一朝一夕」を「いっちょういちゆう」と言っていました。相手をはばかってまわりが教えてあげないと、いつまでたっても踏襲をフシュウと読んでしまうことにもなります。相手を気遣いながら、誤読であることを教えてやるのも親切ってもんですよね。

 首相が「踏襲をフシュウ」と読み間違えたとき、国民は何にがっかりするのか。彼が二・三の漢字を読みまちがえたってことじゃありません。だれでも誤読してきた漢字のひとつふたつはある。友人や上司に誤読を指摘され、そのときは恥ずかしい思いをして、私たちは誤読を知る。
 問題は、彼の周囲には、これまできちんと誤読を指摘してやるような友人もブレインも誰一人いなかったのか、という疑念を国民が感じた、ということ。ぼっちゃまの誤りを指摘してやれるようなスタッフがこれまでひとりもいなかったのか、ということです。今や国民は王様がハダカであることを皆知っています。

 留学生の漢字使用にも、面白い間違いが頻出します。私が読んだ中で一番面くらったのは、博士課程で工学を学ぶ予定の留学生の「私の仕事は、空気の中の弖爾乎波を打つことです」という作文でした。え?「弖爾乎波(てにをは)を打つ」って何のこと?

 彼は、空気中の粒子=パーティクル(Particle)を捉えて操作を加える研究をしていたのです。彼が持っていた辞書は古いものだったらしく、particleの訳語として、第一番に「perticle=てにをは弖爾乎波・助詞」と、書かれていたのでした。彼は、自分の作文を立派なものにしようとして、まだ習ったことのない「弖爾乎波」などという難しい漢字を書いてみたのでした。

 自分が漢字苦手なことは棚にあげて、留学生には、「日本語語彙の70%は漢語なので、漢字が読めて意味がわかるようにしないと、日本での生活がうまくできないし、日本語の文献は読めません」と、漢字学習の大切さを説いています。英語で論文を書く医学工学系の留学生であっても、漢字の知識が必要です。日常生活で「コーエンにいきましょう」と誘われたとき、公演なのか公園なのか講演なのか理解できないと、せっかくの招待に返事ができません。

 漢字習得レベル検定。
 留学生のための検定と日本語母語話者向けのふたつの検定があります。

 日本語学習者の漢字習得レベルは、日本語能力試験のなかに、「文字・語彙」として出題されます。初級が300~500程度、中級が1000字程度、上級が2000字程度です。
 上級になると、日本語の新聞が読みこなせるようになります。

<つづく>

2008/12/16
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(2)漢字検定レベル

 教える人が教わる人と同じレベルじゃ足りません。「日本語を教えたいなら、2000字の常用漢字の訓読み音読み熟語は当然のこととして、さらに上級をめざしていかなければなりません」と、日本語教師志望者には言っています。

 日本の漢検、漢字検定試験のレベルは以下の通りですが、6000字レベルの1級は、「漢字オタク問題」が多いです。一般的な社会生活にとって、準1級レベルで十分です。漢字苦手の太郎さんにも、ぜひ準1級に挑戦してほしいです。そうね、彼の場合、3級あたりからコツコツと勉強してほしいです。「バカヤロー発言」のジッチャンの名にかけても「漢字読めない宰相」というあだ名の汚名返上につとめていただきたいのですが、、、。
 
1級 - 大学生・社会人レベル(JIS第1・第2水準を目安とする約6000字)
準1級 - 大学生・社会人レベル(JIS第1水準を目安とする約3000字)
2級 - 高校3年生レベル(常用漢字、人名用漢字2230字)
準2級 - 高校1・2年生レベル(常用漢字1945字)
3級 - 中学3年生レベル(常用漢字1608字)
4級 - 中学2年生レベル(常用漢字1322字)
5級 - 中学1年生レベル(教育(学習)漢字1006字)

 大学生なら、2級は当然合格、大学卒業程度の準1級は合格して欲しい。学生達には準1級レベルの漢字検定に挑戦してもらいます。

 中国で高等教育を受けた人のなかには、「中国では最低限、5~6千の漢字を覚えないと新聞が読めない。高等教育を受けた人なら、1万近く漢字を知っている。日本の漢字が2千だなんて、簡単だ」と思う人もいます。

 ここが落とし穴。中国の漢字は、漢字ひとつに原則として読み方(発音)はひとつだけです。(標準語北京普通話の場合)
 ところが、日本の漢字は、ひとつの漢字につき、ひとつの読み方だけしかないのは、まれです。最低で2つ、多いとひとつの漢字に12もの読み方があります。訓読みを覚えるのは、なかなかたいへんです。ひとつの漢字に一般的な辞書に載っているだけで12通りの読み方がある「生」の字については、読み方紹介いたします。

 日本語学習は、欧米圏の学習者にとって、むずかしいと感じられます。英語圏の学習者がフランス語を習う、スペイン語を覚える、というような「同系統の言語」を習うのと比べると、系統の異なる言語の学習はどの人にとっても、難しいし、しかも、アルファベットなどの表音文字とは異なる「漢字ひらがな併記」という書き言葉。
 日本語漢字の指導は、言語教育のなかでも、指導方法に工夫を要する分野です。中国での漢字教育ともちがいます。

 漢字嫌いにしてしまうと、その学習者の日本語能力は伸びていきません。少なくとも大学教育を受けようとする日本語学習者なら、2000字の習得は必須ですから、日本語教師たち、心して漢字教育に取り組んでいきます。


<つづく>
コメント
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