3 九の集中と一の弛緩を繰り返す
大発見をした科学者の自伝などを読むと、その発見は頭を休めるために散歩している時に思いついたとか、風呂に入ろうとしたとたん思い出したとか、寝ている時に夢の中で発見したといった類の話が書かれている。
ここだけ取り出すと、あたかもなんの努力もせずに大発見ができかのように錯覚してしまうが、それまでには、膨大な、それこそ寝食を忘れた努力があることも忘れてはいけない。
ところで、創造性の心理学では、創造の過程を次の四段階に分けている。
1) 準備期
何をしたいのか、問題はどこにあるのか、関連することは何か、、資料はどこにあるか、どのように仕事を進めるか、などを考える時期である。また、手、足、頭をフルに動員して徹底して仕事をする時期でもある。
2) あたため期
問題を常に心の中でこねまわしている時期である。寝ても覚めても問題を考えている。ちょうど鳥が卵をあたためているかのように。この時期に猛烈に集中力を発揮する。
3) 啓示期
あたかも、神様のおつげ(啓示)でもあったかのように、突然に問題の解決を思いつく時期である。その多くは仕事や勉強から解放されてのんびりしている時に起こる。
4) 検証期
啓示されたアイデアを、論理的に正しいか、実験で検証できるかを確かめる時期である。啓示された解決は、冷静になってチェックしてみるとくだらないものであることが多い。あるいは、すでに知られていることもある。ここで、アイデアはふるいにかけられ、ダメな場合はまた一からやり直す。
大なり小なり我々でも、問題を解いたり解決したりする時には、この過程を経験しているが、この四つの時期のうちで、(3)の啓示期だけは思いきったリラックスが必要とされる。
なぜリラックスすると、すばらしい解決法やアイデアが浮かんでくるのであろうか。精神分析家のフロイトなら、こう説明するであろう。
頭のなかに展開されたものを外に出す時には内部で一種の検閲機構が働く。つまり、それを表に出しても大丈夫か、間違いはないか、といったことを無意識のうちにチェックする機構である。
集中すると頭の働き全体が活発になるが、この検閲の機構も同時に活発になってしまう。ちょっとやそっとでは、せっかくまとまった考えも外に出させてもらえない。せっかくの思いつきも、結局、頭のなかに埋もれてしまう。
しかし、リラックスすると、埋もれていたものが、検閲のすきをつくかのようにして外に出てくるのである。