昨日「バケムツ」をこのぶろぐでご紹介したので、今回は「本家」のほうも紹介しておかなければいけない、ということで。スズキ目・スズキ亜目・ムツ科・ムツ属のムツ。
私は深海魚を見たり触ったりする機会が多いのだが、ムツについてはほとんど見たことがない。釣りでは浅い岩礁域を探って小物を釣るような釣りが好きなので、ムツに触れ合う機会はなかなかない。あっても、上のような幼魚ばかりである。
ムツは幼魚のときは沿岸のごく浅い岩礁域や藻場に生息していて、その時はごく浅い場所でも本種と出会うことができる。そして大きくなるにつれて深場へと移動し、大きなものは水深700m以浅の深海に見られるようになる。4月に高知県の浅瀬で全長5cmくらいの幼魚が群れていた。6月にもモジャコ狙いの漁によりイシダイやイシガキダイ、そして「モジャコ」とともにこれより小さな幼魚が採集された。この個体は2009年7月に採集されたもの。場所は高知県の宿毛湾。4月ごろ高知県の浅瀬に出現した幼魚が大きくなったものなのだろうか。
ムツ科は世界で3種が知られている。うち1種は西大西洋にすみ、日本には2種が分布する。もう1種のクロムツは本種に似ているが、体はもっと黒く、側線上方横列鱗数および側線下方横列鱗数がムツよりもやや多いこと、側線有孔鱗数も同様にムツよりも多いことなどにより区別される。
ムツは日本では広い範囲に分布している。具体的には北海道~琉球列島近海に分布している。海外では朝鮮半島や台湾に生息しているが、モザンビークや南アフリカにもいる。しかしその間、たとえばオーストラリアやインド、スリランカなどにはいないのだろうか。奇妙な分布である。一方クロムツはおそらく日本の固有種で、福島県から伊豆までの深海に生息している。
この仲間、ムツとクロムツについては「呼称」の問題がある。ムツはよくクロムツという名前で市場やスーパーなどで販売されている。アカムツや、オオメハタ属(俗にシロムツと呼ばれる)と区別するねらいがあるのだろうが、クロムツという名前の魚がいる以上、ムツをクロムツと呼んで販売するのは好ましくない。ムツはムツ、クロムツはクロムツと呼んであげたい。
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