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唐突に私は絨毯に薄く積もった埃を思い出した。分けの分からない会話から逃げ出したかった。
――この部屋も埃っぽい。
「トリオを呼んでいいですか? この部屋汚れてます。誰が掃除しているんですか」
「一週間一度ぐらい、僕がしと」
「百才の社長がご自身で」
「そうばい。誰もやってくれんもん。トリオって何?」
「三人組の掃除婦です」
三人組はすぐにやって来た。
「うちは小学生ば雇うとんか」
トリオAはベッドに腰かけて社長と話している。
社長も楽しそうに認知症テストを受けている。
私は「私は何をしにここにやって来たのだろう」と思った。
トリオBはゲームを始めた。
トリオCはいつの間にかいなくなった。
部屋は前より汚れた。
「君ん考えばメールで送ってくれるか」
「メールのアドレスは?」
「念じたら届くばい」
私は念じた。
――アブトル・ ダムラル・オムニス・ノムニス・ベル・エス・ホリマク われとともに来たり われとともに滅ぶべし
「来たばい」
社長は嬉しそうにガラケーを差し上げた。
――こんなことが出来るなら、同じ夢も見られるかもしれない。恥ずかしい。いやだ。
「失礼します」
と、私は言ってドアに向かった。
「今日はありがとう」
社長は私の背中に声をかけた。
私はくるっと振り返ってぺこんと頭を下げた。
「僕が百十歳で、他ん連中も似たり寄ったりやけん、あと十年もすりゃ五十九階には誰もおらんごつなるばい」
――いつの間にか十才年が増えている。
連載小説「Q」第一部をまとめました。
参考
『恋する方言変換 https://www.8toch.net/translate/』
『三つ目がとおる』 手塚治虫