監督が「ニュー・シネマ・パラダイス」のジュゼッペ・トルナトーレ。音楽は巨匠エンニオ・モリコーネ。主演が「英国王のスピーチ」「クイルズ」のジェフリー・ラッシュ。
あまりに上出来の予感がありすぎて敬遠してしまいそう。しかしこの映画はいい意味で下世話なミステリでもあって、むしろ満足しましたよ。
鑑定士として一流のオールドマン(この名前は重要)は、美術品の真贋を一瞬にして見抜く鑑定眼をもっている。だが女性恐怖症で、目を合わせることもできない。
威風堂々たるラッシュは(なにしろ「シャイン!」の人でもあるので)そのあたりを絶妙に演じる。鑑定士はしかしなかなか悪辣な人物であり、オークションに長年の友であるビリー(ドナルド・サザーランド)を参加させ、一種の不正も行っていた。
ある日オールドマンは、明らかに嘘とわかる言い訳をして顔を見せない女性から、自宅の家具や美術品を鑑定してほしいと依頼される。無礼な申し出をオールドマンは拒否するが、彼女の家には得体の知れない“部品”が存在していた……
うーん、紹介がむずかしい。現実の女性とうまくコミュニケーションできない鑑定士は、自らの名声を利用して数多くの高価な女性肖像画を自宅にコレクションしている。秘密の部屋に集められた絵画の数々は、もちろんオールドマンの心象風景だ。だからこそラストで……ああほんとに紹介がむずかしい。
“顔がない”とする邦題はなかなかうまいけれど、依頼人は意外に早く姿を見せます。演じているシルヴィア・ホークスは、わたしの大好きなジュヌヴィエーヴ・ビュジョルドにそっくりなのでワクワク。彼女は壁の奥から出られない広場恐怖症だという。ある事件で彼女を外に連れ出すことに成功したオールドマンは彼女と恋に落ちる。そして……
かなり考えてあるストーリーと描写。裸足で部屋から出た依頼人が足を負傷し、みずからの足の親指をくわえるあたり、のちに行われる行為とシンクロさせているのだろう。PG-12なのもうなずけます。
ネタバレ承知で言えば(すいません!)、部品はからくり人形のものであり、その仕掛けはこの物語の根幹そのものだ。主犯は誰かということを考えれば、意外にストレートな復讐譚でもある。
最高の出品物(原題)が真の芸術品だったか、あるいは贋作だったか。実生活ではおよそ無器用な人物(それはレストランにおいて常に孤独であることに象徴されている)だったからこそ成立した事件。鑑定士は、ある人物に完全に値踏みされていたのである。