わたし、この作家のことをまったく知りませんでした。女性で初めてアメリカ探偵作家クラブ(MWA)の会長を務めていたにもかかわらず。
解説の杉江松恋が語るように、評論家的気質から脱却できなかったために過小評価されていたあたりにその理由はあるのだろう。でもこの作品はその気質のために豊かな味わいが楽しめるつくりになっている。復刊要望のベストワンだったのもうなずける。
たとえば、登場人物のひとりはこう発言する。
「ミステリ小説は本のうちに入らんよ。あんなものは誰にでも書ける。大工や配管工と似たり寄ったりの仕事だ。わたしは前々からミステリ作家に印税を支払う必要はないと言ってきた。大工や配管工だって印税はもらわんだろう。」
ヘレンがクスクス笑いながら書いていることに疑いはないが、この尋常ではない“醒め具合”が当時の探偵小説愛好家のすべてに歓迎されたわけでもないだろう。実作者たちは大笑いしたことだろうが。