ジェスチャー力アップ
●ジェスチャーってどんなもの
ジェスチャー力アップといってもパントマイムができるようにということではありません。確かに、パントマイムや俳優の演技のように、ジェスチャーもそれなりに訓練すれば、上手になりますが、実は、わたくしたちが普段使っているジェスチャーはほとんど無意識的ですので、かなり意識的な努力をしないとパワーアップしません。
ためしに、自分が話しているところをビデオにとってもらって観察してみてください。ほとんどそんなジェスチャーをすることを意識していないはずですが、実に多彩なジェスチャーをしている自分を発見して驚くはずです。この無意識性がジェスチャーの1つの特徴になります。
2つ目の特徴として、意識的にやっているわけではないのにもかかわらず、ジェスチャーの果たす役割が実に多彩であることです。その機能を分類すると、次の3つになります。
1)話の内容を補う
(例)「これくらいの大きさ」と手で示す。両手を交差させてだめを表現する。
2)話のテンポの調整やメリハリづけをする
(例)手や体の動きで話の進行を調整したり、ここは大事ということを示す。
3)感情を伝える
(例)悲しい表情や明るい姿勢を見せる。
●ジェスチャー力アップの勘所
ジェスチャーが無意識的なものだとしても、それをより好ましいものに変える方策がないというわけではありません。
その1つが知識です。どういうジェスチャーが好ましいのかについての知識を豊富にすること、そして、それを折りに触れて実践してみることです。
たとえば姿勢。言うまでもなく、猫背よりは背筋を伸ばしたほうが好ましいですね。
あるいは、表情も、目ぱっちり、口元ゆったりで表情豊かに話すほうが好ましいですね。視線も一点凝視よりも「目通り、乳通り、肩通り」の言い伝えに従う広角配置のほうが好ましいですね。
こうしたことを知識として蓄積しながら、それを折に触れて鏡を見たりして実践してみることです。実践が積み重なることによって、自然にかつ無意識のうちに子どもに好かれるジェスチャーができるようになるはずです。
●心身一如
おもしろい研究があります。
子どもに決定的な一言、たとえば、「してはいけない」とか「取り上げる」といった一言を発する際に、父親は表情も厳しいものになるのですが、母親は、時には微笑を浮かべながらそれを言う傾向があるらしいのです。
母親のこの傾向は、子どもにとっては母親の真の意図が読みとれずに混乱してしまうことになりがちです。ダブル・バインド(2重拘束)と呼ばれていて、親子関係の不安定さををみる鍵となる概念にもなっています。ダブル・バインド状態に子どもを追いやるのは危険です。どっちが本音かわからないことによる不安が高まってしまうからです。
怒るときもうれしいときも全身全霊でやることです。これが自然なジェスチャーの表出につながります。
●模倣することも有効
尊敬する人のジェスチャーが自然に真似されることはよく知られています。尊敬する人のように振舞ってその人のようになろうとするメカニズムが働くようです。同一視と呼ばれています。
テレビドラマの好きな人は、ひいきのタレントが演ずるジェスチャーが気になりますね。それが自然に真似されるのです。大好きな先生や親の振る舞いも同じように子どもに真似されます。
人から真似をしてみたいと思われるようなジェスチャーを身に付けたいものです。
●文化によってジェスチャーは違う
グローバル化がすすみ、学校にも異文化育ちの子どもが入学してきたり、あるいは、公園でそうした子どもどうしが遊んでいる光景もそれほどめずらしくなくなりました。
30年前頃アメリカに10か月ほど滞在したことがあります。今でもはっきり覚えているのですから、よほど奇異な光景だったのだと思います。それは、プールの監視員が手のひらを上に向けて、日本の警官がやるように、私に対してこちらに来い来いとやっているのです。日本だと、普通に呼ぶ時は手のひらを下にしてやりますね。何か悪いことをしてしまったかのように驚いたことを今でも鮮明に思い出します。
ジェスチャーにも万国共通のものと、その文化に固有のものとがあります。このことを知らないと、うっかり相手を怒らせてしまったり、誤解を与えたりしてしまう恐れがありますので要注意です。
●パーソナル・スペースにも注意
最後にジェスチャーとは直接は関係しませんが、人と人との距離についてよく知られていることを一つ。
空いている電車であなたの隣に突然見知らぬ人が座ってきたらどうでしょうか。あるいは、こんな実験があります。図書館で勉強している女子大生の隣に座ると、相手は、腕で頭を抱えたり相手に背を向けたりして、結局は、別の場所に移動してしまうのです。
このように、人にも縄張りがあるようです。その縄張りに他人が入ってくると不愉快になったり移動したくなったりします。この縄張りをパーソナル・スペース(個人空間)と呼びます。
見知らぬ大人どうしては、だいたい45センチくらいです。大人と子どもの場合、どれくらいになるのかのデータの存在は寡聞にして知りませんが、お互いを知っている場合には、もっと小さくなるはずです。
お互いが親密になることがねらいなら、45センチ以内、説明や説得を開始する初期段階なら、45センチより少し距離をとって、というところでしょうか。
いずれにしても、子どもとの物理的な距離のとり方もコミュニケーションを円滑に行うには大事な要素の一つであることは知っておいて損はありません。
表として、個人的スペース以外についても、まとめておきましたので、参考にしてください(渋谷昌三「心理学の本」西東社を参考)
相手との関係 | 対人距離 | 行動の特徴(プロクセミックス) |
密接距離 | 45cm以内 | 家族・恋人などとの身体的接触が容易にできる距離 |
個人距離 | 45~120cm | 友人などと個人的な会話を交わすときの距離 |
社会距離 | 120~360cm | 職場の同僚と一緒に仕事をするときの距離など |
公衆距離 | 360cm以上 | 講演での聴衆と講演者との距離など |