回顧と展望

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夢破れて

2020年05月14日 08時23分51秒 | 日記

2009年、英国の公開オーディション番組で、ほとんど無名の女性歌手スーザン・ボイルが、ミュージカル、レ・ミゼラブルの劇中歌である「夢破れて I Dreamed a Dream」を、その容姿からは想像もできない(失礼!)ような美声で歌い上げ、審査員を唖然とさせかつ聴衆を熱狂させ、一夜にして、「夢破れて」どころか長年の夢を実現して世界的に有名な歌姫?にまでなったことがある。ところで、「夢破れて、I Dreamed a Dream」は、このミュージカルの主要登場人物のひとりであるフォンテーヌが、はかなく消えていった夢見るような青春の日々を懐かしみ、今は奈落の底におちてしまった自分を嘆き悲しむものだ。27歳という若さでこの世を去ることになるフォンテーヌの歌うこの歌は聴く者の涙を誘うほど実に感動的。一方、主人公のジャン・バルジャンはといえば、囚人というどん底から這い出(脱獄)して、事業に成功し巨額の財産を築き、市長にまで上り詰め、その後も追われる身ながらその隠し財産(文字通り金銀を秘密の場所に埋める)で、フォンテーヌの遺児、コゼットをフランス7月革命を乗り越えて育て上げるといううこれまた夢のような話。同じような冒険譚には、脱獄して囚人仲間からの宝の山を譲られる「モンテ・クリスト」伯ことエドモン・ダンテスの復讐物語もある。レ・ミゼラブルやモンテ・クリスト伯のほかにも、孤児同然の主人公が巨額の遺産手に入れる、という筋書きの古典はフランス、イギリスに少なくない。このような展開は、人間の共通する見果てぬ夢の一つであり、現実には無理であってもせめて小説の中だけにでもあってほしいと思う気持ちがそうさせるのだろう。

一方、現代日本で、一夜にして巨万の富を手にする方法があるとすれば、その一つが宝くじに当たることだ。どんなに確率が低いと言われようと、そこに夢を託したくなる心情がある。一度でも1等があたれば、文字通り、一夜にして億万長者になることが出来る。現在発売中のドリームジャンボ宝くじは1等3億円、前後賞も含めれば5億円を手に入れることが出来るかもしれない・・・こうして、ジャン・バルジャンか、エドモン・ダンテスのたどった道(?)を夢見て多くの日本人が宝くじを買っている(のではないか)。

コロナウイルスへの対応として、政府は全国民一人当たり10万円を支給するが、それの目的は日々の生活支援であり、また、それが消費に回ることによって、経済が活性化され景気回復を促そうというものだ。この10万円は宝くじでの一獲千金を夢見ることを奨励しているわけではない。宝くじにまわったのであれば当初の目的を果たすことにはならないから。

フォンテーヌは「夢破れて」しまったままだった。しかし、最後にコゼットはマリウスと幸せに暮らすことなってフォンテーヌもジャン・バルジャンも、そして読者も救われることになる。

満天星つつじと、つつじ

コメント
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