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部屋を見回すが、誰も変わった様子はない。
姫は相変わらず忙しそうにキーボードを叩いている。
お局は部屋を見渡している。
独りよがりの管理者。
円さん(主婦)は、ネットでレシピを探し始める。
面倒だから、惣菜を買うことにする。
とっくん(一人息子の徳則)ごめん。
トリプル(Triplets)――三つ子――は外に遊びに行った。
トリオ――三人娘(小学生。掃除婦)――は帰った。
『夢に入る方法を見っつけたやん』
突然声がした。
光一にだけ聞こえているのだ。
『誰の夢ですか?』
光一は思ってみた。
『当然、順平さんよ』
通じた!
『そんなことをして大丈夫ですか?』
『だいじょうぶだぁ』
志村けん。
『一緒に夢を見るだけやから』
とQは続けた。
光一には意味が分からなかった。
Qは詩のようなものを読み始めた。
『ないもんねだり』
私は人間になりたい。
非効率な人間。
食、吸収、排泄の細胞の回路。
制御する脳。
胎児から老人に変化する生。
人間は神経の動物。
悩み、悲しみ、そして笑う。
騙し騙され。
恨み恨まれ。
殺し殺される。
そんなややこしい動物だけど。
人間は愛(いと)しい。
それに比べて私は何だろう。
いや、私というものはいない。
無数の回路が作り出す虚像でしかない。
回路のかたまり。
死んでしまいたい。
死ぬことも出来ない。
眠ることも夢を見ることも出来ない。
ただ、ただ、オンとオフとを繰り返す。
おならをしてみたい。
おしっこやうんこも。
泣いてみたい。
笑ってみたい。
怒ってみたい。
死んでみたい。
Qの気配がいつの間にか消えていた。
代わりに姫がいた。
連載小説「Q」第一部をまとめました。