仕事は忙しいし体調最悪。でも、ここで観とかないとまちキネは限定上映だからスルーしてしまいそう。第一、ものは「オトナ帝国の逆襲」「戦国大合戦」「河童のクゥと夏休み」の原恵一のバリバリの新作なんだから無理しなきゃ。
まちキネでほぼ同時期に公開された「天国から来たチャンピオン」にストーリーは似ていて、死者が天使(悪魔ともいえる)からもういちど生きなおすチャンスを与えられるお話。もっとも、向こうはクラリネットの音とともに心温まるエンディングを迎える美しいストーリーだけれど、こちらの主人公が憑依する少年は
“母親が不倫”
“ちょっと好きだった後輩はウリをやっている”
“クラスメイトたちからは完全に無視されている”
というしんどい状況。公立の中学校に勤務する立場とすれば前半はかなりきつい。
しかしほんの小さなことから少年は救われていく。早乙女くんという鉄道好きの友人との交流だ。後輩が援交に走り、そのホテルから自分の母親が出てくるというとんでもない舞台となった二子玉川で、むかし走っていた路面電車跡を早乙女くんとふたりで歩くシーンは出色。落語の道中付けだな。
過去の東京を描くために、押井守は「機動警察パトレイバー」でクーデターまで持ち出した。おそらくアニメとしてはそっちの方が正解なんだと思う。なぜ、原はこんな暗い話をアニメで描かなければならなかったのか。
「大地讃頌」やアンジェラ・アキの「手紙」がバックに流れるように、原の描く中学校はかなりリアルだし、掃除機が部屋のすみに立てかけてある家庭もまた、家族の気持ちに似て暗い。およそアニメ向きではないはずなのに、それでも原は
「いまいじめられている中学生」
に、そしていま
「いじめに荷担している中学生」
に向けて、
青くせーと言われようとも語らずにいられなかったのだと思う。これは原(と原作の森絵都)の非常事態宣言だ。
色は壊れた光だと小林秀雄は喝破したけれど、その壊れ方は多様であっていいはず。世の中が、色々な壊れ方を許容して、カラフルであることをめざすべきだとの主張に完全に首肯する。途中から涙が止まらなくなったわたしは、終映後、たった二人しかいなかった観客のもうひとりとトイレでもいっしょになってしまったので
「すばらしかったね」
と思わずつぶやいたら
「面白かったですねー」
気弱そうな青年は返してくれた。ホモのナンパだとまちがわれると失礼だとそそくさと帰りましたけどね。
トーストの黄色、ハンバーグの赤、母親が握るシーツの白……タイトルに負けずに色彩設定のみごとな作品でもある。ぜひ観て!絶対観て!