質的研究法をめぐって
海保博之(東京成徳大学)
1) 質と量
カテゴリーデータの多変量解析として林の数量化理論が知られている。そこでは、たとえば、男女、地域など、カテゴリーデータを素データとして分析が行われるが、分析の結果として、各カテゴリーに適当な数値が割り当てられることになる。質が量に変換されてしまうのである。
このように、「質的」というときには、「量的」と相対するかのごとく考えがちだが、実はそれほどのものではないことをまず指摘しておきたい。
1) 「科学的」な質的研究の嚆矢
「科学的」心理学の歴史のなかでは、質的研究が一定の正当性をもって採用されたのは、認知科学研究の技法として、サイモンらが思考発話法(プロトコル分析)を使って見せたときからではないかと思う。
実時間の言語報告なので多彩なノイズを含んだデータとなる。それが、科学的なデータとなりうるためには、ノイズ除去のための強固な道具が必要になる。
その一つが、作業内容の論理的分
析である。もう一つが、人の問題解決のモデルである。サイモンらは、この2つの鏡を巧みにつかうこと
で、プロトコル分析の地位を「科学的」水準にまで押し上げた。
2) 昨今流行の質的分析研究について
日本質的分析心理学会が2004年に設立された。それまでのうっぷんを晴らすかのように続々と論文が機関紙に発表されている。そこからうかがえる特徴は4つあると思う。
① 日常性 取り上げる事例が特異
的な「臨床」事例だけではなく、ごく日常的な事例が分析の対象になっている。
② 分析の枠組の多彩さ 日常の多
彩さに切り込むための枠組の必然的に多彩にならざるをえない。
③ かかわり研究 研究者みずから
が研究現場に積極的にかかわりながら現場を変えていく。
④コンセプト・ワークの重視 データに含まれるノイズ除去、あるいは、ノイズの背景を見通すためにはコンセプトによるトップダウン的思考が求められる。
3) 質的研究の限界
① 領域固有な理論をいかに普遍化していくか
② データ収集の主観性をいかに克服していくか
③ 再現性の保証をどうするか
海保博之(東京成徳大学)
1) 質と量
カテゴリーデータの多変量解析として林の数量化理論が知られている。そこでは、たとえば、男女、地域など、カテゴリーデータを素データとして分析が行われるが、分析の結果として、各カテゴリーに適当な数値が割り当てられることになる。質が量に変換されてしまうのである。
このように、「質的」というときには、「量的」と相対するかのごとく考えがちだが、実はそれほどのものではないことをまず指摘しておきたい。
1) 「科学的」な質的研究の嚆矢
「科学的」心理学の歴史のなかでは、質的研究が一定の正当性をもって採用されたのは、認知科学研究の技法として、サイモンらが思考発話法(プロトコル分析)を使って見せたときからではないかと思う。
実時間の言語報告なので多彩なノイズを含んだデータとなる。それが、科学的なデータとなりうるためには、ノイズ除去のための強固な道具が必要になる。
その一つが、作業内容の論理的分
析である。もう一つが、人の問題解決のモデルである。サイモンらは、この2つの鏡を巧みにつかうこと
で、プロトコル分析の地位を「科学的」水準にまで押し上げた。
2) 昨今流行の質的分析研究について
日本質的分析心理学会が2004年に設立された。それまでのうっぷんを晴らすかのように続々と論文が機関紙に発表されている。そこからうかがえる特徴は4つあると思う。
① 日常性 取り上げる事例が特異
的な「臨床」事例だけではなく、ごく日常的な事例が分析の対象になっている。
② 分析の枠組の多彩さ 日常の多
彩さに切り込むための枠組の必然的に多彩にならざるをえない。
③ かかわり研究 研究者みずから
が研究現場に積極的にかかわりながら現場を変えていく。
④コンセプト・ワークの重視 データに含まれるノイズ除去、あるいは、ノイズの背景を見通すためにはコンセプトによるトップダウン的思考が求められる。
3) 質的研究の限界
① 領域固有な理論をいかに普遍化していくか
② データ収集の主観性をいかに克服していくか
③ 再現性の保証をどうするか