電球とテレビで知られるオランダの多国籍企業フィリップスが、採算のとれない先進国の家電市場から、インドネシアなど、人口が多く、所得が増加している新興アジア経済の成長著しいヘルスケア産業へ重点を移している。
■ヘルスケア事業が売上比率トップに
フィリップスは家電からヘルスケアへ事業の軸足を移している(8月31日、欧州家電見本市「IFA」の開幕を控えた同社ブース)
「インドネシアには少し前から注目していたが、今は本当に急拡大している」。フィリップスヘルスケアのアジア太平洋地域代表、ウェイン・スピットル氏はこう話す。「我々は市場における存在感と事業拡大ペースを維持するために、人員増強に多額の投資をするつもりだ。インドや中国と比べると、インドネシアは小さな出発点からスタートしたが、(売上高の)伸び率では両国を上回っている」
新興アジア諸国のヘルスケア事業に焦点を合わせる取り組みは、同社の第2四半期の決算に反映されている。旧来の家電製品の売上高は若干減少して12億9000万ユーロ(18億3000万ドル)になる一方、ヘルスケア事業は8%の増収で20億8000万ユーロとなった。
今年1~6月期には、ヘルスケア事業がグループの売上高の40%を占めて照明事業(3分の1強)と家電事業(4分の1)を上回り、売上比率で初めてトップになった。
フィリップスの新たな焦点は、景気循環に左右されすぎる薄利多売の製品から離れ、利益率の高いヘルスケア市場へシフトする長期戦略の一環だ。
同社は米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスといったライバルに対して市場シェアを拡大するために、2000年以降、医療企業の買収に約120億ドルをつぎ込んできた。2008年にはレスピロニクスを49億ドルで買収している。このパターンは鈍ることなく、フィリップスが昨年買収した企業11社のうち、8社が医療分野だった。
■欧米から新興国へシフト
売上高を地域別に見ると、西欧と北米が減少しており、第2四半期には両地域合計の売上高が6.2%減って30億7000万ユーロとなった。だが、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)やインドネシアを含む成長市場では、売上高が9%伸び、17億ユーロとなった。
「インドネシアでの当社の成長は全くもって驚異的で、(16%という)市場全体の伸び率の何倍にも上っている。我々が投資を増やしたのは、この成長が続くと考えているためだ」とフィリップスは言う。「会社の投資の大部分をインドネシア市場に振り向けている」
フィリップスによると、同社はこれまでに数千万ドル投資しており、今年は投資額を増やすという。
グループの売上高が320億ドルに上り、12万人の従業員を抱えるフィリップスは、インドネシア、フィリピン、ベトナムでの医療用品・家庭用ヘルスケア製品のシェア拡大を視野に入れ、300人近い陣容の地域本社をシンガポールに立ち上げた。
スピットル氏によると、数十人のスタッフでスタートしたインドネシアでは、数百人の従業員を採用しており、今後数年間で従業員数を10倍に増やすという。同氏はこれ以上具体的な数字を挙げるのを拒んだ。
■インドネシアの民需にチャンス
インドネシア政府のヘルスケア関連支出は年間予算のわずか2.2%にとどまっている。この水準はタイやベトナムなどの近隣諸国を大きく下回り、世界保健機関(WHO)が推奨する最低15%の国家予算の配分に遠く及ばない。
助成金の不足は、心疾患やがんの罹患(りかん)率の上昇と相まって、民間部門にチャンスをもたらしている。
フィリップスは今夏インドネシアで、これまでで最も重要なプロジェクトに参画した。インドネシア初となる専門のがん研究センターを備えた同国最大の病院に総額1億4000万ドルの医療機器を納めるプロジェクトの大半を受注したのだ。ジャカルタ市街地にある36階建てのシロアム病院は、インドネシア最大の不動産デベロッパー、リッポー・グループが建設した。フィリップスはインドネシアで、オーストラリアの病院大手ラムゼイと、ジャカルタのブンダ病院とも契約を結んだ。
■海外に向かう顧客を呼び込む
リッポー・グループのモフタル・リアディ会長はフィナンシャル・タイムズの取材に対し、同社はフィリップスを優先サプライヤーに指定したと語っている。また、リッポーは全国の人口密集地に病院チェーンを建設するために15億ドル投資するという。既に7つの病院がオープンしており、さらに23件が計画中だ。目標は、今は海外に治療を求めるインドネシアの顧客を呼び込むことだという。
「現在は、国内の医師が足りず、病院が十分にないという単純な理由から、60万人のインドネシアの患者が治療のために海外に行き、何十億ドルものカネを払っている」とリアディ会長。「ここにギャップがあり、人口が増加するにつれ、ギャップは大きくなっている。こうした状況はインドネシアにヘルスケアのシステムが足りないことをはっきり示している」
By Anthony Deutsch
(翻訳協力 JBpress)
(c) The Financial Times Limited 2011. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
■ヘルスケア事業が売上比率トップに
フィリップスは家電からヘルスケアへ事業の軸足を移している(8月31日、欧州家電見本市「IFA」の開幕を控えた同社ブース)
「インドネシアには少し前から注目していたが、今は本当に急拡大している」。フィリップスヘルスケアのアジア太平洋地域代表、ウェイン・スピットル氏はこう話す。「我々は市場における存在感と事業拡大ペースを維持するために、人員増強に多額の投資をするつもりだ。インドや中国と比べると、インドネシアは小さな出発点からスタートしたが、(売上高の)伸び率では両国を上回っている」
新興アジア諸国のヘルスケア事業に焦点を合わせる取り組みは、同社の第2四半期の決算に反映されている。旧来の家電製品の売上高は若干減少して12億9000万ユーロ(18億3000万ドル)になる一方、ヘルスケア事業は8%の増収で20億8000万ユーロとなった。
今年1~6月期には、ヘルスケア事業がグループの売上高の40%を占めて照明事業(3分の1強)と家電事業(4分の1)を上回り、売上比率で初めてトップになった。
フィリップスの新たな焦点は、景気循環に左右されすぎる薄利多売の製品から離れ、利益率の高いヘルスケア市場へシフトする長期戦略の一環だ。
同社は米ゼネラル・エレクトリック(GE)や独シーメンスといったライバルに対して市場シェアを拡大するために、2000年以降、医療企業の買収に約120億ドルをつぎ込んできた。2008年にはレスピロニクスを49億ドルで買収している。このパターンは鈍ることなく、フィリップスが昨年買収した企業11社のうち、8社が医療分野だった。
■欧米から新興国へシフト
売上高を地域別に見ると、西欧と北米が減少しており、第2四半期には両地域合計の売上高が6.2%減って30億7000万ユーロとなった。だが、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)やインドネシアを含む成長市場では、売上高が9%伸び、17億ユーロとなった。
「インドネシアでの当社の成長は全くもって驚異的で、(16%という)市場全体の伸び率の何倍にも上っている。我々が投資を増やしたのは、この成長が続くと考えているためだ」とフィリップスは言う。「会社の投資の大部分をインドネシア市場に振り向けている」
フィリップスによると、同社はこれまでに数千万ドル投資しており、今年は投資額を増やすという。
グループの売上高が320億ドルに上り、12万人の従業員を抱えるフィリップスは、インドネシア、フィリピン、ベトナムでの医療用品・家庭用ヘルスケア製品のシェア拡大を視野に入れ、300人近い陣容の地域本社をシンガポールに立ち上げた。
スピットル氏によると、数十人のスタッフでスタートしたインドネシアでは、数百人の従業員を採用しており、今後数年間で従業員数を10倍に増やすという。同氏はこれ以上具体的な数字を挙げるのを拒んだ。
■インドネシアの民需にチャンス
インドネシア政府のヘルスケア関連支出は年間予算のわずか2.2%にとどまっている。この水準はタイやベトナムなどの近隣諸国を大きく下回り、世界保健機関(WHO)が推奨する最低15%の国家予算の配分に遠く及ばない。
助成金の不足は、心疾患やがんの罹患(りかん)率の上昇と相まって、民間部門にチャンスをもたらしている。
フィリップスは今夏インドネシアで、これまでで最も重要なプロジェクトに参画した。インドネシア初となる専門のがん研究センターを備えた同国最大の病院に総額1億4000万ドルの医療機器を納めるプロジェクトの大半を受注したのだ。ジャカルタ市街地にある36階建てのシロアム病院は、インドネシア最大の不動産デベロッパー、リッポー・グループが建設した。フィリップスはインドネシアで、オーストラリアの病院大手ラムゼイと、ジャカルタのブンダ病院とも契約を結んだ。
■海外に向かう顧客を呼び込む
リッポー・グループのモフタル・リアディ会長はフィナンシャル・タイムズの取材に対し、同社はフィリップスを優先サプライヤーに指定したと語っている。また、リッポーは全国の人口密集地に病院チェーンを建設するために15億ドル投資するという。既に7つの病院がオープンしており、さらに23件が計画中だ。目標は、今は海外に治療を求めるインドネシアの顧客を呼び込むことだという。
「現在は、国内の医師が足りず、病院が十分にないという単純な理由から、60万人のインドネシアの患者が治療のために海外に行き、何十億ドルものカネを払っている」とリアディ会長。「ここにギャップがあり、人口が増加するにつれ、ギャップは大きくなっている。こうした状況はインドネシアにヘルスケアのシステムが足りないことをはっきり示している」
By Anthony Deutsch
(翻訳協力 JBpress)
(c) The Financial Times Limited 2011. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.