それにしてもレオナルド・ディカプリオとは勤勉な俳優だ。常に問題作、常に話題作を選択して精力的に出演し、結果に当たり外れはあるものの、それなりにスターとしての地位を確固たるものにしている。
毎晩のように映画を観まくっているトム・クルーズや、来日の疲れを毛ほども見せずにディオールのドレスをまとって優美にふるまうアンジェリーナ・ジョリーにしても、現代においてスターでいることは、ほんとうに消耗する作業だと思う。
その、疲れを知らないディカプリオが「シャッターアイランド」につづいて選んだのは「ダークナイト」のクリストファー・ノーラン完全オリジナル作。「インセプション」とは、他人の夢のなかにアイデアを“植え付ける”という意味。
いきなりネタバレになるようだが、この映画におけるディカプリオは、他人の夢に同期してアイデアを盗み取る産業スパイ。渡辺謙が演じるサイトーの依頼をうけて、ライバル社をたたきつぶすためにインセプションを行う、というストーリーになっている。
この“夢”が、実は四層にもなっていて、かなり複雑。下の層にいくにつれて実際の時間との乖離が大きくなる……なんて仕掛けはノーランの出世作「メメント」(ハリウッド版「博士の愛した数式」ですよ。味わいはダークだけど)を思わせる。
読者で見た人は例外なくわけわかんねー、と音を上げてますが、わたしもなぜ最下層の夢にサイトーが“落ちてくる”のかわかりませんでした。
しかし、こしゃくなぐらいにうまい映画であることも確か。
インセプションを完遂するために泣かせるシーンを挿入するなど、夢の世界を設計する仕事が映画作りとよく似ていることを感じさせるし、無限の刻のなかで、あるカップルがやっていたことはひたすら記憶を再現することだったあたりの哀しさもいい。
当然、夢の世界におけるアダムとイブには悲劇が待っているんだけど、それと反比例するような現実世界でのハッピーエンドとのバランスもおみごと。
全世界で日本でだけヒットしなかった「ダークナイト」の反省からか、重要な役で渡辺謙を起用し、オープニングは日本が舞台。ほいでラストがまたオシャレなんだ。ほんと、イヤミなほどにうまい映画なのでした。やるのぉ。