第13章「風とライオン」はこちら。
かなり周到な脚本。というより、現実のヒトラー暗殺計画自体がなかなか考えてある。
反乱を鎮圧するときに自動的に発動される計画名が「ワルキューレ」。だから反乱が起きたように偽装して予備役を動員し、ヒトラーたちを孤立させる計画。しかも暗殺を行う実行者に、戦闘によって片眼と指を二本失ったシュタウヘンベルク大佐(トム・クルーズ)を選ぶことでヒトラーに近づく可能性を高めている。
しかし戦況の悪化とともにヒトラーの暗殺は何度も企てられたようで、だからこそシュタウヘンベルクの計画は困難をきわめた。
もちろん、わたしたちはヒトラーは暗殺されず、敗戦前に自害した歴史を知っているから、計画の失敗が前提なので映画化はしんどい。そんなもん歴史がどうあれ殺しちゃえばいいじゃんか、と突っ走るのは「イングロリアス・バスターズ」のタランティーノぐらいのもので、監督ブライアン・シンガーと脚本クリストファー・マッカリーの「ユージュアル・サスペクツ」コンビは正攻法でサスペンスを積みあげる。
でもね、どこか作品の芯のところがずれている気がした。ユダヤ人であるシンガーとしては、この映画に気合いを入れまくったことだろう。が、そこはハリウッド映画の限界で、アイパッチをしても容姿端麗なトム・クルーズや、いかにもイギリス人なケネス・ブラナー、ビル・ナイ、テレンス・スタンプがドイツ軍人の苦悩を描くのは無理があった気がする。連合軍をまったく登場させないなど、工夫はしているんだけどなあ。
数々のトラブルのために“呪われた作品”のような印象があった「ワルキューレ」にとって、最大の難関が“敬虔なカトリック教徒として有名だったシュタウヘンベルク”を、サイエントロジーというカルトの信徒であるトムが演じることへのバッシングだったあたり、やっぱり呪われているのかも。
第15章「アラビアのロレンス」につづく。