第8回「三河一揆でどうする!」はこちら。
はて、この大河の主役はいったい誰なんだろうと思うくらい、本多正信(松山ケンイチ)の回だった。
それは仕方ない。家康(松本潤)を殺そうとした人物が、のちに家康の腹心の部下、というかダークサイド・オブ・家康になる伏線の回だから。
イッセー尾形がいい。この家を守ろうとすれば二つに一つしかない。臣を信ずるか、謀反を疑うものをなで斬りにするか。もちろん家康になで斬りの選択肢があろうはずもなく、彼もそのことは承知している。
ソクーロフの「太陽」において、小心な昭和天皇を演じた膂力は健在。皇后を演じた桃井かおりも出てくれないかしら。
「病で死ぬより、よほど楽そうだで」
と自分の首をはねよと家康に迫るあたり、後半の本多正信と重なる。うまい。みんな家康に殺されたい形になる。
「この、やけに雰囲気がある女優は誰?」
「なに言ってるの。水谷豊の娘でしょ」と妻。
いやどうもそれは趣里のことで、実際は古川琴音という別の女優さんなのでした。いやそれにしても似てるにもほどが……。彼女の家康評がこの大河のアンダーカレントだと思う。
「才は信長に遠く及ばず、しかし自分に才がないことをよく知っている」
彼女を放った武田信玄(阿部寛)でなくてもこの人物を興味深く思うはずだ。
逆に本多正信のセリフは重い。
「妻と子を助けるために戦を起こすような」
ああ、家康の甘さがここで糾弾される。ダークサイドの再登場がここで予言されるわけだ。
第10回「側室をどうする!」につづく。