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「10年待てないなら株を買ってはいけない」10兆円投資家バフェットがそう語ったワケ

2021年12月20日 07時07分39秒 | 株式

多くの株式投資家は「安いときに買い、高いとき売る」という行動を繰り返している。だが10兆円の資産を築いた投資家ウォーレン・バフェット氏は、株を売らず、長期保有することで知られている。彼が「10年待てないなら株を買ってはいけない」と主張する理由とは――。

※本稿は、桑原晃弥『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」 資産10兆円の投資家は世界をどう見ているのか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

株式の所有期間は「永遠でも良い」

株式の所有期間は「永遠でも良い」というのがバフェットの考え方です。

バフェットの師であるベンジャミン・グレアムは「投資家は、1年程度ならば何とも思わずに持ってしまう」といっているように、株式の長期所有を推奨していました。もう1人の師匠ともいえるフィリップ・フィッシャーも、株を売る理由は、1)購入時の判断ミス、2)成功企業が失敗を経て投資価値を失う、3)もっと有望な成長株に乗り換える、の三つしかなく、本物の成長企業には「売り時など存在しない」と言い切っていました。

そしてバフェットは、2人の師以上に長期保有を理想としています。そう考えるようになった原因となる体験が二つあります。

一つは11歳で初めて株式を購入した時の体験です。1942年、小さなビジネスを続けることで120ドルを貯め込んだバフェットは、姉のドリスを誘ってシティーズ・サービスの優先株式(Preferred stock)を3株ずつ購入します。株価は38ドル25セント、3株で114ドル75セントです。

当時のバフェットは株のことも会社のこともよく知りませんでしたが、父ハワードが推奨する株というのが購入の理由でした。株価が下がった時、ドリスから連日責め立てられたバフェットは、株価が40ドルに回復した際に売り、2人合わせて5ドルの利益を手にしますが、のちに同社株は202ドルまで高騰しました。

バフェットはこの経験から、1)買った時の株価ばかりに拘泥してはいけない、2)よく考えないで慌てて小さな利益を得ようとしてはいけない――という教訓を得ています。

証券会社と投資家の利益相反というジレンマ

もう一つの体験は、大学を卒業した後、父親の証券会社でブローカーとして働いていた時のものです。バフェット自身は当時夢中になっていた保険会社ガイコのような株を長く持ち続ける方がいいと理解していましたが、それでは顧客が売買を繰り返すことで得られる手数料が入ってきません。

証券会社と顧客の利益相反というジレンマに悩んだバフェットは、のちにバフェットと顧客が運命共同体となるパートナーシップを運営するようになりますが、この時の経験を経て、バフェットは「ずっと持っているのがいい」ことを確信するようになりました。

株式投資は短期ではなく長期でものを見るというのが、バフェットの変わらぬ考え方なのです。

日々の株価の動きを全く気にしない

株の売買を行う人にとって、日々の株価の動きほど気になるものはありません。1日どころか、1時間単位、1分、1秒単位で株価の動きを追い「いつ売るか」「いつ買うか」を瞬時に判断することこそ株式投資で成功する唯一の方法であると思い込んでいる人もいるのではないでしょうか。たしかにこうしたやり方で大金を手にする人がいるのも事実です。

あるいは、そこまでではなくても、自分の所有する株の株価がどうなったかは、売る・売らないは別にして大いに気になるところです。株価が上がれば嬉しいし、下がれば自分のお金が目減りしていくようでやきもきします。そしていつ売ればいくら儲かるか、損失はいくらになるかという計算に余念がありません。これが一般的な株式投資のイメージですが、バフェットのやり方はこうした日々の株価を気にするやり方とは対極にあります。

毎日、何千と目にする株価の動きに関心を払わないどころか、こんなこともいっています。「株価の変動に着目して値幅取りをするつもりはありません。仮に、株式を購入した翌日に市場が閉鎖され、その後五年間取引が行われないという事態になっても、私はいっこうにかまいません」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』)

株価の日々の上下を気にしないどころか、株の売買ができなくなってもかまわないというのがバフェットの考え方です。

短期ではなく「圧倒的長期」でものを見る

なぜ、そんなことができるのでしょうか?

理由は、1)短期ではなく長期でものを見ていることと、2)株券ではなく事業そのものに投資する、という方針を貫いているからです。

2011年夏、バフェットはアメリカの大手銀行バンク・オブ・アメリカの優先株に50億ドルを投資したものの、株価はその後も下がり続けました。そこで、「(株価が下がり続けている会社に投資したことを)後悔していませんか」と尋ねる『日経ヴェリタス』の記者にこう答えました。「長期の視点で投資しているのです。今日や明日、来月に株価が上がろうが下がろうが、私にはどうでもいいのです。バンク・オブ・アメリカが5年後、10年後にどうなるかが大切なのです」

バフェットによると、同社には解決すべき問題がいくつもあるものの、それは数カ月で解決できるようなものではなく、解決に5~10年はかかるといいます。そのためにCEOは素晴らしい仕事をしているし、問題があったとしても同社のアメリカ最大規模の預金量や事業基盤は魅力的でとても良好なのだから、目先のことに一喜一憂する必要はないというのが当時のバフェットの言い分でした。

バフェットの言葉通り、バークシャー・ハザウェイが公開している「上場株の保有上位15銘柄(2020年12月末時点)」の第2位には、今もバンク・オブ・アメリカが載っています。そして今、その保有額は実に313億ドルに達しています。

成長し続けられる企業にだけ投資する

バフェットにとって投資するに値する企業というのは、成長し続ける企業です。

そしてこの成長は「ほんの束の間の成長」ではなく、可能な限り長く続くものであることが肝心なのです。

企業は、たとえ売上が下がっていても、または伸び悩んでいる状況でも、一度限りの好決算を出すことができます。大胆なリストラを行うとか、持っている資産を売却するといった方法を使えば、株価を一時的に押し上げるくらいの利益を出すことはできます。

あるいは、ブームといっていいほどの「追い風」に乗って、売上や利益を大きく伸ばす企業もあります。たとえば、ゲーム業界のように大ヒット製品が出ることで、売上を大きく伸ばしたものの、ブームが去った途端に低迷したり、メーカーであれば大量の在庫を抱えて経営が危機に陥ったりするというのもよくあることです。

長い目で企業の実力を見る

企業が成長し続けるには、幸運だけでは無理で、優れた経営力や卓越した研究開発力といった多くの要素が欠かせません。それらがあって初めて企業は成長し続けることができるわけですが、こうした企業でさえ毎年、増収増益を続けることができるとは限りません。

時には次なる成長に向けて痛みを伴う改革を必要とすることもあれば、今回の新型コロナ禍のように企業の力だけでは対応しきれない逆境に襲われることもあります。

だからこそ、企業の成長は、1年単位で見るのではなく、より長い目で見ることが必要なのです。バフェットにとって投資すべき企業とは、パッと咲いて、パッと散る企業ではありません。長いスパンで見た時にしっかりと成長し続けるだけの力を持った企業であれば、その間に株価が上がろうが下がろうがそんなことはどうでもいいというのがバフェットの考え方なのです。

最初に惚れ込んだのは通販型の自動車保険会社

バークシャー・ハザウェイはいくつもの企業を傘下に抱えていますが、たくさんの企業群の中でバフェットが最初に投資したのが、米国第2位の自動車保険会社ガイコ(1936年創設、1996年に傘下に入る)です。

バフェットがガイコのことを初めて知ったのはコロンビア大学大学院時代のことです。きっかけは、グレアムの会社グレアム‐ニューマン・コーポレーションが同社株の大半を所有していたことでしたが、その半分以上を手放したことを知ったバフェットは「ガイコとはどういう会社だろう?」と興味を持ち、ニューヨークからワシントンD.C.まで始発列車に乗って同社を訪問しています。

そこで財務担当副社長のロリマー・デービッドソンを質問攻めにしたバフェットは、同社が当時としては革命的ともいえた「代理店を使わず、通信販売することで、自動車保険をより安く販売」していることを知り、そのビジネスが「ぜったいに成功間違いなし」と確信、周囲の反対を押し切って自分のポートフォリオの4分の3を売り払い、その代金でガイコを350株購入しています。

当時のバフェットのガイコへの入れ込みようは凄まじいもので、証券会社のブローカーとして顧客に株式を頻繁に売買させることで手数料を稼がなければならないにもかかわらず、ガイコの株を勧めて、「20年ずっと持っているのが一番いい」「失業保険の代わりにこの株を買っておくことをお勧めしますよ」というほど力を入れています。

永久に持つことさえいとわない

その後、バフェットとガイコの縁は一時的に切れますが、1975年に再びガイコに注目したバフェットは、経営危機に陥ったガイコの株を再度取得、その再建にも尽力することで、やがてバークシャー・ハザウェイの傘下に迎え入れました。初めて同社株に投資したのが1951年ですから、実に70年来の付き合いということになります。

自分がほれ込んだ企業であれば、これほど長く所有するのがバフェットのやり方です。

こうした長期保有はウォール街の住人にはなかなか受け入れがたいことですが、先述したようにバフェットはグレアムのいう1年程度どころか、永久に持つことさえいとわないという考え方をしていて、こんなことをいっています。「私たちは、企業を買うのが好きです。売るのは好きじゃありません。傘下に収めた企業との関係が一生続くことを希望しています」(『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』ジャネット・ロウ、ダイヤモンド社。絶版)

近年の「SPACブーム」には厳しい視線

傘下に入っている企業はもちろん、アップルのように傘下に入っていない企業も含め、バフェットが投資する企業は強い競争力を持つ優れた企業であり、その経営者も優れた人材であるというのが大前提です。

そんな優れた企業がそこそこの価格で買えるなど、そうあることではありません。だとすれば、そういう企業に出会えたなら、できるだけ長く、可能なら永久に保有し続けたいと、バフェットは考えているのです。

もし目先の利益だけを追う投機家なら、もちろんそんな必要はありません。株価が上がったり下がったりしたその瞬間を見逃すことなくぱっと買って、利益が出たらぱっと売ってしまえば、それで目的を果たしたことになります。

ましてや、最近アメリカで急増し注目されているSPAC(特別買収目的会社)の、所有や経営ではなく買収そのものを目的とし、2年で買収先が見つからなければさっさと解散するというやり方は、バフェットが最も忌み嫌うものです。報酬だけを目的とするSPACブームを「killer(破壊的影響をもたらすもの)」と表現しています。

“10年持つ気がなければ株など買うな”

もし本物の投資家でありたいのなら、次のような心構えが必要だといっています。「喜んで10年間株を持ち続ける気持ちがないのなら、たった10分でも株を持とうなどと考えるべきですらないのです」(『バフェットからの手紙』ローレンス・A・カニンガム著、増沢浩一、藤原康史、井田京子訳、パンローリング)

たとえ長く保有するつもりで投資をしたとしても、日々の株価の変動や、市場全体の動き、もっと実入りのよさそうな株の出現など投資家の気持ちを揺るがす出来事も少なくありません。株価が大きく下げれば、先々への不安から売りたくなるのも仕方のないことですし、自分が持っていない株の値段が上がれば、「こっちを売って、あっちに乗り換えた方がいいのでは」という「グッドアイデア」が閃ひらめきます。

投資の世界ではこうした株価の変動はもちろんのこと、新たな魅力的な株の出現もあります。つい売りたいとか、買い換えたいという誘惑に駆られることも少なくありませんが、そんな誘惑に駆られてあっちへふらふら、こっちへふらふらしていると、バフェットになることはできません。

本物の投資家になるためには、株を持ち続ける強さ、誘惑に打ち勝つ努力も必要であり、バフェットのような固い信念の持ち主こそが、真の成功者になることができるのです。投資に限らず、すぐに揺れ動くような信念は信念とは呼べないのです。

---------- 桑原 晃弥

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