前回は深海性のエソ科魚類「ハナトゴエソ」をこのぶろぐでご紹介したところ反響がものすごかたので(え~?そう??、なんていう発言は禁止)、今回も深海性のエソ科魚類をご紹介したいと思う。今回の深海性のエソ科魚類は、マエソ属のクロエソ。
前回のハナトゴエソはアカエソ属なのに対し、今回のクロエソはマエソ属になる。日本のエソ科魚類は4属からなり、ほかにミズテング属とオキエソ属がいる。前者はマエソ属に似た雰囲気のものであるが、深海性のまれな種と東シナ海の中国よりの地域に多く生息しているもので、日本で見られる機会は多くない。後者は投げ釣りでよく釣れる種で、アカエソ属に近いものとされている。
クロエソの特徴は書籍「東シナ海・黄海の魚類誌」で以下の点が挙げられている。1. 胸鰭後端が腹鰭基部に達する 2. 体の背部は暗褐色で側線部に暗色斑が並ぶ 3. 尾鰭背縁に4~7個の黒色点列がある、4. 背鰭前縁にも黒色点列が見られる 5. 腹部が黒い。
さて、クロエソの最大の特徴は尾鰭に明瞭な黒色点列が並んでいることである。この黒色斑が本種に非常によく似ている種であるマエソにもあることが多いのだが(成魚では見られないことも多い)、マエソのものとは異なりよりはっきりと大きく出ている感じである。もちろんクロエソもエソ科の魚であるため脂鰭を有しているが、この個体では脂鰭が折れ曲がっているようになっている。本当は脂鰭をしっかり立てて撮影したかったのだが残念である。
背鰭前縁にも黒い点が並んでいるが、これもクロエソの特徴とされている。ただし写真からはわかりにくい。
腹部が黒っぽいことも特徴に当てはまる。「東シナ海・黄海の魚類誌」に掲載されている本種の腹部も確かに黒っぽい。ただしもうひとつの特徴である「側線の下方に暗色斑がある」というのは確認することができなかった。もっともこれはこの個体がいったん冷凍した個体であり特徴がでていないということも考えられる。よく見たら薄い斑紋があるようにも見えるがどうだろうか??
マエソ属の魚は日本からは8種が知られている。マダラエソなどの種はサンゴ礁域の浅瀬に生息しているが、残りの種は内湾ややや深い海底の砂泥底に生息していることが多い。このクロエソはやや深い海から底曳網で漁獲されているが、マエソとはとくに区別されておらず、マエソと同様に練り製品の原料となる。
この個体は昔載せて頂いた沖合底曳網漁船「海幸丸」で漁獲されたものであった。その時はマエソと暫定的に同定していたのであるが、それから8年ほどたって写真の個体をよく見てみると背鰭の色彩や尾鰭の色彩、腹部の色彩がマエソと明らかに違った。
以前は本種とマエソは他種と混同されてきたものであるが2006年にはこの仲間が整理され、クロエソはSaurida umeyoshiiとして新種記載され、マエソの学名はSaurida undosquamis ではなく、Saurida macrolepisとされた。本種に限らず10年以上前の本を参照すると学名が名無しさんであったり、違う学名だったりするので注意が必要である。クロエソの分布域は三重県~九州までの太平洋沿岸、日本海西部、東シナ海沿岸で、国外では台湾でも見られるという。生息水深も150mほどと、マエソよりはやや深い場所に生息しているようである。エソ類の同定についてはまた今度、ワニエソとマエソのいい写真が撮影できたら紹介したいと思う。
有限会社昭和水産 海幸丸のみなさまと、同定していただいた神奈川県立生命の星 地球博物館の瀬能 宏博士にはお世話になりました。ありがとうございました。