例によってほとんど事前情報を入れずに見る。例によってゲイリー・オールドマンが達者な演技を見せているらしいことをのぞいて。
でも開巻から圧倒的な映画であることがすぐに感じ取れる。なにしろ画面の質感がすばらしいし、ドラマのテンポが快感。そしてなにしろ映画好きにとってはたまらないネタ満載なのだ。
主人公はハーマン・マンキウィッツ。映画史的には「市民ケーン」の脚本家として知られる……って知りませんでした。マンキウィッツという名字だと、弟のジョゼフ・マンキウィッツ(彼ももちろん登場する)の方がなじみ深いかも。「イブの総て」や「探偵<スルーズ>」の監督だし。
ハーマンがからんだ映画では、わたし「市民ケーン」とマルクス兄弟のコメディしか見たことはありません。で、この映画は若き天才オーソン・ウェルズに依頼されて、彼のデビュー作である市民ケーンの脚本をハーマンが書き、そのためにどのような混乱がハリウッドにもたらされたかがストーリーの主軸になっている。
「薔薇のつぼみ」Rosebud
は、市民ケーンにおいて、モデルとなった当時の新聞王ハースト(この映画ではチャールズ・ダンスが渋く演じています)の臨終の言葉として有名。彼のマザーコンプレックスを象徴しているんだけど、この映画では愛人マリオン・デイビス(アマンダ・セイフライド)の“あの部分”をシンボライズしているらしいという下世話なネタまで紹介してあって笑える。
性格最悪のルイス・B・メイヤー(MGMの最後のMは彼の名前からとられています)、有能だけれども早世したアーヴィング・タルバーグなど、40年代のハリウッドセレブがたくさん登場し、マンクとからむ。
実は食えない野郎だったらしいマンキウィッツの特徴は、大量の気の利いたセリフをぶちこんだことにあるようで、この映画もそれだけに名セリフの応酬が気持ちいい。「お楽しみはこれからだ」で映画の名セリフを紹介した和田誠さんが生きていたら狂喜したことだろう。
監督はデヴィッド・フィンチャー。お父さんが書いた脚本を映画化したとか。画調は完全に市民ケーンの再現だし、デジタル上映なのにフィルムをチェンジする合図のパンチと呼ばれるマークまでごていねいに仕込んであります(笑)。
イオンシネマ三川にはわたしたち夫婦以外の客はおっさんひとりだけ。みんな見て!見逃すなんてもったいない。