日本で保守派が勢いづいているのは、竹山道雄の言葉を借りるならば「抗しがたい時代思潮の力」(『昭和の精神史』)ということになるだろう。戦後の平和ボケした言論空間が音を立てて崩れている。そのただなかにある私たちは、目の前のことに心を奪われているが、それが何であるかを語れるのは、20年から30年先になるのではないだろうか▼紆余曲折はあっても、確実に日本は国家としての体裁を取り戻しつつある。それを象徴するのが百田尚樹現象である。『日本国紀』の出来栄え云々よりも、そうした本がベストセラーになるには、それなりの背景があるからだ。竹山は「歴史は意外な働きをする。行きすぎ、過誤、外国の反撃とそれへの対抗、勢い、偶然‥‥などがからみあって、しまいにはヒョウタンから駒が出たような結果になってしまう」(『同』)とも書いていた▼日本人の心が揺れ動いており、中共や韓国の嫌がらせに敏感に反応するようになっている。それが過剰であるかどうかは別にして、日本人同士が結束し、それに対抗するエネルギーが爆発しつつあるのだ。それを理屈で説明することはできない。百田氏の『日本国紀』がパクリであるかどうかについては議論が分かれるが、そこでの主張は単純明快である。憲法を改正して、軍事力を強化することである。あえてそのタブーに斬り込んだから、拍手喝さいする国民がいるのであり、「抗しがたい時代の思潮の力」が顕在化してきているのである。
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