連載小説「Q」第二部15
これは夢なのだ。
順平は京都にいる。
生まれたところだ。
橙色(だいだいいろ)の光に満ちている。
色のついた夢は珍しい。
市電がやって来る。
――ぼん、今度は市電に乗せたげる。また一緒に遊ぼな。ほな帰ろか。
子供と手をつないでいる。
男の子だと思う。
いやな夢ではない。
京都には三歳までいた。
四つ下の弟が昭和二十五年に大阪で生まれたからそんなもんだ。
昭和二十四年の夏に、京都から大阪に引っ越してきたのではなかったか。
京都について覚えているのは二つの風景である。どちらも夜である。
一つは、悪戯坊主に連れ回されたこと。
橙色に輝く市電の灯りを覚えている。
「帰ってきいひん」と大騒ぎになったらしいから、他のことは後から聞いたことが記憶になっているのかもしれない。
街は橙色の灯りの中にあった。
順平を連れ回した悪戯っ子はなんやかやと順平の世話を焼いてくれた。
大人達が心配した暴力なんかはなかった。
――ぼん、今度は市電に乗せたげる。また一緒に遊ぼな。ほな帰ろか。
もう一つは路地。
モールを作っている工場が家の前にあった。
沢山の人が働いていて、色々な色のモールが路地にはみ出し、路地の灯りにキラキラ光っていた。そこも橙色の光が満ちていた。
その店の従業員に可愛がられた。
肩車をしてもらった。
大阪に来てからも、一度順平に会いに来た。
パチンコに連れて行かれた。
顔も名前も覚えていない。
若い人だったのか、老人だったのかも定かではない。
二つの記憶の共通するのは、橙色の灯りである。京都の空気が橙色だった。
京都の思い出は橙色の光に閉じ込められて順平の中にある。
それは確かだ。
その他は何もない。
何故京都の夢なんか見ているのだろう。
目が覚めれば何も覚えていない。
何故?
ここで生まれたからだ。
連載小説「Q」第一部をまとめました。
これは夢なのだ。
順平は京都にいる。
生まれたところだ。
橙色(だいだいいろ)の光に満ちている。
色のついた夢は珍しい。
市電がやって来る。
――ぼん、今度は市電に乗せたげる。また一緒に遊ぼな。ほな帰ろか。
子供と手をつないでいる。
男の子だと思う。
いやな夢ではない。
京都には三歳までいた。
四つ下の弟が昭和二十五年に大阪で生まれたからそんなもんだ。
昭和二十四年の夏に、京都から大阪に引っ越してきたのではなかったか。
京都について覚えているのは二つの風景である。どちらも夜である。
一つは、悪戯坊主に連れ回されたこと。
橙色に輝く市電の灯りを覚えている。
「帰ってきいひん」と大騒ぎになったらしいから、他のことは後から聞いたことが記憶になっているのかもしれない。
街は橙色の灯りの中にあった。
順平を連れ回した悪戯っ子はなんやかやと順平の世話を焼いてくれた。
大人達が心配した暴力なんかはなかった。
――ぼん、今度は市電に乗せたげる。また一緒に遊ぼな。ほな帰ろか。
もう一つは路地。
モールを作っている工場が家の前にあった。
沢山の人が働いていて、色々な色のモールが路地にはみ出し、路地の灯りにキラキラ光っていた。そこも橙色の光が満ちていた。
その店の従業員に可愛がられた。
肩車をしてもらった。
大阪に来てからも、一度順平に会いに来た。
パチンコに連れて行かれた。
顔も名前も覚えていない。
若い人だったのか、老人だったのかも定かではない。
二つの記憶の共通するのは、橙色の灯りである。京都の空気が橙色だった。
京都の思い出は橙色の光に閉じ込められて順平の中にある。
それは確かだ。
その他は何もない。
何故京都の夢なんか見ているのだろう。
目が覚めれば何も覚えていない。
何故?
ここで生まれたからだ。
連載小説「Q」第一部をまとめました。