離婚する両親の間でゆれうごく少女の心の動きを……な企画だったはずなのだ。妻の気持ちをどうしてもわかってやれない、ひとりになりたい(つまりは結婚に向かない)男と、仕事に生きがいを見つけ、夫の無神経さに耐える必要がなくなった女。中井貴一と桜田淳子は確かにすばらしい演技をしている。
※桜田淳子はこの作品で多くの助演女優賞を受けているが、例の統一教会がらみで現在のところ最後の出演映画になってしまった
監督の相米慎二だってそのつもりで「しゃべれども しゃべれども」や「サマーウォーズ」の奥寺佐渡子に脚本家デビューさせたのだろうし、原作も脚本もその方向だったはず。
ところが、オーディションで選んだ子役がとんでもない天才だったのである。とてつもなかったのだ。
「お父ちゃんとお母ちゃんがけんかしてるとき、あたしは我慢したよ。なんでお父さんは我慢できひんの?」
「なんで(あたしを)生んだん?!」
ネイティブとはいえ、みごとな京都弁で大人を翻弄する彼女に相米は夢中になったのだと思う。DVDの特典映像で、相米の「台風クラブ」「魚影の群れ」などに助監督としてついた榎戸耕史は「あの、花火のシーンからあとは予定になかったんでしょ?」と今は有名女優になった彼女に質問。
「ないんです。どうしてこういう所に行くんですかって質問しても答えてくれないし(笑)」
相米は琵琶湖のまわりを彼女に放浪させ、心の安寧をとりもどさせる。あ、そうか。これは一夜の地獄めぐり、「ライ麦畑でつかまえて」をやらせたかったのかと気づいた。
わたしはこの子役に完全にノックアウトをくらった。もちろん世の中もそう。新人賞総なめ。「お引越し」もキネマ旬報ベストテン第2位に輝いた。その多くの部分はこの天才を見つけ出した相米の慧眼(この子じゃなかったら撮らないと主張したらしい)と、その子役、田畑智子のすばらしさによるものだ。傑作。