第15章はこちら。
さて、独立の機会をうかがっていたオスマン帝国内のアラブ民族にとって、第一次世界大戦はチャンスでもあり、ピンチでもあった。なにしろ、オスマン帝国はドイツを中心とした同盟国側についたのである。つまり、負け戦。
ただし、負けることが最初からわかっていたわけではないので、アラブ民族は考えこむ。恨み骨髄なトルコに反旗をひるがえして連合国側につくか、しかし帝国内で分捕り合戦をやっているイギリス(すでにスエズ運河を乗っ取ってエジプトの財政を破綻させていた)やフランスと手を組めば、もっとひどい状況に陥るのではないか……。
そんなときにあらわれたのがトーマス・エドワード・ロレンスだったわけ。彼にイギリスが求めたのは、アラブの実情を視察することだったが、ロレンスの熱情はそれ以上の行動を生む。トルコ軍の要地であるアカバを、灼熱の砂漠をラクダに乗って横断し、背後から突くという誰も想像もしなかった作戦を成功させるのだ。このあたり、義経のひよどり越えを連想させますな。アラブにとって軍神となったロレンスは、ゲリラ戦法で次々にトルコ軍を撃破していく。
しかし水面下でイギリスとフランスはアラブとトルコの領土を折半する密約を結んでいたのであり、“イギリス人”ロレンスは深い絶望をおぼえる。また、トルコ軍に拘束され、“凌辱”されたことで、自分の弱さとも向き合うことになる……
つまりアラブの独立に貢献しながらも、結果として帝国主義的政策の片棒をかついだロレンスだから、毀誉褒貶が激しいのも無理からぬところ。その微妙なあたりを「アラビアのロレンス」は、彼の死を冒頭に持ってくることによって、ロレンスの人生に一定の枠組みを与えているのだ。おみごと。
第17章「十戒」につづく。