ミステリ作家にとって、ジャック・ザ・リッパー(切り裂きジャック)のお話は、とてつもなく魅力的なのだと思う。
連続する街娼殺し。抜き取られている内臓。なぜ殺す相手が娼婦なのか、腎臓や子宮を持ち去ったのはなぜなのか……これぞ猟奇。しかも事件は迷宮入りし、さまざまな伝説だけが残っている。それはもう、作家のモチベーションは高まるはずだ。なにより、19世紀末の霧深いロンドンという設定がいかにもそそる。
わたしが読んだなかで「なるほどー」と唸ったのは某作家の作品で「娼婦の内臓のなかに切り裂き男の遺失物がある」があり、その遺失物を捜すために連続して娼婦を殺すというもの。このとんでもない動機はさすが島田荘司だなあ。あ、言っちゃった(「切り裂きジャック 百年の孤独」)。
この中山七里バージョンもなかなかに考えてある。現代の臓器移植事情が、賛成派と反対派の対立のなかで語られ、移植コーディネイターの苦悩が描写される。脳死とはなにか、自分の子が脳死状態となったときに、親として臓器提供に同意できるか?
なんか、いやな話になっちゃいそうだなあ、と思った途端にうっちゃり。確かにラストで「切り裂きジャックの告白」になりおおせている。やるなあ。ネタバレになりそうだけど、この作品も遺失物がからんでいます。
中山七里の作品を読むのは初めて。どんでん返しの帝王という称号はなるほど伊達じゃない。これからいっぱい読んでいこう。楽しみだわー。
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